28. リュカの才能
「めろちゃん、おてて、たっちー!」
「ククー!」
「いいこ、いいこ」
「ちゅぎー、おしゅわりっ」
「クックー」
「めろちゃん、しゅごーい!」
舌たらずのリュカが、がんばってメロディアに芸を仕込んでいる。
監督・監修は僕だ。
3歳児と小動物の赤ちゃんがわちゃわちゃしている様子は、とてもかわいい。
正直、ミンクリスが芸をできるとは思っていなかったが、赤ちゃんながらも賢いメロディアはタッチ・お座りを覚えて、ほぼ100%できるようになった。
…ただし、リュカが言ったら、だ。
ぼくが同じことをしても、メロディアは無視する。
おそらく、リュカに才能があるからこそだろう。
それがわかったのは、メロディアを連れていくか、いま滞在している村に里子に出すか、野生に返すか、ドニたちと相談していたときのことだ。
普通であれば、馬車旅で生き物…それも生後1ヶ月前後の赤ちゃんを飼うなんて、無謀なことだとわかりきっていた。
餌や水分補給、トイレ、運動はどうする?もし病気になったら?
人間と違って、意思を伝えられないのだ。旅に連れていくのは、エゴではないか。
だからと言って、里子に出すのが最善かと言えば、それもまた違ったのだ。
ミンクリスは人懐っこくてペットとして人気のある動物なのだが、毛皮目的で捕獲されることもある動物なのだ。
明るい茶色のふわふわな毛皮は、高値で売れる。
ペットとして育てるには、手間もお金もかかる。この小さな村に里子に出すのは、不安があった。
そうしてどうしようか悩んでいたそのとき、リュカが言ったのだ。
「にいに、あかちゃん、おにゃかしゅいたの」
「…赤ちゃん、お腹が空いてるの?」
「うんっ」
リュカはメロディアのお腹が空いている・水を飲みたい・眠いといったことがわかるようで、教えてくれるようになったのだ。
(そういえば、アンデッドが赤ちゃんを助けて欲しいって言ってるってのも、リュカが言い出したんだよな…)
「…リュカは、ミンクリスの気持ちがわかるみたい。でも、そんなことあるのかな?スキルはないはずだよね?」
「うーむ。もしかしたら、リュカ坊ちゃんは才能があるのかもしれやせん。それなら説明がつきやす」
「才能?スキルじゃないの?」
「俺も詳しくないんですがね、一部のスキルは後付けと聞いたことがありやす。ルイ坊ちゃんで言うと、計算が得意…つまり才能があったから、計算スキルを授かったというやつでさあ」
「リュカだと、そもそも動物の気持ちがわかる才能があるってこと?」
「そうでさあ」
(スキルは因果なのか?じゃあ、僕の鑑定や生活魔法はどうなんだろう。…あとでテオドアさまに手紙で聞いてみようかな)
一瞬、スキルの体系が気になってしまったが、今はミンクリスの赤ちゃんをどうするかだ。
リュカは本当にミンクリスの赤ちゃんを可愛がっている。
赤ちゃんも、リュカがそばにいると安心するようで、目に見えて落ち着いた。
そんな1人と1匹を引き離すのは、気が引けたのだ。
「リュカ坊ちゃんの場合は、10歳の洗礼でテイムスキルを授かる可能性が高いと思いますぜ。テイムスキルは動物と意思疎通ができるとか」
「なるほど。確かに可能性はあるね」
「それに、テイムスキルには相性があって、人によっては犬系だけ、鳥類だけと聞きやす。リュカ坊ちゃんの才能が、もし小型かミンクリスと同じ系統に限定されるんでしたら、まずテイムスキルを授かると考えて間違いないかと思いますぜ」
「へえ!面白い!それは確かに、確かめてみてもいいかもね」
「どちらにしろ、リュカ坊ちゃんの才能があればしつけも世話も格段に楽になりやすから、連れて行くことは不可能ではないですぜ」
(そんなこと聞くと、ますます僕たちが引き取って育てるのが良い気がしてくる…)
「……うん。よし、決めた。僕たちで飼おう」
「へい」
「できるだけ、快適に過ごせるように準備しよう。それでも、どうしても赤ちゃんの負担になるようなら、その時はリュカに悪いけど、きちんとペットとして可愛がってくれる人を見つけるよ」
「わかりやした」
そうして、今のところ、順調にメロディアと一緒に旅ができている。
馬車はゆっくりと進んでいるが、それでも多少は揺れる。
この揺れを快適にできないかと、思いつきで小さなハンモックを取り付けてみたら、メロディアが気に入ってくれた。
ゆらんゆらんとヘソ天状態で揺られながら、1日の大半をハンモックで過ごしている。
くつろいでくれている分には問題ないのだが、その姿は野生を忘れてしまったかのようだ。
(ミンクリスって、ヘソ天になるのか…)
餌やりや水分補給は、リュカが教えてくれることが多く、こまめに馬車を止めてしている。
トイレは、馬車に固定したケージ内のスライムゼリーでするように躾けた。その都度、全力クリーンだ。
運動は、僕たちの休憩時間に合わせて水遊びや紐遊びをする。ひまがあれば芸も仕込む。
特に、ミンクリスは水遊びが好きらしく、1日1回、うるうるお目々で「クククー」とせがまれるのが恒例になってしまった。
ぼくが深めの大鍋に、ウォーターとヒートでぬるい温水を張ると、メロディアは嬉々として水飛沫をあげて泳ぎ出すのだ。
「めろちゃん、おみじゅ、どうじょー」
「ククー」
リュカも、とある村で買い求めた子ども用のじょうろで、メロディアに水をかけて遊んであげている。
そして、水浸しになるまでが、もはやお約束だった。




