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【書籍化】祖父母をたずねて家出兄弟二人旅  作者: 泉 きよらか
第3章 ヴァレーでの暮らし
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48. 葡萄の冬支度と年の終わり

 新酒祭りが終わると、クレメントさん初め旅の治療師たちや商人たちは足早にヴァレーを旅立って行った。

 自国に帰るもの、次の交易先に向かうもの、皆それぞれだ。


 特に商人がそうやって機敏に移動できるのも、生活魔法の収納(ストレージ)があるからこそだろう。

 ヴァレーで買い付けた樽詰めワインは、商人や従業員が収納し運ぶのだ。



 ダミアンさんも商談がうまく行ったようで、いつも以上に福々しい笑顔だった。

 そういえば新酒祭りで姿を見かけなかったなと思って話を聞いてみると、仲介が主催した招待制の会合で、年代物を試飲させてもらっていたらしい。


 ワイン商人を紹介してもらったことへの再三の感謝と、試飲したワインがいかに素晴らしかったのかを饒舌(じょうぜつ)に語っていた。



「ルイ。毎年は無理かもしれないが、私はまたヴァレーに来る。何か困ったことがあれば、頼ってくれて構わないからね。マルタン様がいれば、困ることはそうそうないとは思うが」

「ありがとうございます。また、手紙書きます」


「そうしてくれると嬉しい。ポリーヌがルイからの手紙を楽しみにしているからね」

「はい!」



 そうして、ダミアンさんもソル王国へと帰って行った。





 収穫も祭りも終わったので、醸造所(ワイナリー)は発酵したワインを搾り、樽に詰めて熟成させる。

 この作業が終われば、あとは時間の流れに任せれば良い。

 白ワインは3年、赤ワインは5年、地下に寝かせて美味しくなるのを待つそうだ。


 僕は葡萄栽培の作業も、てっきり一段落ついたものと思っていたのだけれど、そんなことはなかった。

 むしろ、これからが大詰めだったのだ。


 葡萄の樹は、収穫が終わると葉がついたまま放置される。


 葉はゆっくりと黄色に紅葉して、寒くなると一気に落ちて丸裸になる。

 それと同時に、今年新しく成長した芽が緑色から褐色に変わるのだ。


 それが、葡萄の樹が良い状態で休眠に入った証だった。



(こんな枝と幹だけの状態だと、枯れているようにしか見えないけれど)



 今年は葡萄木喰いがでてしまったので、収穫後に枝や葉の剪定をしている。

 早く発見できたお陰で必要最低限に留められたけれど、本来、休眠前の剪定は樹の成長を阻害したり、弱めてしまいかねない。


 最悪、枯れてしまう可能性もあった。


 だから、どうなるものかと心配していたのだけれど、なんとか良い状態で休眠を迎えられそうだと、ヌーヌおばさんはほっとした様子だった。


 引き続き、樹の様子には注意を払いつつ、急いで冬支度を進めていく。

 何せ時間との勝負だった。



 手が空いたレオンさんをはじめとした醸造所(ワイナリー)の職人たちも合流し、手分けして作業する。

 アネットの姿も見かけたが、どう接したらいいのかわからなくて、僕は当たり障りない挨拶を返すことしかできなかった。



(いまは恋愛とか考えられないしなあ…)



 そんなことを思いつつ、まずは寒さや霜から幹を守るために、樹と樹の間を真っ直ぐ馬に農具を引いてもらって耕し、根元に土を寄せる。

 それが終わったら、幹に藁を巻く。


 苗木や若木、古樹は冬を越すには弱いので、さらに念入りに根元にも敷きつける。


 僕も小作人たちに教わって作業を手伝ったのだが、何かと屈むことが多くて腰が痛くなった。

 それに、手もひどく(かじ)かみ、指が動かしづらくて困ってしまった。



(僕、農作業舐めてたな…)



 内心ぼやきつつ、身体中の痛みに耐えながら土寄せと藁巻きを終えると、最後は剪定だ。


 休眠に入った樹から、不要な枝を剪定していく。


 どの枝を剪定するかで今後の収穫量が変わってきてしまうそうで、ベテランの小作人たちが難しい顔で見極めながら切っていった。


 僕たちは、その切った枝を集める係だ。

 専用の小屋に運び、乾燥したら薪として使う。

 大変な作業だが、立派な資源なので無駄にできなかった。



 そうして、みんなの力を合わせて、何とか雪が積もる前に作業を終わらせることができた。

 あとはこのままにして、雪が降ったら樹を埋めてしまうらしい。

 あえて雪に埋めることで冷たい風を防ぎ、保温性をより高めるのだとか。



 作業の労いに、暖炉に火が入った作業小屋で、温かい飲み物と軽食が振る舞われる。

 大人はホットワイン、成人前の子どもはホット葡萄ジュースだ。


 ヌーヌおばさんや小作人たちとおしゃべりをしながら、カップを両手で包んでふーふーと息を吹きかけ、ゆっくりと啜る。



(あああ〜。最高!)



 その温かさと甘さは、どこまでも身体に染み渡るようだった。






 しばらくして、一段と気温が下がり、本格的に雪が降り始めた。

 リュカは朝早くから起きて、ずっと外を眺めている。


 外はすっかり白銀の世界だった。



「にいに、おしょと、まっちろ〜」

「クククー」

「雪が降ってるんだよ」

「ゆき?」

「ククー?」



 リュカとメロディアは、こてんと首を傾げている。

 こんな光景を見るのは生まれて初めてなので、わかっていないのも仕方ない。


 ちなみに、ミンクリスは冬眠をしないので、冬でも元気いっぱいだった。

 少し前に換毛期がきて、明るい栗色の夏毛から、真っ白の冬毛に変わっている。

 手触りも『ふわもふ』から『もっふもっふ』になって、マフラーのごとくリュカの首元を暖めていた。



「にいに、りゅー、おしょといきちゃい!」

「クククー!」


「うーん。風邪引いちゃうから、やむまではお外にいけないよ」

「えええ〜。め〜?」

「ククー?」



 そんなに揃って、おねだり顔で見ないでほしい。

 僕だって、「いいよ」と言ってあげたいのは山々なのだが、雪は結構な勢いで降っている。

 でも、しょんぼりしている1人と1匹を見るのは忍びなかった。



「…しょうがない。にいにが外から雪をもってきてあげるから、部屋の中で遊ぼうか」

「!あしょぶ−!」

「クククー!」



 僕はテラスから庭に出て、積もった綺麗な雪をさっと桶に入れ、部屋に持ち帰る。

 室内は暖かいからすぐに溶けてしまうけど、気分は楽しめるだろう。


 そうして持ち帰った雪に、ずぼっと勢い良く手を入れたリュカは、目をまんまるにして驚いた。



「にいに〜〜〜!おてて、いちゃいっ!!」

「ははは。リュカ、それはね。痛いじゃなくて冷たい、って言うんだよ」

「う?ちゅめたい?」



 リュカの冷えた手をさすって温めながら、僕は「冷たい」を教える。

 こうやって、リュカはまた1つ新しいことを経験し、覚えていく。


 ただ、僕が作ってあげたメロディアの雪像をうっかり握り潰してしまい、泣いてしまったのは想定外だったけれど。



「うえっ、め、めろちゃんのおかお、ぐちゃっ…うええええんっ」

「大丈夫、大丈夫。また作り直すから」

「にいに〜、ごめっちゃあいぃ、ひっく」

「あ〜よしよし」



(去年の今頃は、母さんやベルナールのことで頭を悩ませていたのに…)



 泣き喚くリュカをあやしながら、ふと1年前のことを考える。

 まだ1年しか経っていないはずなのに、ずいぶんと昔のことのようだった。


 今は祖父母や家人たちに見守られ、穏やかに日々を暮らしている。


 僕たちは暖かくて質の良い服に身を包み、美味しい食事にも事欠かない。

 リュカも、小柄ながらにすくすく成長して、まろやかなほっぺはいかにも健康そうだ。


 いつの間にか「ただいま」が当たり前になり、家ではほっとくつろげた。



 あの時、リュカを連れておじいちゃんたちの元に行くことを決めてよかった。

 今はそう胸を張って言える。



(慣れないことや、覚えることはまだたくさんあるけれど…)



 また、実り豊かな1年でありますように。



 そう願いながら、明るく温かい(・・・)冬を迎えられた幸せを、僕はいつまでも噛み締めていた。

続きます。

4章に入る前に、閑話が複数入る予定です。


活動報告「3章の終わりに寄せて」を書きました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 子育て中のお兄ちゃんに恋愛は難しいでしょうね。気分はお父さんなので。 毎回子連れデートになるとか、弟中心の話題になるとか普通の恋する女の子には無理でしょ…リュカを優先し過ぎて、弟と私どっちが…
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