第一話 追放って本気ですか?
「君には失望した。サー・イージス」
「……」
「今を持って君の王都主席防衛官の役職を解任、東部ズデーテン領で男爵として暫くゆっくりしてくれ」
「……承りました」
国王の執事に連れていかれるように、王の執務室を出る。
「王都防衛官のお勤めお疲れ様でした、サー。しばらくはズデーテンでごゆっくりとなさって下さい」
「……どうも」
休む間もなく、すぐに王城の入り口まで連れて来られる。同時に主席防衛官の証である王家の紋章が入ったペンダントを執事に返却する。それと引き換えに東部ズデーテンの領主としての正式な書類と何も刻まれていない男爵用のペンダントを渡された。
「それでは」
執事に見送られながら、俺は王都にある自宅へ向かい歩き始めた。
「クビ…か」
この世界に転生してから23年、必死に勉強をして騎士学校に入り、厳しい戦闘訓練と騎馬訓練、数多くの礼儀試験も合格し、若くして王都の防衛官としての仕事を始め、魔王軍や他国からの侵攻があるたびに自ら前線へ赴き、指揮官として戦果をあげ、数多くの勲章と戦果をあげたものの、優れた血統も、後ろ盾となる家名も、貴族院とのコネもなく、さらには強力な魔法が使えず、最低限の戦闘力しか無いため、ついにはクビになってしまったようだ。
「魔法が使えないわけじゃ無いんだけどな…」
生活に必要な最低限の魔力はあるし、生活魔法に分類される簡単な魔法は不自由なく使える。だが初級魔法の威力は著しく低く、攻撃力は無いに等しい。それもこれも…
「この〈魔眼〉のせいだよな…」
瞼を閉じて、いつものように両眼に魔力を集中させ、じんわりと暖かくなるのを感じる。そうして再び瞼を開けると、イージスの両瞳には金色の魔法陣のような紋様が浮かび上がっていた。
いつからこの能力を手に入れたかは憶えていないが、生活魔法を覚える際に偶然魔力を両眼に流した際に発見した能力だ。対象を石化させるとか、相手のステータスが見えるとか、そういった強力な効果は無いが、この世界に流れる魔力の流れ、〈魔力脈〉がはっきりと確認できる。
そのおかげで、魔物の侵攻ルートがはっきりと認識できるし、魔力脈の主流脈や支流脈に沿って兵士や騎士を配置する事で、数多くの魔物や敵国の撃退に成功している。
「流石王都だ」
ここ、ルクス=アステリア王国は巨大な魔力脈が無数に重なり合っており、世界最大の魔力節点の上に建てられている。そのおかげで魔力流量は他に類を見ないほど膨大であり、その恩恵から王都に住む人々は他国に比べて寿命が長かったり、IQが高かったり、魔力回復速度が高かったり、肉体的発達が良かったりなど、良いこと尽くしだ。そのせいでイージスも6年分の給料と無数の報奨金を使用して、王都の片隅に小さな家を購入したのである。
「まあ、それももうお別れだけどな」
意識的に瞬きをして魔眼への魔力供給を遮断する。いつもの副作用で少しい乾燥した両目を擦りながら、腰にぶら下げた小さな魔法袋に右手を入れ、家の鍵を取り出す。ぎぃと、少し古い玄関の扉を開け、長らく帰って来ていなかった、埃っぽい自宅に足を踏み入れた。
「ただいま」
返事をしてくれる人がいるわけもなく、身につけていた正装を脱ぎ、動きやすい私服に着替える。同時に魔法袋から通信用メダルを取り出し、この家を購入した時に連絡した仲介屋に連絡を入れた。
「はい、サー・イージス様、お久しぶりです」
「久しぶり、今から来れるか?」
「お呼びとあらば、10分お待ちください」
仲介屋が来るのを待ちつつ、棚に入れていた私物をまとめ始めた。肌着、仕事着、騎士鎧、社交界用の正装、狩用の革鎧、動きやすい私服などなど。ボーナスで買った特注の魔法ケースに一つする入れていく。仲の良い魔法使いに作ってもらった一品であり、ソファなどの巨大な家具を際限なく入れられる盗難防止措置もされた一級品だが、使うのは数年ぶりだ。
あらかた整理整頓が終わった頃、誰かが玄関の扉を叩いた。
「お久しぶりですサー、ご新居をお求めですか?」
「それもある。上がってくれ」
「失礼します」
ワンダー・コーポレーション。
ルクス王国指折りの不動産屋であり、同時に家具屋や武器屋、防具屋も営んでいる。
「東部ズデーテン領へ向かう事になった。そこでこの家を売ってあちらで家を買いたい」
「なんと、今度はどれほど長く?」
「ずっとだ。叙爵されてな。ズデーテン領の男爵になった」
「これはこれは、失礼しました。ロード・イージス」
「サーで良いよ。そっちの方が慣れてる」
「分かりましたサー。それでは少々お待ちください、調べてみますね」
仲介屋は持って来た鞄を開けると、パラパラと何やら魔法の書類を物凄い勢いで見始めた。数秒しかかかっておらず、紅茶を淹れようとキッチンに立って魔法でコンロに火をつけた時、
「申し訳ないサー、東部ズデーテン領は長年魔物の侵攻に晒されており、ワンダー・コーポレーションの管轄外です」
「そうか…」
「その代わりと言ってはなんですが、もしサーが領主として東部ズデーテンに長期滞在するならば、私の方から出店を本部に打診してみます」
「良いのか?」
「勿論です。サーの実力は誰よりも理解しておりますので」
「ありがとう、それでこの家は」
「そうですね、保存環境も良いですし、少し埃っぽいですがそれは掃除屋を入れれば特に問題ありませんし、家具の保存状態も非常に良いので、購入時の80%のお値段で買い戻しさせていただきましょう」
「良いのか?」
「勿論です。東部ズデーテンでお力になれず、申し訳ない」
「構わないよ、明日出ていくから…」
「こちら売却に必要な書類になります」
「話が早くて助かるよ」
数枚の書類に魔法ペンでサインをする。すぐに彼はカバンから大量の金貨が入った魔法袋を取り出した。俺もそれに合わせるように自分の魔法袋を腰から外すと、コツンと袋同時をぶつけた。これで金貨の受け取りは完了した。
「サー、明日何時に出発するのですか?」
「朝早く、8時の馬車に乗る予定だ」
「分かりました。ではワンダー・コーポレーションを代表してサーのためにいくつか必要になりそうな物を午後にまとめてこちらにお送りいたします」
「至れり尽くせりだな」
「私としましては、サーが東部ズデーテンと言う、未開領の領主になる事で、我が社にとって膨大な利益が得られると確信しています。何かあれば、いつでも私にご連絡ください」
「分かった。紅茶、飲むか?」
「…失礼、次の仕事がありますので、気持ちだけ頂戴いたしますサー」
「そうか、それじゃあまた」
「はい、新天地でのご活躍、期待してますよ」
「頑張るよ」
「ではこれで」
ワンダー・コーポレーションのオジェは、会社のロゴが入ったハットを優雅に取ると、綺麗にお辞儀をした。俺も丁寧に礼をし、自宅を出る彼を見送った。
オジェ「王都主席防衛官が左遷?私も引っ越しましょうかね…」




