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32-1.盗賊伝説の始まり - 決戦、魔将グリゴリ -

 城内部で激戦が繰り広げられる中、俺は地下祭壇に通じる大扉を逆賊クリンゲルとして押し開いた。その先にいたのはこのクーデターの首謀者ホーランド公爵だ。

 ヤツは少数の護衛を引き連れて、こちらへと振り返った。


「大変です、ホーランド様! 牢獄の者どもと国王が結託して、この城を乗っ取ろうとしています!」

「おお、動くとは思っていましたが、ほほぅ……なかなか派手にやってくれますね」


「悠長にしている場合ではありません、急ぎ避難を!」

「……一理ありますね。ここも既に用済み、そろそろ頃合い――うっ?!」


 ホーランド公爵こそ魔将グリゴリだ。俺は彼に駆け寄る振りをして、サーベルでヤツを斬り上げでぶち殺した。……はずだったんだがな。サーベルの方が折れていた。


 護衛たちがすぐに動き、俺はいったん後退することになった。


「不覚、洗脳が甘かったようですねぇ……。殺しなさい!」


 護衛たちはサーベルを折るほどに硬いその肉体に、少しも驚いちゃいなかった。俺を取り囲もうとしたのでこちらは素早く突撃して、包囲を強行突破した。

 こいつらも手応えが妙だった。


「ナイフ……?」

「なるほど、あの時のスケルトンか……」


 護衛たちは人間ではなかった。そいつらは鎧をまとった骨の怪物で、グリゴリの城で出会ったやつらと同じタイプだった。


「はて……貴方はクリンゲルではありませんね……?」

「そっちこそ、ホーランド公爵ではなさそうだな?」


 魔将グリゴリに再び突撃した。さっきの不意打ちでは殺せなかったが、深いところまで切り裂いた手応えがあった。ならば、追撃して命を盗むのみだ。


 懐に踏み込むと、ヤツの魔法の盾がナイフを受け止めた。だがそのくらい想定の上だ。得意のバックスタップで背中に回り込むと、やつの背中をナイフで突いた。


「うっ……?! こ、この……っ」

「ちっ……硬いな。どうなってんだ、その皮膚」


「お、お前はまさか……っ、盗賊ドゥッ!!」

「気づくのが遅いな」


「ウ、ウガッッ……?!!」


 参ったな、硬いぞ。硬すぎる……。

 ヤツは化けるのを止めて、ついに本当の姿を現した。グリゴリは石の皮膚を持った人型の怪物だ。その手から紫に燐光する杖が現れ、攻撃魔法かと身構えると、スケルトンたちが次々と現れた。


「ひ、卑怯な……っ、よくもやってくれましたね……っ!!」

「はは、俺は勇者じゃないからな、アンタみたいに卑怯な手の方が得意なんだ」


 しかし参ったな、思っていたより強い。どうやってコイツを殺す……?


「だったらこちらもお返しに、貴方をなぶり殺しにしてくれますよっ!!」

「はっ、オカマみたいなしゃべり方だな。かかってこいよ、グリゴリ」


 残念、挑発してもヤツは突っ込んではこなかった。これまでのことを考えれば知恵が回るのは当然で、やつは距離を取ってスケルトンたちで俺を包囲した。


「どうやら、私と貴殿は相性が良かったようですね」

「そのようだ」


「盗賊ドゥ、私の手駒になる気はありませんか? 貴殿はどちらかというと、私たち側の人間でしょう」

「いや……俺は案外真面目らしい。俺は真面目な悪党だ」


 斬っても斬っても新たなスケルトンが召喚されてしまう。グリゴリを討とうと突撃しては、突破口を阻まれて息を乱すことになった。


 参った。これは勝てん……。

 せめてヤツの正体さえ白日の下に晒せれば、魔将に味方する者などいないというのに……。


 得意の麻痺毒も昏睡毒もスケルトンには効かない。石の怪物に通じるかも怪しかった。


「逃がしませんよっ!!」

「ちっ……」


 非情だが王を捨てて逃げるしかない。ここでゲームオーバーを迎えるより、生きてこの情報を外の仲間に伝えよう。そう覚悟して突破を試みれば、あと一歩のところで地下祭壇の出口を封じられてしまった。


「盗賊ドゥの英雄伝説……私も敵ながら楽しく観察させていただきました。ですが、伝説はここで終わりです」

「俺にその気はない」


 俺だけが無理なら、モモゾウを外に逃がそう。俺は袋の中で縮こまるモモンガを引っ付かんで、スケルトンどもで封鎖された出口に強行突破を仕掛けた。

 封鎖をこじ開けてモモゾウを逃がす。簡単なことだ。


「えっ、ドゥ……?」

「モモゾウ……」


「ま、待って……ダメ……ッ」

「今日までずっと一緒にいてくれて、ありがとう……。大好きだったよ」


 せめて大切な家族だけでも無事にいてほしい。

 今日まで俺のメチャクチャに付き合ってくれて本当にありがとう。お前だけが俺の家族だ。


 俺は大切なモモゾウを生かすために突撃した。



 ・



「なっ――」


 俺は命をかけて封鎖に強行突破をしかけようとした。だがその敵軍がいきなり炎をまとって吹っ飛ぶなんて誰に予想ができる……?


「ヒャッハーッッ、俺様を恨むなよぉ~っ、固まってるてめーらが悪ぃんだからなぁーっ!!」

「ぁ……ぁぁ……っ」


 袋の中でモモゾウが小さな声を上げた。こんな頭の悪いしゃべり方をクソ女は他にそうそういない。それはあのディシムの声で、そいつの炎魔法ファイアーボールだった。


「ドゥッ!!」

「カーネリアかっ!!」


 さらにカーネリアとペニチュアお姉ちゃんまで現れた。俺は2人に飛び付かれて、こんな状況だというのにあっけに取られてしまった。


「よかった、無事だったのね、パパ!! 死霊として使役することにならなくて、よかった……」

「ギャハハハハッッ、テメェもなんか言いやがれよっ、マイダーリンよぉっ!?」

「ドゥ……無事で、よかった。あと、こ、困、る……」

「無事で良かったです、ドゥさん!」


 元気そうだった。モモゾウも袋から飛び出して、カーネリアの胸にくっついて離れなかった。油断なくラケルも弓をつがえて、いつでも狙撃できるようにグリゴリを注視した。


 形勢逆転だ。背中の後ろのグリゴリは後ずさり、焦った様子でおびただしい数のスケルトンたちを召喚した。……策略は上手いようだが、戦術面はバカの1つ覚えだ。


「会いたかったぜぇ、グリゴリちゃんよぉ~?」

「ディシム、不用意に、前、出るな……」


「彫れちまうだろ、ダーリン♪」

「困る。本気で、困、る……」


 ソドムさん、大変そうだな……。

 再会を喜ぶのは後にして、俺たちは長いこの旅も目的そのものに獲物を向けた。長かった。本当に長い戦いだった。


「内戦を引き起こし、多くの命を殺めた貴方を僕は決して許さない。魔将グリゴリ、覚悟してもらおう!」

「フフフッ……なぜ覆されてしまったのか、今でも夢でも見ているかのような気分ですよ……」

「あら、そんなの簡単なことよ。貴方はパパを甘く見過ぎたの」


 ここでそういうことを言わないでくれ、お姉ちゃん……。

 グリゴリはしばらく黙り込み、その通りだと言わんばかりに俺を見て深く息を吐いた。


「かくなる上は……その男の首だけでも貰い受けましょう!! 盗賊ドゥッ、貴方を討てばこの戦い、魔軍の勝利ですっ!!」


 それ、どういう勝利条件だよ。

 そう口に出すいとまもなく、限界まで召喚されたスケルトンたちがこちらに突撃してきた。その全てを排除して、勇者カーネリアがグリゴリを斬れば俺たちの勝利だ。


「ヒャッハーッ!!」


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