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【書籍化】祖父母をたずねて家出兄弟二人旅  作者: 泉 きよらか
第3章 ヴァレーでの暮らし
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39. 収穫作業のご褒美は、採れたて葡萄の昼食

「……にいにー!にいにー!」


 お昼近くなって、おばあちゃんの侍女に手を引かれたリュカが僕を見つけて叫ぶ。

 そんな大きな声を出せたのかと驚くくらい、元気一杯な声だった。

 そして、繋いでいた手を離して、僕の方へ駆けてくる。


 ちょっと前までは、まだよちよちという表現が正しい走り方…というより良くて早歩きだったのに、今はしっかりと走っている。

 毎日よく食べ、よく遊び、よく寝ているおかげで、体幹がしっかりしてきたのだろう。


 リュカの後ろから、メロディアも走って追いかけてきているのが見える。


 僕は腰を下ろし、両手を広げて、飛び込んできたリュカを抱き上げた。

 メロディアも服を伝って、ちゃっかり僕の肩に乗っている。


 ああ。ここにもずしりと重くなった子がいる。生きている幸せの重みだ。

 抱きしめると、リュカは「きゃあ〜」と喜びをはじけさせる。少しだけ汗の匂いがした。






 祭壇があった場所は、朝とは打って変わって木のテーブルと椅子がずらっと並んでいる。

 テーブルには、山盛りのパンにホールチーズ、ミルクなどのポット、収穫した白葡萄や黒葡萄で作ったらしきジャムが用意されていた。


 収穫の手伝いに参加する人は多く、参加するタイミングや時間もまちまちだ。

 そのため、個別に給金が出しづらいので、代わりにヴァレー家から昼食を振る舞っているのだとおじいちゃんが言っていた。


 あたりには、有志が作った料理の良い匂いが漂っている。

 僕も朝が早かったし、畑を歩き回ったので、すごくお腹が空いていた。



「「ぐうううぅ」」



 僕とリュカのお腹が鳴った。



「あう…にいに、おなかしゅいた〜」

「ぷっ。そうだね。にいにもお腹空いたよ。ごはん食べようか」

「あいっ」



 小作人たちや、収穫を手伝っていた町人たちは、空いた席で思い思いに食べ始めている。

 笑い合い、乾杯をして、賑やかな喧騒だった。

 パンの皿は瞬く間になくなるが、すぐに補充される。


 僕たちもありがたくスープとマッシュポテトを受け取って、席についた。


 おじいちゃんとおばあちゃんは、さすがに経営者(オーナー)夫婦なだけあって、色々な人から声を掛けられている。

 料理に釘付けのリュカをこれ以上待たせるのもかわいそうなので、先に僕たちだけでいただいてしまおう。



「「いただきます(いたっきまーしゅ)」」



 パンは硬いフランスパンみたいなパンだったので、リュカにだけこっそり収納(ストレージ)からパンケーキを出してあげる。

 最近、料理を全然していないので、在庫がもうほとんどない。



(あ!あとでおじいちゃんかヌーヌおばさんに頼んで、葡萄を少し買わせてもらおう)



 僕の収納(ストレージ)なら、足が早い葡萄も保管できる。

 それで何か料理を作ってみるのも、面白いかもしれない。


 そんなことを考えつつ、リュカのパンケーキに白葡萄と黒葡萄のジャムをかけたり、チーズを切り分けてあげる。

 黒葡萄を絞ったジュースがあったので、それもコップに注いで渡してあげると、ぐびぐびとすごい勢いで飲み干してしまった。



「ぷはー。おいちい!もっとー!」



 目がきらっきらに輝いている。よっぽど美味しかったようだ。

 コップ半分くらいのおかわりをあげつつ、僕も飲んでみる。


 ごくり。


「……美味しい!」


 採れたての黒葡萄を絞ったジュースは、生で食べるのとはまた違って、濃厚で甘かった。

 これは確かにリュカが気に入るのもわかる。


 ジャムをパンにつけて食べてみる。これも、たまらなく美味しかった。

 多分、葡萄以外は何も入っていない。ただ葡萄を煮詰めただけのジャムだが、火が通ったことで酸味や渋みが和らいで、ぐっと甘く葡萄の美味しさが凝縮されていた。

 鼻を抜ける葡萄の香りは甘く華やかで、うっとりとした余韻がいつまでも続くようだった。


 リュカも、口周りやほっぺをジャムでベタベタにしながら、必死で食べている。


 パンだけ目に見えて山盛りで用意されているのが、よくわかる。

 これはパンとジャムさえあれば、もうほかはいらないくらいの、贅沢なご馳走だった。






 結局、葡萄で甘くなった口を、スープやマッシュポテトでリセットしながら、僕もリュカも本当にたくさん食べた。



(はあ〜。お腹一杯。幸せだ…)



 食べ終わった小作人や町人は、また作業に戻っていった。まだまだ収穫は続く。

 僕も葡萄畑をリュカにも見せてあげたかったので、腹ごなしがてら午後の作業を少し見ていくことにした。


 おじいちゃんがちょうどタイミング良く人垣から抜けてきたので、連れ立って歩く。

 僕とおじいちゃんの間で、手を繋いで歩くリュカは、とてもご機嫌だった。



 畑に着くと、リュカもメロディアもきょろきょろしている。

 ちょうどリュカの目線くらいに生っている葡萄が物珍しいようだ。



「にいに、こりぇ、なあに?」

「これは葡萄だよ。さっきリュカが食べたジャムやジュースは、この葡萄で作ったんだよ」

「ぶどう!りゅー、ぶどう、しゅき!」

「はは。そうだね。たくさん食べたもんね」

「ぶどう、たべちゃい!」



 あんなに昼食を食べたのに、リュカはまだ葡萄を食べたいようだ。

 その食欲には、驚きを通り越して苦笑してしまう。

 けれど、リュカに甘い自覚のある僕は、「ちょっとだけだよ」と言って、そのままでも美味しい黒葡萄を食べさせてあげてしまうのだ。


 その様子をリュカの肩で見ていたメロディアが、両手を合わせて僕をじっと見てくる。


「クククーン」

「めろちゃんも、たべちゃいの?」


 その鳴き声は、リュカに通訳してもらわなくても、何を言いたいのかわかった。

 というか、そんな目で見ないで欲しい。



(前世のCMで、こんなのがあったような……)



 仕方ないなあと、メロディアにもあげる。

 栗色の毛並みを紫に染めながら、美味しそうに食べている姿は、リュカみたいでかわいい。

 ペットは飼い主に似るというが、この様子を見ると納得してしまいそうだ。



「う?めろちゃん、たくしゃん?」



 僕がメロディアに葡萄をあげているのを見て、自分たちももらえると思った…のかは定かではないが、気がつくとミンクリスやネズミ、ウサギが数匹集まっていた。



「ぶどう、たべちゃい、ちょうだいって」

「……そう言ってるの?」

「あいっ」



 おじいちゃんも異変を察知したのか、こちらにやって来る。



「こやつらには葡萄を食べられてしまって難儀しているのだ。あげてはならん」

「おじいちゃん…」

「う?」

「リュカ、葡萄は食べちゃだめって言える?」



 まだリュカは3歳なのだ。幼児に動物たちとの意思疎通を頼むのは、難易度が高い。

 それでも、動物たちの声がわかる者は、今ここにはリュカしかいないのだ。



「にいに、あのね。むちしゃん」

「虫さん?」

「……何?虫だと?」

「しょー!むちしゃん。ぶどう、ないない、たべちゃい」



 僕には、リュカが何を伝えたいのかわからなかった。

 けれど、おじいちゃんには何か心当たりがあるようだ。



「ふむ…。リュカ、虫がどこにいるか聞けるか?内容によっては、葡萄をやっても良い」

「う?……むちしゃん、どこー?」



 そうリュカが言うと、動物たちがさっと走っていく。

 そして、ある葡萄の樹のそばでぴたっと立ち止まったのだ。

※ 2024/02/16(金) 0:05にサブタイトルを変更しました

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― 新着の感想 ―
[一言] 書き方が拙く誤った表現で誤解を招いてしまい申し訳ない。 蛇足の意味勘違いしてました。 後編で〆なはずなのに中途半端に区切られて続いているので中編とかにした方がいいかなとも感じました。
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