第四話 慌ただしい就任式
「それじゃあ、自分は先に荷物を下ろしてきますね」
「手伝おうか?」
「いや、うちの隊員を....あっ...今日は当番か」
「手伝おう」
アレンは早速袖を捲り上げ、荷物をグレンと共に下ろし始めた。
「隊長!お帰りなさい!」
「あれ?お前ら今日は見張り番じゃ?」
「隊長がチェロから帰ってくると聞いて、〈黒灯〉の奴らに変わってもらいました」
「えと、隊長…そちらの方は?」
「初めまして、俺はアレンだ。ラプリッツの街の復興の手伝いが出来ないかと思ってな」
「あっそうだ、レティシアさんを呼んできてくれ」
「分かりました」
「グレン、そのレティシアさんってのは?」
「ここの指揮官だよ。領主が暗殺されて、結構ドタバタしてた時期に、俺達を指揮して魔物の襲撃を撃退したり、議会に直接意見をして俺達のために復興資金を確保したり、姉さんみたいな人だ」
「凄い人だな」
「元々このラプリッツ生まれで、小さい頃からこの砦で兵士として働いていたらしい。マジで叩き上げのすごい人だよ」
「グレン!お帰りなさい!道中何もなかった?」
声がした方を見てみると、そこには軽鎧を着た精悍な女性がこちらへ早足で歩いて来た。整った顔立ちに金色の短いポニーテール。少し日焼けした肌に引き締まった体つき。腰には使い込んだであろうレイピアを装備しており、グレンに話しかける声はハキハキしてるものの、彼女の両眼の下の隈は仕事の量を物語っていた。
「またいっぱい持って帰ってきたわね、ナイスよグレン、ん?」
「初めまして、レティシアさん、アレンだ」
「アレン?初めまして、貴方は何をしに来たの?」
「ちょ、レティシアさん」
「冷やかしなら結構よ、こちとら毎日死ぬ気で仕事してるの」
「....レティシア、さん?話が出来る場所に行かないか?」
何やら剣呑な雰囲気になってきたので、魔法袋からルクス王家の蝋印が施された紙を取り出して彼女に見えるようにかざした。
「.....ついてきなさい」
有無を言わさない雰囲気のまま、彼女が背を向けてすたすたと歩き出したので、大人しく彼女の後に続く。しばらく歩いていると、何度も補修が施された砦が見えてきた。恐らくこの砦が〈ラプリッツ砦〉、そして砦を含む街全域が〈ズデーテン領〉なのだろう。そう考えると、このズデーテン領は四方に大きく深く茂げた森や綺麗な河川、大規模な畑に向いた平原や未開拓の鉱山など資源豊かな地域であるにも関わらず、ほとんど手を付けていない様子だった。
砦の中に入ってみると思いのほか広く、物資倉庫や食堂、兵士寮、執務室、更には鍛冶をするスペースや防衛用の兵器庫と防衛用の巨大兵器バリスタなどなど、必要な物が結構そろっていた。
「入ってらっしゃい」
〈執務室〉のプレートが飾られた扉を開けると、中には山積みの書類、メモだらけの木製ボード、さらにはズデーテン領とその周辺を詳細に書き記した地域地図と世界地図も飾られていた。
「それで、あんたは何しにやってきたの?」
「これを読んでくれた方が早いだろう、開けてみてくれ」
「....」
レティはアレンから勅命の書かれた羊皮紙を受け取ると、躊躇い無く蝋封を切って中身を読み始めた。
「....そう、貴方が新しい領主様なのね」
「そうだ」
「勅命なら仕方ないわ、私も聞き分けのない人じゃない」
「助かる」
「それで、男爵様はこれからここをどうするつもりなの?」
「レティシア、今までは君がこの〈ラプリッツ砦〉、引いてはこの〈ズデーテン領〉を統括していたのは見て分かる。だから俺は君の立場を奪うつもりはない」
「...そう」
彼女の立場を奪うつもりはないというと、少しだけ険しい彼女の眉間が和らいだ気がする。
「だが領主になるからには権利を振りかざすつもりも、悪徳課税をするつもりもない。自分の領地になるわけだ、ズデーテンにはもっと発展してもらわないと俺も困る」
「なら領主様はどうするつもりで?」
「そうだな、まずはこの〈ラプリッツ砦〉と街の議会代表に俺の事を知ってもらいたい」
「正気?前任が暗殺されたばかりよ?スパイのあぶり出しに割く時間も資金もないわよ?」
「構わない、これでも元騎士だ。護身くらいはできるつもりだ」
「そう....あんたの事庇ってやんないんだから」
べーっと舌を出す彼女、結構彼女とは打ち解けたした気がする。
「それじゃあ、まずは現状k...」
「レティシアさん!すいません!〈黒灯〉より通達、魔物の襲撃です!」
「すぐ行くわ、あんたもついてきて」
「分かった」
部屋の外から慌てた声がする。どうやら敵襲、それも魔物の襲撃のようだ。レティシアと共に執務室を飛び出し、急いで兵士達と共に砦の上、見張り台へと駆け上がっていく。
「〈レイン〉〈サラ〉、どんな状況?」
「ランクD〈濁流兵〉と〈 腐肉兵〉を確認した。数は未だ増え続けている」
「双眼鏡はある?」
レティは近くにいた見張りの兵士から双眼鏡を受け取ると、自ら魔物の出現方向を注視した。
「レティシア、俺も見ていいか?」
「....はい」
アレンはレティシアから双眼鏡を受け取ると、周囲の人にバレない様に、まずは双眼鏡を目に当ててから〈魔眼〉を発動する。
「.....(中規模な〈魔力脈〉が3つ、だが最終的には全て砦の正面に集結しているのか...〈噴出〉した〈節点〉は2つ、そこから魔物が出現しているのか....だが一般的な噴出だ、〈節点杭〉を打ち込めば収まるだろう)」
「もう良い?」
「...ああ、これからどうする?」
「そうね、あんたは何が出来る?元騎士様だから、やっぱり〈騎兵〉?」
「どちらかと言うと指揮官だな」
「そう、じゃあ私は」
「いや、一緒に居てほしい」
「えっ!?」
なぜか彼女の顔がすごく赤くなった。
「あっいやそう言う意味じゃなくて、いきなり俺が指示を出しても誰も聞かないだろうから、君が出したことにしてくれ」
「あっそう言う、分かったわ、じゃあ軽くだけ〈兵士〉の説明をするわ。うちには〈鉄杭〉〈風烈〉〈流杭〉〈黒灯〉〈雷火〉〈蒼祈〉〈灰燼〉とその他補給隊がいるわ。各部隊への指示は基本的に〈黒灯〉所属の彼女、〈サラ〉を通して行われるわ。そう言う魔法が使えるみたい」
「どなたか分かりませんが、よろしくお願いします」
「アレンだ、よろしく」
「それで、あんたはどうするつもり?」
「…仕事を始めよう」
再び双眼鏡を目に当て、〈魔眼〉を起動するアレン、軽く考えた後、彼は言葉を紡ぎ始めた。
レティシア「腕前を見せてもらおうかしら」




