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27-2.新たな盟主 - 大親分 -

 翌朝早朝、元気になった馬にまたがって町を出た。少し無理をすれば、今日中に目的地であるバース市に着ける。夜の酒場は情報の宝庫で、可能ならば今日から情報収集に入りたかった。


 鬱蒼と茂る林道を進み、麦と女ばかりが目立つ農村地帯を抜けて、いくつかの橋を越えた。馬の休息をかねた昼食を済ませ、進んで、進んで、さらに4つの橋を越えた頃には夕方だった。


 そんな時、後方より怒濤の勢いで蹄の音が迫ってきた。己の馬を隠せそうな場所は辺りにどこにもなく、早急な対応を迫られた。


「速いな、追い付かれる」

「ど、どうしよう、ドゥ?!」


「まだ敵とは決まっていない。だが、敵かもな。……モモゾウ、馬を頼む」

「えっ……えーーっ!?」


「街道を外れて馬を落ち着かせろ。囮を頼む」

「またなのっっ?! ドゥはモモンガ使いが荒いよぉーっ!!」


 ちょうどいい木があったので、俺は馬から立ち上がってその枝へと飛び移った。オーダー通りにモモゾウが馬を操縦して、手頃な街道外れで止めてくれた。


 俺は樹木の陰に身を隠して、後続の正体を確かめた。

 やつらの目的は俺たちだったみたいだ。俺の馬を追って街道を外れると、馬上から辺りを見回していた。そいつらは兵士ではなかった。


「探せっ、ドゥはまだ近くにいるはずだ!!」

「へい、親分っ!」


 それはカドゥケスのヤクザ者たちだった。やつらはだいたい目立つところに入れ墨を入れてくれているので、見分けるのはいとも簡単なことだった。


 その数はざっと30強だ。正面から排除するにはいささか数が多過ぎる。あの攻撃的で死にたがりな暗殺者たちには見えない点がゆいいつの救いだった。


「いませんぜ?」

「もっと探せ! ここにヤツの馬がいるんだ、なのにいないわけがないだろうっ! 盗賊ドゥの首、なんとしてでも持ち帰らなければ、最悪俺たちの首が飛ぶぞっ!」


「けど親分、首を取ろうにも相手がいないんじゃ……」

「探せ!!」


 昏睡毒、麻痺毒、どちらも持参しているが、こんなところで使ってしまいたくない。しかしこのままだと馬を奪われる。……ならば、致し方がないのか。


「ドゥ……」


 俺を心配してくれたのか、モモゾウがこちらにやってきた。

 モモゾウを使って空から毒を撒き、不意打ちで片付けるしかない。


「待って、また何かくるよ……?」

「敵の増援だったりしてな……」


 まさか盟主の死により混乱状態のカドゥケスが、反乱軍に味方するとは予定外だ。

 耳を澄ますと遠くからまた蹄鉄の音が近付いてきている。足下の連中も遅れてそのことに気付き、後方へと反転して警戒の目を向けた。


 初めに現れたのは空を切る矢の嵐だった。俺たちの足下で人と馬たちの悲鳴が上がり、そこに間髪入れずに新たな騎馬隊が突撃してきた。


 俺はその正体に驚かされた。カドゥケスを襲ったのは、カドゥケスだったからだ。同じ入れ墨を持つヤクザ者とヤクザ者が、俺たちの足下で激しい抗争を始めていた。


「ピィィッ、な、なにこれぇぇ……っ?!」

「仲間割れ、としか言いようがないな」


 乱入は控えた。敵の敵が味方とは限らないからだ。

 人迷惑で泥臭い死闘が足下で繰り広げられ、大多数が地に倒れるまで静観した。ヤクザ者が減ればそれだけ世の中が平和になる。俺に介入する義理はなかった。


「と、盗賊ド――カハッ……」


 後からやってきた連中が劣勢になると、俺は加勢を決断して樹木から飛び降りた。


「モモゾウッ、俺たちの馬を落ち着かせろ!」

「わ、わかったっ! 迷子になったら可哀想だもんねっ!」


 すると状況が少しだけわかってきた。


「見つけたぞっ、殺せっ、盗賊ドゥを殺せ!!」

「そうはさせるかっ!」


 最初にやってきた連中は俺を殺したがっていて、後からやってきた連中はなんでかわからんが、俺を必死で守ろうとし始めた。


 敵は疲弊し、残り人数も10数まで減っていたので、乱戦を利用した遊撃で全てを排除するのはそう難しいことではなかった。


「ドゥ様、助太刀に感謝するぜ!」

「なんだその呼び方は……」


 こいつらは敵ではないようだが、何が狙いなのかまるでわからなかった。いや少なくとも、カドゥケスにおいて俺は、様を付けられるような身分ではなかったはずだ。


「ドゥ様、カドゥケスが現在、ひでぇ内ゲバの真っ最中なのはご存じで?」

「ああ、真っ二つに別れて争っているらしいな……。だが、それがなぜ俺を狙うんだ……?」


「それはドゥ様が、あの英雄ドゥだからだ」

「……意味が分からない」


「はっ、まーそうだろうなぁ。だがドゥ様、お前は指名されちまったんだぜ」

「槍玉にか?」


「違う、新たなる盟主にだ! 人攫いのマグヌスの推薦により、お前は、カドゥケスの盟主に指名された!」

「…………はぁ? 気でも狂ったのか、あの男は……」


 なんて迷惑な、なんてあり得ない不毛な決断をしたんだ、あの男は……。

 人を食い物にする腐った組織に、俺がトップとして立つわけがないだろう!


「マグヌスに伝えろ、俺はカドゥケスには絶対に戻らない」

「そのことは後で考えればそれでいいぜ。とにかくな、マグヌスの勝利は目前だ。ってことで、これより俺らは王党派に味方する。既に話は裏から通してあるんで、テメェの立場の方はご安心しろ?」


 そいつらは一方的に力を貸すと言って聞かなかった……。


 いらないと言っても、押し売ってくるのがヤクザどもの常だった。護衛をしたいと言ってきたが、そんなものは仕事の邪魔でしかない。断固として断った。


「残念だぜ……。んじゃ、去る前に、王党派本隊の動向を聞かせてやろう。彼らはな、ついに――」


 本体の動きは知っておきたい。俺はカドゥケスの一派から情報を聞き出してから、バース市行きの旅を再開させた。


「野郎どもっ、新たな盟主ドゥ様に敬礼しやがれっ!!」


「 へいっっ、いってらっしゃいませ、大親分っっ!! 」


 俺とモモゾウが工作員として奮闘している中、アイオス王子たちもついに決戦に向けて動き出していた。これに併せて俺も脱獄を幇助して、貴族どもにしては気骨のある連中を保護する。


「親分じゃねぇっ、盟主様だろうがっ!!」


「 いってらっしゃいませ、盟主様っっ!! 」


 もちろん、クソ迷惑なヤクザどもは無視した……。


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