第三話 東部ズデーテン領ラプリッツ
アレン「腰低くない?」
グレン「昔ひどい目にあったので」
アレン「....(触れないでおこう)」
翌日、シャルロッテ言われた場所にやって来たアレン・イージス。
「どうした兄ちゃん?あんたもズデーテンに行くのかい?」
「ああ、最近魔物の侵攻にあったと聞いてな、何か出来ないかと思って、復興に行きたい」
「そいつはありがてぇ、今日行くなら、後ろの荷台はもう空いてないから、俺の隣に座ることになるが、それでも良いか?」
「ああ、構わないよ、馬車を走らせた事もある。疲れたら俺が変わろう」
「助かるぜ、それじゃあ1時間後にまたここに来てくれ、俺は荷物の積み込みが終わったら適当に腹拵えをしてくる」
「分かった」
アレンは同じくズデーテン領へ向かう御者の言う通り、まずはチェロの街で食材やその他復興に必要そうな物資を買い込む事にした。大量には買い込めないが、自分の領地になるわけだし、少しでも力を貸したいのは本音だった。
1時間後、買い物を終え、再び指定の場所に戻って来たアレンは、身を翻して軽快に御者席に飛び乗り、ズデーテン領最大の都市、〈ラプリッツ〉へ走り始めた。
「荷物が結構多くて、あんまり早く走らせられないんだ。何も無ければ数週間でたどり着くが、雨や魔物の襲撃があると数ヶ月かかるかもしれない」
「構わないよ、時間ならある」
「ほっ、そうだ、まだ自己紹介してなかったな。俺の名前は〈グレン〉、〈グレン・ラハルド〉だ。一応〈突撃槍兵〉を率いている」
「〈分隊長〉か」
「そうなるな、兄ちゃんは?」
「.....元〈騎士〉だ」
嘘は言っていない。
「騎士様!?そいつは失礼しました」
「身構えなくていい、気軽にアレンと呼んでくれ」
「わ、分かりました」
「それでアレンはどうしてズデーテン領へ?」
「?、確か先ほど伝えたはずだが」
「バカ言わないでくださいよ。元騎士様が本当に善意だけで魔物と帝国の襲撃に合う最前線の街へ?」
「……本当にそうだと言ったら?」
グレンはこちらの両眼を覗き込むようにじっと見つめてくる。ここで逸らしたりすると嘘をついていると思われるかもしれないので、負けじと彼の両眼をじっと見つめる。
「こいつは失礼しました。あんたが以前に街に来たような〈名誉騎士〉なら今すぐ馬車から蹴り落とそうとしてたもんでよ」
あっけらかんと笑いながらそういうグレン。名誉騎士とはまともな騎士学校に通わずに、金だけを王族は貴族院に渡して受勲されたお飾りの騎士様の事だ。アレンも数名会った事があるが、いちいち摘発していてはキリがないので、自分の仕事に関わらなければ特に取り締まるつもりもなかった。
そしてグレンの言う帝国、おそらく〈ヴァルディオン帝国〉の事だろう。ルクス王国に隣接する巨大国家の一つであり、軍人と暴力が国内を支配する独裁国家だと聞いている。
「これでもきちんとした〈騎士〉だ。きちんと当代の国王に受勲されている」
自分の魔法袋からルクス王国王家の紋章が入った騎士メダルを見せる。
「〈王紋〉?もしや元〈宮廷騎士〉?」
「末席だけどな」
「おいおい、とんでもない人物じゃないですか、どうしてそんな良い仕事を辞めたんです?」
「残念ながらあまり戦闘は得意じゃなくてな、そのせいでクビになった」
「はいぃ?宮廷騎士様が戦闘出来ない?ご冗談を」
「本当だ、強力な魔法が使えなくてな…」
「は〜、騎士様に魔法威力を求めるなんて、お門違いも甚だしいと思いますけどね」
「全くその通りだよ」
2人は向かい合って苦笑すると、アレンはグレンにラプリッツの街について聞き始めた。
「グレン、ラプリッツに行くのは初めてなんだが、どんな街なんだ?」
「そうですね、まあ俺が言うのもなんですけど、小さい所ですよ、チェロの街のような音楽も無ければ、王都のような活気もない、日々魔物と帝国の兵士をなんとか撃退し続ける、ある意味死に行く街です」
「随分と悲観的だな」
「そうですね、先週領主が帝国のスパイに暗殺され、今は街の議会を通してなんとか運営していますけど、魔物の襲撃に山賊や盗賊に偽った帝国兵の略奪、街内部の腐敗に長期的な指揮者や領主がいないせいで、もうどうしようもないです」
「ズデーテンの領主が暗殺?そんな重大な事が…」
「そもそもこのズデーテン領が特殊で、初代のサー・ズデーテンが最前線にこのラプリッツ砦を築き上げ、その後方に村を作りあげたらしいです。なので、街があっての砦、ではなく砦ありきの街、と言うなんともあべこべな領地ですよ」
「砦から街が生まれたのか?」
「そうなりますね、砦で魔物を迎撃し、その魔物の死体をバラして近隣諸領に売って金にする。そしてその金で砦を増強したり、街を発展させたりと、そう言うわけです。近年はそもそも撃退も難しく、毎回数体の魔物が砦を突破して、街に被害を出しているわけですが…」
「そうだったんだな」
「なので今では収入は全て砦の修繕に当てており、街の人々も身の安全を危惧して次々と他の街へ向かっていき、本当に廃れていく一方です」
「結構大変なんだな」
「そうなんですよ…それに加えて」
堰を切ったように話し出すグレン。結構お喋りな所が彼にはあるのかもしれない。それから数週間、チェロの街を出て、長閑な平原を駆け抜けて、雨が降る事も急な魔物に襲われる事もなく、グレンが休憩がてら仮眠をとる時にはアレンが手綱を握り、〈魔眼〉を発動させて出来るだけ〈魔力脈〉の上を走らせて出来るだけ早く進んでいく。そんなこんなで平和に進んでいると、遠くに古びた街…むしろ廃墟のような場所が見えて来た。
「見えます?あの方向の廃墟みたいな…街なんですけど…」
「ああ、見えるよ…歴史的な街並みなんだな」
「気を使わんでください。ボロいだけです」
グレンが鞭を馬に入れる。そうして少し速度を上げて進んでいくと、あっという間に〈ラプリッツ〉の街の入り口に辿り着いた。
「グレン分隊長、お疲れ様です!」
「今日はミラか、様子はどうだ?」
「はっ!異変無しです!」
「レティシアさんはいるか?」
「執務室に居られると思われます」
「分かった」
「…そちらの方は?」
「彼はアレン、元騎士様で、ラプリッツの現状を聞いて駆けつけて来てくれた応援だ」
「…名誉k」
「宮廷騎士だよ」
「失礼しましたアレン様!ご協力誠に感謝いたします!」
「気軽にアレンと呼んでくれ」
「わかりました!」
「それじゃあまた後で」
グレンはミラと呼ばれた女性の〈弓兵〉に軽く手を振ると、再び鞭を入れて、彼女に開けてもらった城門をくぐり、ラプリッツの街へと馬を走らせた。




