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25. リュカの幼稚園?デビュー

 あの日、テオドアさまとの(ぼくにとっては)衝撃的な出会いの後、自分がどんな挨拶をしてその場を辞したのか、覚えていない。


 はっと気がついたら宿に帰っていて、怪獣のような大声で泣いていたリュカを抱っこしていた。

 案の定、リュカはお昼寝から起きていて、ぼくの姿が見えないとずっと泣き叫んでいたらしい。普段はチャラいチボーが、死んだような目で途方に暮れていたのが印象的だった。


「にいに、だめえ!りゅー、おいてっちゃ!」


 それからずっとリュカはぷんぷんと怒って、ことあるごとにそう言ってくる。

 それに、ぼくがどこに行くにしてもついてくるようになってしまった。かわいいが、小用にまでついてくるので困る。


(赤ちゃんの頃から側にいてくれたエミリーさんとお別れして、旅が始まって、ドニたちがいるようになって…。リュカにとっては慣れない環境なのに、ぼくがいなくてすごくさみしかったんだろうな。悪いことをしちゃった…)


 ちょっとだけなら側を離れても大丈夫と、好奇心を抑えられずに安易に判断してしまったことをぼくは後悔していた。

 なので、ここ数日はリュカと一緒に過ごし、いっぱい抱っこをして、「にいにはリュカが一番大切だよ、ずっとそばにいるよ」と伝え続けた。


 赤ちゃんの頃はあんなに小さかったのに今ではずっしりと重くて、いつまで抱っこできるかな、いつまで抱っこさせてくれるかな、なんて思いながら。


 そうやってたくさん甘やかしたおかげで、後追いもだいぶ良くなってきた気がする。



(…リュカが大切なことに嘘偽りはないけれど、とはいえ、正直そろそろ外に出て気分転換したいなあ)


 リュカの様子を見守りつつ、ぼくもずっと宿で大人しくしているのは飽きてしまうので、何かいい方法はないかとドニたちと話をしていた。


 そうしたところ、ドニが懇意の商会から良い話を聞いてきてくれた。

 なんでも、この地域の教会は、住民の子どもたちを預かって簡単な行儀作法や読み書きを教えたり、天気の良い日は敷地の庭で遊ばせてくれたりするのだとか。


 商会が特別に紹介状を書いてくれるとのことだったので、ぜひにとお願いする。きっと何か対価を要求されるのだろうが、そんなめんどくさいことは大人にぽいっと丸投げだ。






 そして今日、まずはお試しということで朝からお昼までの時間帯にお邪魔することになった。

 リュカだけではなく、ぼくも一緒で問題ないとのことで、本当にありがたい。


 案内されてたどり着いた教会は、レンガ造りのこじんまりとした建物だった。ただ、広い庭園は芝生になっていて、一角には畑もあった。冬なので少し茶色が混じるが、緑が多く、質素ながらも温かい雰囲気の教会だ。


 室内に入ると、数人の修道女(シスター)と、子どもたちがすでに集まっていた。

 床はふわふわの絨毯でたくさんのクッションが置かれていて、それぞれ自由に座っている。


 よちよち歩きの子から、ぼくくらいの年齢の子もいる。兄弟姉妹で来ていることも多いようで、上の子がころころと床に転がっている下の子の面倒をみていた。


 リュカは初めてこんなにたくさんの子どもと会うので、人見知りしてもじもじとぼくの後ろに隠れてしまっている。


(そういえば、王都は子どもが遊べるような場所なんてなかったし、身近に年の近い子もいなかったからな…)


 しばらくすると、柔和そうな年嵩の修道女(シスター)がみんなを呼び寄せて話始めた。


「さあ、みなさん。おはようございます。今日は初めましての子たちがいるので、ご挨拶しましょう」


 そうして、ぼくとリュカは促されて、簡単に自己紹介をすることになった。


「ルイです。13歳です。ヴァレーに行くために旅をしています。短い期間ですが、よろしくお願いします。それとこの子が弟で…さあ、リュカ、なんて言うんだっけ?」

「……りゅー、ちゃんちゃい、でしゅっ」


 リュカはぼくの後ろからひょっこりと顔を出して、なんとかご挨拶ができた。顔の横で、小さく右手の親指から中指を立てて「3歳」とアピールしているのがかわいい。

 昨夜、一緒に練習した成果がちゃんと発揮されていた。


「弟のリュカです。よろしくお願いします」


 挨拶が終わるとあちこちから「よろしくー」と返ってきて、特に小さい子たちは物珍しいのかきらきらした目でぼくたちをみていた。






 午前中は、修道女(シスター)たちと一緒に簡単な讃美歌を歌ったり、子ども向けの神話の読み聞かせがあったり、工作なんかを行った。

 歌や神話はぼくも小さい頃に教えてもらった覚えはあるのだが、あまりにもかすかな記憶なので、復習になった。


 室内学習は、大体はみんなで一緒のことをするみたいだが、ぼくと同じくらいの年の子たちは、修道女(シスター)から織物や刺繍を習っている子もいる。

 年代によって、基本的な行儀作法から職業訓練と、学べる内容に幅があるようだ。


 最初はぼくにしがみついていたリュカも、徐々に慣れていって、工作の時間は楽しそうに粘土遊びをしていた。


 しばらく室内で過ごしたあと、自由に外遊びして良い時間になった。今日は幸い天気が良いので、芝生で遊ぶのは気持ちが良さそうだ。


 小さな子たちを筆頭に、我先にと外へ出ていく。…が、一人だけ、リュカと同じくらいの年で、甘そうなキャラメル色の髪と目の女の子がこちらにやってきた。

 リュカの前で立ち止まって、ちょっともじもじと照れくさそうに、手を差し出す。


「あのねー、いっしょにあそぼ!」

「う?いっちょ?」

「うんっ!あそぼ!」

「…うんっ」


 リュカはちょっと迷いつつもぼくから離れ、女の子と仲良くお手々を繋いだと思ったら、わあーっと引っ張られて芝生で一緒に遊び始めた。


 走って追いかけたり追いかけられたりしていたかと思うと、虫でも見つけたのか一緒にしゃがみ込んで、芝生の草をぶちぶちと引っこ抜き始めたり。


(弟とその友達がかわいすぎて、尊い…!)


 リュカに、はじめての友達ができた。

 ずっとぼくにベッタリだったので、友達ができるのか心配をしていたのだが、きゃらきゃらと楽しそうな声をあげている様子にほっと安心する。


 兄離れは少しさみしいけれど、リュカの成長が嬉しかった。






 楽しい時間はあっという間で、外遊びの時間が終わり、みんなと昼食を食べてから宿に帰ってきた。


 宿に帰ってきてからも、リュカはお友達になったアリスちゃんとあんなことしたこんなことした、と楽しそうにドニたちにお話していた。


 そして、よっぽど教会で遊んだのが楽しかったようで、「りしゅと、あしょぶ」としきりに行きたがった。

 そのため、お試しは大成功ということで、正式に滞在期間中は週に2〜3日程度、教会に通うことが決まった。

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[一言] 今はいいけど、この街を離れるときにまたギャン泣きしそう。
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