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31-2.二人だけの王都決戦 - 騙していて悪かった -

「これ、あげる。王様、お腹すいてそうだから……食べていいよ?」

「と……盗賊、ドゥ……?!」

「ああ、俺とコイツを合わせて盗賊ドゥだ。久しぶりだな、国王」


 腹が減っていたのか、王はモモゾウの差し出したアーモンドをかじった。まだまだ足りなそうなので、ピーナッツにピスタチオ、ヘーゼルナッツまでモモゾウは王に分けてやった。


「ありがとう、モモゾウ殿」

「いいの。だって王様、あの頃より痩せちゃったから……」


「さすがは盗賊ドゥの良心担当だ……。しかしドゥ殿、先ほどの質問はいったい……?」

「アンタに戦いを終わらせる方法を知りたい。心当たりはないか?」


 自信家で酔狂なホーランド公爵。何か王に口を滑らせていてもおかしくない。俺はあえて行儀悪く座り直し、彼の返事を腕を組んで待った。


「誰にも従わぬその姿勢、変わらぬな」

「権力に媚びへつらう悪党だなんて、考えてだけでもダサいだろ?」


「ふむ……。誰を殺せば戦争が終わるかか……」

「何か聞いていないか? 敵は勝利を確信していた、何かアンタに喋ってないか?」


「喋った。まさか貴殿がここに現れるとは露さえ知らずに、ヤツは自白をした」

「興味深い。それは何を?」


 イウルンに感謝だ。彼女から逃げる口実もかねて始めたことだが、こうも上手くいくとは思わなかった。


「魔将グリゴリを討てばこの戦いは終わる」

「……今さら海の向こうまで行けと?」


 グリゴリは恐らくはどこかに身を隠して、この内戦を眺めているのだろう。そうそう尻尾を掴ませるやつとは思えなかった。


「ドゥ殿、魔将グリゴリはこの王城にいる。このクーデターそのものがグリゴリの策略だったのだ」

「……根拠は?」


「本人から聞いた。あの怪物は海の向こうに勇者様と貴殿が旅立つのを待ち、近衛兵を操りこの城への反乱を成功させた。勇者様との直接対決を避け、その拠点であるこの国を叩き潰した」


「最後の部分は間違っているな。落ち延びたアイオスが決起し、俺たちは戦った。今はアインガルド大橋を挟んでの拮抗状態だが、いずれ反乱軍は崩壊するだろう。監獄のギルモアたちを解放したからな」


「おぉ……ギルモア、無事だったか……っ。それは、よかった……」


 よかったな、ギルモア。アンタが忠誠を捧げた主君は、アンタと相思相愛だ。


「魔将がこの城にいると言ったな? そいつは今、どこにいる……?」

「地下祭壇だ」


 悪党の拠点にはちょうどよさそうな場所だ。

 だが、まさかカドゥケスの連中みたいに生け贄を捧げていたりしないだろうな……。


「盗賊ドゥ……。まさか、貴殿はたった1人で戦うつもりか……?」

「モモゾウを数え忘れているぞ、そこはたった2人の間違いだ」

「が、がんばる……ぷるぷる……こ、こわい……」


 大丈夫だ、いざとなったらお前だけを逃がす。それが俺の生命線にもなるからな。


「なぜ戦う……? 待てば勝てる情勢なのだろう?」

「ここが戦場になるのは困る。一応、ここが生まれ故郷だ」


 王は立ち上がり、ベッドの枕元に手を入れた。現れたのは一兵卒が使うような長剣だ。剣を引き抜き、戦士として戦えると彼はアピールするように見事に振り回した。


「我々が陽動を起こそう。その間にドゥ殿は、魔将を討ってくれ」

「おい、王が自ら囮になる気か……? このまま待っていても、こちらの勝利で片付く戦なんだぞ……?」


「うむ、我も城下に親しい友人がいてな」

「ホントかよ」


「本当だ。……それに、城を奪われた王はもはや死んだも同然。気にすることはない」

「……いや、ダメだ。アイオス王子が悲しむ」


 独りがいい。この内戦では何かするたびに犠牲が出た。傲慢な理由で人を斬ることも増えた。こういう、命を平気で賭けるような手合いには付き合いかねる……。


「息子とは親しいのか?」

「……友人になったつもりだ。こっちはな」


「あいつを頼む。アイオスは頼りないかもしれないが、やさしい子だ。我の代わりに新しい時代の王となってくれるだろう」


 俺は母と弟をどうしても守りたい。戦いの最終決戦は必ずこの王都で行われる。王都決戦を阻止するならば、やはりここで敵の首魁を倒す他にない。


「どれくらい動かせる……?」

「城の地下牢に近衛兵や諸侯の一部が監禁されている。その者たちを解放し、この指輪を見せよ」


「アンタは?」

「協力者が数人いる。ここに残って騒ぎを起こそう」


 兵の大半が戦いに出払っているとはいえ、ここは敵の拠点だ。勝ち目のある戦いではない。下手をすれば王ですら討ち取られて死ぬ。


「俺は……王族を誤解していた……。ペレイラ、アンタは王の中の王だ。セントアークの一介の民として、アンタの気高さを誇りに思う。必ず、アイオスにアンタが王であったと伝える」

「うむ……。貴殿が勇者であったら、どんなに頼もしかったであろうな……」


「カーネリアみたいなことを言うな」

「勇者ドゥよ。魔将グリゴリを討て。そなたこそがクロイツェルシュタインの希望だ」


「わかった。勇者カーネリアの代役、しかと承ったよ。……あの世でまた会おう」


 俺は王の私室を1度出て、さっきの見張りを王に引き合わせてから、裏切り者の近衛兵クリンゲルに化けたまま地下牢へと進んだ。

 堂々と胸を張って歩けば、骨格が多少異なろうとも誰も俺を疑わなかった。



 ・



「貴様ッ、クリンゲルッッ!!」

「どのつら下げてここに来たっっ!!」

「この裏切り者め!!」


 思えばこのクリンゲルも、ガブリエルを狂わせたあの剣のように何かをされたのかもしれない。

 地下牢に響き渡る罵声のフルコースを俺は静かに受け止めて、頃合いを見て王の指輪をランプに寄せた。


「それは、まさか、陛下の……」

「騙していて悪かった。俺もまだ親衛隊だ」


 魔法のように袖から鍵束を取り出して、牢の鍵を解錠した。


「ら、乱心したか、クリンゲルッ?!」

「止めろっ、そいつらを出すなっ!」


 サーベルは少し扱いづらかったが、幸いこんなところで見張りをさせられる連中なんてたかが知れていた。……片付けた。


「クリンゲル……今さらどういうつもりだ……?」

「国王ペレイラ・クロイツェルシュタインのご命令だ。これより我々は逆賊ホーランドを討つ。国王陛下は私室だ、合流して戦ってくれ」


 俺が盗賊ドゥだと明かすと説明が面倒になる。よって俺はクリンゲルに化け通すことにした。


 彼らを陽動にして、この姿のまま地下祭壇を目指す。そしてクリンゲルとして攻撃を仕掛けて、俺のやり方で魔将グリゴリを討つ。


「武器庫まで誘導しよう。付いてこい」


 全ての近衛兵と諸侯を解放すると、俺は敵兵を排除しながら地下1階にある武器庫に案内した。それから俺は姿をくらました。


 彼らは武器を持って城の上部へ。俺は地下祭壇を目指して道を下る。


「クリンゲル様、この非常事態にどちらへ……?」

「地下祭壇だ。ホーランド公爵に急ぎ伝えなければならないことがある。敵は城から脱走するつもりだ、正門に迎え」


「はっ、了解です!」


 作戦の正否は俺がグリゴリを殺せるかどうかで決まる。精神を研ぎ澄ましながら、俺は階段を駆け下っていった。


もしよろしければ、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】をいただけると嬉しいです。

どうにか「砂漠エルフ」の初稿が完成しました。

もうじき3章完結となりますが、これからプロットを用意して4章目の制作に入る予定です。

プロットを一気に章の終わりまで仕上げてから執筆するスタイルでやっていますので、もしかしたら3章完結後におやすみをいただくことになるかもしれません。

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