28.一方、戦場では――
おかしな話もあるそうで、大河から姿を消していた船たちが突然に現れて、テンプルナイトとリーベル子爵率いる反乱部隊の渡岸を手伝ってくれたそうだ。
これによりその数6000名が王党派に合流することになった。
彼らが守る祭司長が参戦を呼びかければ、いまだに加勢を迷っている周辺諸侯や、主の身柄を押さえられた代官たちも戦いに向けて動き出す。
さらにアイオス王子率いる王党派はランゴバルト領エクスタード市を離れ、ベロス率いる反乱軍を迎え撃つべく進軍を開始していた。補給面を考えれば、あの兵数があの都市に駐屯し続けるのは不可能だったという面もある。
だがそれ以上に今すぐ動くことに大きな価値があった。
王党派の騎兵や軽装歩兵たちは、アイゼンガルド大橋に急行した。狙いは先制攻撃だ。
ベロス率いる敵主力はいまだにあの大河をまともに渡り切れずに、大半が対岸で足止めされていた。
・
・ベロス
西アイゼンガルド市にて庁舎を接収した。俺はその一室を臨時の私室にして、ままならぬ渡岸に頭を抱えていた。渡岸を手伝わねば首をはねると脅したはずなのに、逆らう商会が後を絶たない。
何者かが進軍を妨害をしろと、裏から手を回しているとしか思えなかった。
「まずいですなぁ、ベロス殿。あちらに渡っていた部隊が、我らを裏切ったそうですぞー?」
「な……っ、何を軽く言っているっ!! 裏切っただとっ!?」
無能な副官が部屋を訪ねてきたかと思えば、のんきにもとんでもないことを言い出した。俺たちの勝利が確定していたはずなのに、各地から裏切りの報告が次々と俺の耳に入ってくる……。もううんざりだ!
マグダラ……あの女がまさかガブリエルを捨てるとは、あれも大きな誤算だった……。
「河のこちらとあちらで分断されてますからなぁ……。孤立して全滅するよりも、寝返った方がまだマシでしょうなぁ」
「あちらに渡った兵力2500人、全てが、裏切ったというのか……? うっ、うぐっ……ぉ、ぅ、ぉ、ぁ、ぉっ、ぉぉぉぉぉ……っっ?!」
「あ、総司令? またトイレですか? おっ、オマルとは賢いですなぁ、さすがはベロス総指令!」
「うぅぅぅぅぅーーっっ!!」
苦しい。腹が焼け付くように痛む……っ。
俺は大人用オマル(白鳥タイプ)にまたがり、激痛が落ち着くまでふんばった。
「大丈夫ですー?」
「う、うむ……。なんとか、な……」
「それで報告の続きなんですけどね、総司令。続々と王党派の軍勢が、対岸の東アイゼンガルド市に集まっているようでして」
「バカな、動きが早すぎる……」
「向こうにはよっぽどキレるやつがいるようですねー。ま、そういうわけでして、両軍は大河を挟んでの睨み合いに発展しました! ……さあっ、どうしましょうねぇ~?」
「船だ……船を集めろ……」
「この期に及んで我ら反乱軍に味方する船乗りがいるんですかね? ホーランド公爵への言い訳を考える時間は、この先たっぷりありそうですけどねぇ?」
「うっ……うぐっ?!」
俺はオマルの上で食いしばりながら、盗賊ドゥへの怒りと腹部の激痛に気が狂わんばかりにうなった。
あ、あいつは……悪魔だ……。疫病神だ……。橋の動力を盗むだなんて、そんなのは卑怯ではないか……っっ!!
「東側の世界の諸侯は、みーーんなアイオス王子に味方するでしょうな。盗賊ドゥ、まるで大魔法使いみたいなやつですな。そんな怪物を敵に回すべきじゃなかった。ありゃ、総司令……?」
「独りに、してくれ……」
この戦い、手詰まりだ……。
河を挟んで守りに入られたら突破できるものではない。やつらも河を渡って攻めてはこれないが、その間に対等の兵力を用意されてしまう……。
「ベロス総司令が左遷になったら、私が総司令なんでしょうかねぇっ!?」
「殺すぞ……」
「いやぁ、オマルにまたがったまま言われてもねぇ!?」
「クソ投げるぞ……」
「や、止めて下さいよぉっ、冗談ですってっ!?」
「クソォォォォォーッッ!!!」
「ひっ、ひぐぁぁぁぁーっっ?!!!」
「クソクソクソクソォォーッッ!!」
推定兵力差 66800:26000
祭司長を奪われ、いずれあの勇者カーネリアも帰還するとなると、兵力の逆転すらも将来的にあり得る……。
そうそう負けることもないが、そうそう簡単に勝てる戦いではもうなくなっていた……。




