表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/134

番外編 記憶のよすが 〜 ルイとリュカの母・サラ視点 〜

 晩の祈りの後。

 修道院長のシスター・マリアに呼び出された私は、そっと小包を手渡された。相変わらず、封はすでに解かれている。

 その差出人を確認して、私は息が止まりそうになった。



(ルイ……!)



 逸る気持ちを抑えながら、退室の挨拶をして、廊下を小走りで駆け抜ける。

 飛び込むように自室に戻ると、胸に掻き抱いた小包を、改めて丁寧に手に取った。


 ゆっくりと深呼吸をして呼吸を整えてから、紐を緩め、包み紙を破らないように開く。

 中身は一通の手紙と、小さな木箱だった。



(どちらから、開けようかしら……)



 迷って、私は手紙を開けることにした。

 先日、私が初めてルイとリュカ宛に送った、手紙への返信が書かれているはずだ。



(ああ。怖い……!)



 ぎゅっと目を(つむ)ったまま、手紙を開く。いつまでも、そうはしていられない。私は覚悟を決めて、薄目を開けた。

 真っ先に目に入った「ぼくもリュカも、かあさんからのお手がみを、すごくたのしみにまっています」の一文に励まされ、やっとしっかりと目を見開いて、最初から最後まで読む。


 学のない私でも読みやすいように、丁寧に優しく書かれた手紙だった。

 もう十五歳になる息子(ルイ)の気遣いが嬉しくて誇らしくて、私は涙が溢れて止まらない。


 手紙の隅には、小さな手形と足形が押されていた。もしかしてと思ったら、案の定、リュカのものだと手紙に書かれてあった。


 小さな、手足だ。

 そっとインクを(こす)らないように、私は自分の手を重ねてみる。

 リュカの手は、まだこの手の平にすっぽりと収まる。足は、私の手とちょうど同じくらい。



(リュカは、私似だから……。きっと少し小柄なのね)



 でも、別れ際に握った記憶の手より、ずっとずっと大きくなっている。

 思いがけない形で、四歳のリュカの成長を知ることができた。もうこれ以上の贅沢は、望むべくもない。


 そう思った気持ちは、木箱を開けた瞬間、あっさりと(くつがえ)された。


 小さなキャンバスに、繊細な白黒でルイとリュカが描かれている。記憶にあるよりも、成長している二人の姿だ。



(それもそうね……。もう離れて暮らすようになってから、二年近く経つもの……)



 ルイの頬に触れようとして、はっと気づいて手を引っ込めた。見るからに、インクで書かれた絵だ。素手ではとても(さわ)れない。

 せめて絵でいいから、()れたいのに、()れられない。もどかしい気持ちに、まるで祈りのように胸で手を組んだ。



(リュカは……ふふ。ほっぺがまんまるで、突いたらとても柔らかそうだわ)



 ルイが赤ちゃんの頃。可愛くて愛おしくて、頬を指先で突いては、昼寝の邪魔をしてしまったことを私は思い出す。

 あの柔らかさを、指先はまだ覚えている。



(ルイは、ますますあの人にそっくりになって……。あの人、体の大きな人だったから、きっとルイも大きくなるわ)



 小さな絵だろうと白黒だろうと、よくわかる。見るからに仲の良い兄弟だ。健康に、幸せに育っている。


 きっともう声変わりをしたルイと、舌足らずもなく喋るようになったリュカ。ずっと覚えていたかったのに、二人の声を忘れ、いよいよ顔すらも忘れてしまうのかと、私は思っていた。



(私の息子たちは、今こんな顔をしているのね……)



 幼かった思い出の二人の顔が、私の中で少し成長して、微笑みかけている。

 一つ願いが叶うと、もう一つ。もう二つと。欲張りになってしまう。


 会って、声が聞きたい。抱きしめたい。許されるなら、やっぱりその成長をずっと傍で見ていたい。



(そのために、私はあの子たちにとって、恥ずかしくないお母さんになりたい……!)



 弱いままの私では、いつかまた他人に流されてしまう。そして、不幸を誰かのせいにして、自分は何て可哀想なのだと、(ひた)るのが目に見えている。


 自分を変えられるのは、結局、自分しかいない。

 日々の静寂な祈りの中で、過去と向き合い、弱い自分を認めていくうちに、私はやっとそのことに気づいたのだ。


 目の前の、兄弟二人だけの小さな絵を飽きずに眺める。



(いつか。もし願いが叶ったら。その時は三人……ううん。あの人も入れて、四人家族の絵を描いてもらえるかしら)



 目尻からぽろりと溢れ落ちた、涙を(ぬぐ)う。

 ルイとリュカに、伝えたい気持ちはたくさんある。けれど、まずはたくさんの「ありがとう」を伝えよう。

 まだお手本のように滑らかではないけれど、それでもだいぶ上達してきた手跡(しゅせき)で、丁寧に。



 リュカの可愛い手形と足形つきの手紙を、ありがとう。

 素敵な兄弟の絵を、ありがとう。

 お母さんの息子に生まれてきてくれて、ありがとう、と。

■ お知らせ

・【4月17日(水)〜5月6日(月)まで】お休みをいただきます。本編の再開は、GW明け【5月7日(火)から】です。

・お休み期間中は、二〜三日に一回(不定期)、こぼれ話などのSSを投稿予定です。

(さらに詳しい内容は、お手数ですが作者プロフィールから活動報告に飛んで、お読みいただければ幸いです)


毎日更新を楽しみにしてくださっている、読者の皆様には大変申し訳ありません。

再開後はまた毎日更新できるように、しっかり英気を養って準備致しますので、それまでブクマはそのままでお待ちいただければ嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

\ 書籍第③巻、8月20日発売&予約受付中 /

▼ 画像をクリックすると、TOブックス公式ページ(別タブ)に飛びます ▼

カバーイラスト

既刊①②巻も好評発売中です。詳しくはこちらから

― 新着の感想 ―
[一言] …ん、4人? 母と息子2人と…あと誰?
[良い点] エピソード1000おめでとうございます! 母編いつもせつなくて辛い。 これから再会編とかあるかもしれないけど絶対泣くよコレ!
[一言] 精神的に少しずつ成長しているみたいだね。 後少しじゃ無いかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ