49. リュカ4歳の誕生月
【第3章のあらすじ】
ぎこちなくも、ヴァレーで祖父母との生活を始めたルイとリュカ。
ヴァレーは神々の祝福を受け、葡萄栽培やワインの醸造に情熱を捧げる地だった!
そんなヴァレーのワインは、熱狂的な人気を誇っている。
ルイは祖父に促され、成人までの2年間、経営・葡萄栽培・ワイン醸造の基本的な知識を、実地で学ぶことに。
慣れないことに日々奮闘するルイだが、ヴァレーを逃げ出した父の悪影響が、至るところに残っていた。
そんな悪影響に翻弄されつつ、父の幼馴染で葡萄農園の責任者のアヌークや、醸造所の責任者のレオンと、一悶着ありながらも交流を深めていくルイ。
季節がうつろう中で、葡萄の栽培や収穫、醸造、お祭り、冬支度などを1つ1つ経験し、時には葡萄樹喰いといったアクシデントやちょっぴり初恋の予感…?といった予想だにしなかった出来事も。
明るく勤勉な人々や、自然豊かな暮らしの中で、一回りも二周りも成長したルイ。
祖父と約束した2年は、あっという間に残り約1年となっていた──
「「「リュカ、4歳の誕生月おめでとう!!」」」
「ありあとうっ!」
年が明けて、今日はリュカの4歳の誕生月だ。
僕やおじいちゃん、おばあちゃんにお祝いしてもらったリュカが、にぱぁっと笑う。
リュカは幼児らしくぷくぷくしているが、首元や足がシュッと細くなって、少しお兄さんらしくなった。
それに、だんだんと自己主張や反抗もするようになっていた。
最近は特に、髪を切ることを拒否している。
「リュカ、髪の毛長くて邪魔でしょ?切らない?」
「や!」
と、そっぽを向いてしまう。
そうなると、無理に切ることもできず、伸ばしっぱなしになっている。
くるくるパーマなことも相まって、女の子みたいで可愛いくはあるのだけれど、顔にかかって邪魔そうにしている。
でも、切るのを嫌がるのだ。
仕方がないので、ハーフアップや一つに結んであげている。
そして、メロディアとお揃いのリボンをつけると、「めろちゃんと、おしょろい!」と万歳するので、まだまだそんなところは素直で可愛いかった。
リュカは、今日も食事の邪魔にならないようにハーフアップにして、瞳の色と同じ青のリボンをつけている。
テーブルの下で、餌を食べているメロディアとお揃いだ。
さっそく出されたお祝いの食事は、見事にリュカの大好きなメニューばかりで、調理人たちが張り切って作ったことがよくわかる。
サラダは、フォークで食べやすいサイズの温野菜サラダ。根菜や人参は、花の飾り切りになっていて、目にも美しい。
「おはな、かあいい!」
リュカはそう言うと、躊躇なく飾り切りから食べていた。
次は、丁寧に裏ごしした、かぼちゃのポタージュだった。
リュカはもはやスプーンを使わず、スープマグを両手に持って、ごくごく飲む。
ぷはーと満足気にしているが、口の周りにオレンジ色のおひげがくっきりついていた。
「ぶっ!げほっげほっ」
「う?にいに、だいどーぶ?こんこん?」
「げほっ。だ、大丈夫…」
僕は思わず笑ってしまって、スープが変なところに入ってしまった。
そんな僕を呆れたように見ながら、執事のティエリーがリュカの顔を拭ってくれていた。
そして、メインディッシュは……何と、お子様ランチだ!
これは、僕が調理長のグルマンドに作って欲しいと頼んだメニューだった。
誕生月のお祝いの食事は、本当は僕が作りたかった。
けれど、グルマンドをはじめ、調理人たちに「リュカ坊ちゃんの、ヴァレーで迎える初めての誕生月の料理は、我々にお任せください!」とせがまれてしまった。
仕方なく渋々諦めたが、やっぱりリュカの誕生月に僕が何もしないのは、落ち着かない。
そこで、リュカが好きそうなレシピをいくつか書いて、グルマンドに預けたのだ。
そんなことで出てきた、お子様ランチ。
一口にそう言っても色々種類はあるが、僕にとっては真ん中にでーんとオムライスが鎮座しているイメージが強かった。
でも、ここに米はない。
なので、代わりに麦をブイヨンで硬めに炊き、微塵切り野菜とトマトソースを入れて炒めて、卵で包んでいる。
そして、旗も忘れちゃいけない。
ちまちま小枝を削って楊枝を作り、葡萄の絞り汁でメロディアの顔を書いた紙をつけた。
僕に絵心はないけれど、絶対にリュカは喜んでくれると思って頑張った。
あとは、オムライスを囲むように、小さなハンバーグにマッシュポテト、にんじんのグラッセ、アスパラソテーを添えて、彩りもばっちりだ。
「めろちゃん!」
「にいにが書いたんだよ」
「!にいに、ありあとう〜!」
「どういたしまして」
この笑顔を見るためなら、ちょっとの苦労くらい、どうってことはない。
リュカは、さっそくフォークでハンバーグをぶすっと刺して、もりもり食べている。
「あーん。はぐはぐ……おいちい!」
「おお、それはよかった。いっぱい食べて、大きくなりなさい」
「あらあら、大きなお口だわ」
おじいちゃんとおばあちゃんは、そんなリュカを優しい目で見ていた。
家人たちも、みんなリュカを可愛がってくれていて、給仕をしながら顔を綻ばせていた。
最後のデザートは、あっさり軽いクレープだ。
ゆるめのパンケーキ生地を薄ーく焼いてもらって、ヤギ乳の生クリームと葡萄のジャムを挟んでいる。
本当は、スポンジケーキに蝋燭を立ててあげたかったが、残念ながら作り方がわからなかった。
僕にもっとお菓子作りの才能があれば。せめて、前世のレシピを覚えていれば……!と悔やんだものだ。
それでも、好物の葡萄ジャムたっぷりのクレープを食べて、ご機嫌なリュカが見られれば十分だった。
「これはガレットみたいだが、生地がしっとりしていて、好みの具や量を包めるのが良いな」
「そうですわね。ナイフとフォークでもいただけて、手を汚さなくてもいいのは嬉しいわ」
「ガレットと一緒で、サラダや肉を挟んで食べてもいいし、他の果物や蜂蜜なんかとも合うよ」
おじいちゃんとおばあちゃんも、ちょっとずつ包む具や量を変えて、2つ3つとペロリと食べている。
二人もクレープを気に入ってくれたみたいだった。
食事が終わると、準備していたプレゼントをそれぞれ手渡していく。
おじいちゃんがリュカに贈ったのは、木製の小剣と小盾のセットだった。
丁寧に角や先端が丸められていて、いかにも男の子が好きそうだ。
おばあちゃんからは、手編みの青の帽子とミトンのセット。
もこもこといかにも暖かそうで、この冬に大活躍してくれそうだ。
「じいじ、ばあば、ありあと!」
「「どういたしまして」」
リュカがお礼を言うと、おじいちゃんとおばあちゃんは目尻を下げて、にっこりした。
そうして、リュカは少し開けたところで、さっそく剣をぶんぶん振り回している。
(あれは……チャンバラして、家具を壊さないように気をつけないとだな)
僕はその様子を、ハラハラしながら見守った。
地味に高級そうな壺や花瓶が、部屋に飾られているのだ。気が気ではない。
兄の心を知らずに、リュカは最後に「えい、やー」をしたら、疲れたのか一丁前にふ〜と額を拭った。
そんな仕草、どこから覚えてくるのだろう?
そして、最後。僕からは──
「はい、リュカ。4歳の誕生月おめでとう」
「ありあとー!……?う?」
「メロディアと、芸の練習をしたいって言ってたでしょ?それに使う、おもちゃだよ」
リュカがこてんと首を傾げるのも、無理はない。
僕からのプレゼントは、大道芸の小道具セットだった。
輪っか、革製のボール、縄跳び。リュカとメロディアでも扱えるサイズ・軽さのものを、わざわざ細工職人に作ってもらったのだ。
「それと…リュカ、ちょっとこれをつけてみようか」
「?」
さらに、リュカにこれも特注したカチューシャと、ベルトをつける。
テイムのスキル持ちが魔法使いの格好をしていたのを僕は覚えていて、リュカなら絶対これだ!と思ったのだ。
その姿を見て、おじいちゃんとおばあちゃんは目を丸くしていた。
僕は、あまりの可愛さに、崩れ落ちそうだった。
カチューシャには、丸いお耳が2つ、付いている。
冬毛のメロディアと揃えて、ふわっふわの白の毛皮で作ってもらった。
ベルトにも、同じ毛皮で長めの尻尾がついている。
そう。そこには、ミンクリスを模したリュカがいた!
「〜〜〜!くっ!」
リュカはカチューシャの耳や、尻尾を触って不思議そうにしている。
肩に乗っているメロディアも、普段のリュカと違って落ち着かないのか、くるくると動き回っていた。
「……こほん。そのカチューシャとベルトで、リュカもメロディアになれるんだよ」
「めろちゃん?おしょろい?」
「そう、お揃いだよ」
お揃いが好きなリュカは単純で、それだけで喜んで抱きついてきたので、抱き上げる。
「にいに、ありあと〜」
「はは。リュカ、よく似合ってるよ」
リュカのもちもちのほっぺと合わせて、すりすりする。
腕に当たる尻尾が、少しくすぐったい。
リュカも、もう4歳。
だいぶ重くなってしまって、抱っこはそろそろ無理かもと思っていたが、この秋から冬にかけての農作業でついた、僕の上腕二頭筋が唸っている。
(まだまだ、抱っこできそうだな…。よし。そうとなれば…。筋トレ、頑張ろう…!)
なるべく長くリュカを抱っこできるように、僕の1年の目標が筋トレに決まった瞬間だった──




