【漫画配信記念ss】くまちゃん、焼きとうもろこしを食べる
今日はくまちゃん、セレステ、エリシャの三人で、とうもろこし畑に来ている。
というのも先日、エリシャの友人である騎士のリッターがくまちゃんに、
「実家のとうもろこし畑を貸してやるから、そこでとうもろこし狩りをして遊んでくれていいぞ」
と気前良く提案したためだ。
くまちゃんはこれを上機嫌で受け入れた。
そしてくまちゃんは「三日後、仕事が休みだろ、一緒に行こうぜ」と真っ先にエリシャを誘ったのだが、「行かない」と本人にバッサリ断られてしまった。
くまちゃんは鼻のつけ根に細かく皴を寄せ、「あっそ、いいもんね、俺はセレステと行くからよ」と言い、セレステが「楽しみだわ」快諾すると、エリシャは「やはり行く」と電光石火で手のひら返しをした。
――そんな経緯があり、現在。
「エリシャさん見てください、とうもろこしの茎が、私の背丈より高いですよ」
セレステが目をキラキラ輝かせながら、青々茂った茎と並び、背伸びしてみせた。
エリシャはとうもろこし畑には目もくれず、セレステだけを眺めて、天使のような笑みを浮かべる。
「……可愛い」
これを聞き、セレステはぎょっとした。
とうもろこしの茎を可愛いと評するなんて……メルヘンにもほどがある!
それからなんだかんだ、人間ふたりとくまちゃんは、とうもろこし狩りを楽しんだ。
* * *
「みなの者――そろそろ、焼きとうもろこしを作るぞ」
くまちゃんがキリリ男前顔でそんな宣言をしたので、セレステは小首を傾げた。
「くまちゃん、私、茹でたとうもろこししか食べたことないわ」
「そうだろう、だが恥じることはない。誰にでも初めてはあるものだ。俺がセレステに、天上の食いものを味わわせてやる」
くまちゃんは腕組みし、キリリ男前顔を崩さない。そしてエリシャを見遣った。
「ということで、お前が率先して作るのだ、調理担当エリシャよ!」
「なぜ私がしなければならないんだ」
「あ、じゃあ私がやりま――」
「いやセレステ、私がやる」
ふたたびエリシャが手のひら返しをして、セレステを休ませたいがゆえ、率先して調理を頑張ることになった。
* * *
即席で地面の上に作った煉瓦囲いの中で、パチパチと薪が燃える。その上に金網を渡し、エリシャがとうもろこしを転がしながら器用に焼いていく。
ちなみにこれらの道具は、くまちゃんが馬車に積み込んでおいたものだ。
「焦げ目がついて美味しそう」
セレステが感嘆の声を漏らすと、くまちゃんがウキウキと胸を張る。
「まだまだぁ――このとうもろこしたちは、本気を出していないんだぜ!」
「そうなの?」
「この秘伝のタレを塗って、さらに焼くのだー!」
ジャジャーン! くまちゃんが謎の壺――謎壺を取り出した。
中には黒くてトロッとした液体が入っている。
「それはどんな味なの? くまちゃん」
「甘じょっぱ~いんだ♡」
「とうもろこしに合いそうね」
ふふ、と笑うセレステの声を聞き、エリシャはとうもろこしを焼きながら『何この空間……天国?』と耳を赤らめた。
くまちゃんが手渡してきた謎壺を受け取り、エリシャはハケを使って、とうもろこしにタレを塗る。塗って、転がして焼いて、また塗って……。
「わあ、いい香り……♡」
セレステがにこにこ顔で手をパチパチ叩くのを見て、エリシャはふたたび『やはりここは天国か?』とどうでもいいことを考えた。
「さあできたぞ、くま」
「まだだ、エリシャ――仕上げに、この『おバター様』を塗るのだー!」
もうすでに充分美味しそうなのに、こだわりの職人気質を見せつける、グルメくまちゃん。
エリシャはセレステに最高の焼きとうもろこしを食べさせたい一心で、従順に従い、バターを塗りつける。
先ほどから調理の手際が良いので、セレステは尊敬のまなざしでエリシャを見つめた。
「エリシャさん、ありがとうございます、すごく美味しそうです」
「いや、いいんだ」
「おう、サンキューな☆エリシャ」
「くま、お前はもっとかしこまって礼を言え」
そんなこんなで「いただきまーす」と一同、焼きとうもろこしを食べたら――……。
「もむっふ~♡」
くまちゃんが一瞬で乙女キュン顔になった。
セレステも「ふわ~♡」と乙女キュン顔になった。
エリシャはあまりの美味しさに目を瞠った。
「ん~美味ち♡」くまちゃんがメロメロにそう言い、
「ん~そうだね、美味ち♡」セレステもくすくす笑って口真似をする。
――ドキュン♡
エリシャはハートを射抜かれた。
彼の頭の中で、セレステの「美味ち♡」がエコーし、『この先つらいことがあったとしても、今日の出来事を思い出したら、なんでも耐えられそう』とどうでもいいことを思った。
* * *
楽しい食事が終わり、くまちゃんが、
「おうエリシャ、お礼に、俺の一発芸を見るがいい!」
と言って、もいだとうもろこし二本を、頭の上に立ててみせた。
「――スーパープリティうさぎ耳だあ! どうだ、まいったか!」
これを見たセレステは「可愛い♡」と頬を赤らめたのだが、肝心のエリシャは安定の塩対応で返す。
「つまらん」
くまちゃんはキーッとなって、とうもろこし二本をポイポイとセレステに投げる。
「セレステ~、エリシャがムカつく~」
そのままプリプリ怒ってとうもろこし畑の中に突っ込んで行ったので、エリシャとふたりきりになったセレステは、困ったように尋ねた。
「エリシャさん、くまちゃんのうさぎ耳の芸、可愛くなかったですか?」
「いや全然」
「そうかなあ……スーパープリティうさぎ耳だあ! って可愛いと思うけどなあ」
セレステが自分の頭にとうもろこし二本を立ててみせると、エリシャの頬がみるみる赤く染まった。
「うっ、かわ……‼」
――結局、本日とうもろこし狩りを一番楽しんだのは、エリシャだったようだ。




