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65. 緊張のティータイム

「……それで、葡萄の芽を使って、どうされたいのですか。まさか、実は食べられました、だけではないのでしょう?」



 レミーの鋭い突っ込みに、僕はさすがだなと頬を掻く。


 前世の日本は、昔から木の葉や草をお茶に加工して飲んでいた。チャノキ、柿の葉、びわの葉、桑の葉と、その種類は豊富だった。珍しいものだと、杉や檜、もみじのお茶もあったはずだ。



(そういえば前世の母は、柿の葉茶が健康に良いって言って、毎日飲んでたな……)



 今世だって、エキナセアやカモミールの薬草茶を飲んでいる地域があると、セージビルの図書館で読んで知っていた。

 なら、食用できるとわかった葡萄の芽だって、お茶にできるのではないか? そう考えたのだ。



「葡萄の芽をお茶にですか?」

「うん。それで、そのお茶の試作を、ヴァレー家からの仕事として、正式にレオンさんにお願いできないかと思って」

「レオンさん。ああ。発酵スキルですか。そうは言っても、詳しいお茶の製法まではわかりませんよ」

「それはなんとかなると思う。……ちょっと見てて」



 今世の紅茶は高級品で、遠い異国からわざわざ取り寄せている。

 鑑定スキルがある以上、発酵を経て作られたものだということは普通に知られているけれど、詳しい製法までは伝わっていなかった。

 それを僕がなんとかなるかも、なんて言うものだから、レミーは訳がわからないという表情を浮かべていた。



(僕だって、詳しい工程を覚えているわけじゃないけれど)



 発酵の有無や発酵具合によって、出来上がるお茶がまったく違うことや、手もみという工程が必要なことはうっすらと覚えていた。

 先ほど取り出した葡萄の芽は食べ切ってしまったので、もうざる一枚分ほど収納(ストレージ)から取り出す。

 こればかりは、実際にやって見ないとわからない。


 本当は天日干しの方が良いと思うけれど、まずはお試しだ。右手をかざして、葡萄の芽に生活魔法の乾燥(ドライ)をかける。

 早送り映像のように、葡萄の芽がだんだんと萎れ、縮んで、かさかさに乾いていく。色も、綺麗な緑から黒に近い緑に変わっていった。



「鑑定」



 名前:葡萄の新芽茶

 状態:可

 説明:飲用可。乾燥させた葡萄の新芽。体に良い成分を豊富に含んでいる。乳幼児や妊婦も飲用できる。湿気やすいので保管に注意が必要。



「状態は、良から可に下がっているけれど。名前に『茶』がついて、説明が『飲用可』に変わっているから、一応、一番簡素なお茶はこれでできたはず」

「ほう」



 レミーは器用に片眉をあげ、静観してくれている。


 できたばかりのお茶を、さっそく紅茶用のティーポットで淹れてみる。

 淹れ方も、とりあえず紅茶と一緒だ。

 温めておいたポットに、スプーン二杯分の茶葉を入れる。そして、お湯を勢い良く注いで、蓋をして蒸らす。


 少し長めに抽出して、ゆっくりとカップに注ぐ。

 ふわっと昇った湯気とともに、優しいフルーティーな香りが鼻をくすぐった。



(この香り、僕けっこう好きかも)



 白磁のカップに最後の一滴まで注ぐと、淡い蜂蜜色のお茶は、目にも綺麗だった。


 レミーの前にもカップを置き、今回もまずは、僕から飲んでみる。

 息を吹きかけて冷ましながら(すす)る。口の中で少し転がすようにして味わってから、ごくりと飲み込んだ。


 やっぱり即席だからか、うまみの凝縮感がなくて薄く感じる。けれど、ほのかな甘みと酸味がして、後味がすっきりとしたお茶だった。



(おお〜! 良かった! ちゃんと飲めるお茶になってる!)



「薄いですが、悪くないですね。食後にさっぱりと飲めそうです。自家消費であれば、これでもお茶としては十分そうですが」

「これはスキルで乾燥させたけど、天日干しにしてから蒸したり、ワインみたいに発酵させると、もっと味や香りが良くなると思うんだよね」

「ふむ。ここまで見せられると、荒唐無稽(こうとうむけい)と頭ごなしに否定することもできませんね……」



 レミーは、腕を組み、顎に手をやって考え込んでいる。

 僕が厄介ごとを持ち込んでしまったせいで、今、ヴァレー家は人が足りなくて困っているくらいだ。

 そんな状況で、また新しいことを始めたいと言い出したのだから、今年は保留になってしまっても仕方ないと思っていた。



「……今年の葡萄の芽は捨てずに、そのまま天日干しにしてもらうように通達しましょう。最低限、乾燥してあれば飲用に耐えられることまではわかってますから。焼却の手間が省けますし、自家消費しても良いことにすれば、小作人たちからも文句は出ないはずです」

「! それって……」

「レオンさんについては、期間を区切って、手伝ってもらえないか打診してみましょう。発酵の試行と、粗々の作業工程が確立できれば御の字です。どちらにしろ、本格稼働は来年になりますが」

「レミー、ありがとう!」

「商機があると踏んだまでです。礼を言われるまでもありません。それに、結果が出ないようであればすぐに終いにしますから、そのおつもりでいてください」



 レミーは、澄ました顔でそう言う。

 初めは、スパルタだし、とっつきにくいし、無愛想だと思っていたけれど、慣れたいまでは気にならなくなっていた。

 むしろ、生粋の商人気質だとわかってからは、付き合いやすいとさえ感じつつあった。



(百聞は一見にしかず。実際に工程を見せて、食べて飲んでもらって、良かった!)



 最初の説得ができた嬉しさから、僕が密かにガッツポーズをしていると、カップを飲み干したレミーがさらに言った。



「……一体、ルイ様のその発想は、どこから来るんでしょうね」


(ぎくっ)


 不意をつかれて、僕はつい体を硬直させてしまった。



「か、鑑定とか、セージビルの図書館で読んだ本に書いてあったんだよ」

「……そういうことにしておいてあげましょう」



 僕が内心焦って答えたのを見透かすように、レミーは鼻で笑った。



(本当に鋭すぎる……!)



 勘の良いレミーに、最後の最後で鼻を明かされて、僕はたじたじだった。

※ 醸造用葡萄の葉を使ったお茶は実際にあります。

……が、現在は販売されていないようで、買うことができず、味等は完全に創作です。

また、お茶作りも本来はもっと工程が多く、手間暇かかるものですが、そこはファンタジー(ご都合主義とも言う)で書いています。

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