27-1.新たな盟主 - 名もなき村 -
リステン王国の諜報網によると、反乱軍はリスク分散のために要人の監禁先を3つに分けた。
利用価値の高い者は王宮に。屈服の兆しがある者は王都市内に。そして王への忠誠を貫く頑固者は監獄に送られた。
王都南西にある小都市バース。バース監獄はこの都市の郊外森林地帯にある。あの補佐官ギルモア子爵も、この監獄に収監されているらしいとの情報だった。
「このご時世に旅とはチャレンジャーだね、お客さん」
「こんなご時世だからこそだ。東西の情報がこんなに高く売れる時期もそうない」
軍から元気な馬を1頭貰って、お偉方に顔の利く設定の情報屋に化けた。曇りのない澄んだ伊達メガネが偶然にも手に入ったのでそれをかけて、髪を膏で固めてオールバックにした。
後は化粧で少しだけ人相を変えれば、やり手の情報屋バレンタインの誕生だ。俺はその晩、片田舎の酒場宿に立ち寄って馬と我が身を休ませていた。
「勇ましいこって。じゃ聞くがよ、この戦争……どっちが勝つ?」
「反乱軍は負ける」
「お、本当か……?」
「ああ、既にやつらは手詰まりだ」
「それが本当なら、安堵のため息も出るところだけれどよ、根拠はなんだよ?」
「そろそろ知れ渡る頃だから言うが、隣国のリステンが王党派に加わった。これで流れは完全に変わったと言っていい」
ジャガイモとベーコン、ニンジンの入ったホワイトシチューをつつきながら、店主に色々と教えてやった。王党派優勢との情報は、いくら広がっても俺たちの損にならない。
「小皿……?」
「ああ、小皿を2つくれ。残りのシチューとこのクリを部屋で食べたい」
「わかった、ちょっと待っててくれ。……話、面白かったよ、バレンタイン」
「どうせ売り切れのネタだ、好きなだけ人に話してもいいぞ」
「そうしよう! この話で町が明るくなるよ。早く平和になってほしいよなぁ……」
「まったくだ」
「うちも甥がちょうど兵役でな……。無事なんだかどうなんだか、気が気じゃない……」
「きっと大丈夫だ。まだ本格的な衝突には至っていない」
店主との話が終わると小皿を持って階段を上り、あてがわれた部屋に戻った。
扉を閉じるなりすぐに夜行性のモモゾウが袋から飛び出して、テーブルの上で料理の配膳を待っていた。
「早くっ早くっ! もうっお喋りが長いよーっ!」
「悪い、ちょっとした工作のつもりだったんだ。こら、毛皮がベタベタになるぞ……」
シチューからスプーンで具を取り分けて、よく煮えたニンジンをモモゾウに渡してやった。スープは俺が飲んで、具だけを皿に残すと、その次は焼きグリを代わりに割ってやった。
「おいちっ、おいちっ、とっても甘いねっこのニンジン!」
「あまり食い過ぎるなよ」
「わっ、ありがとーっ、ドゥ!」
「元の生活が恋しいな……」
「おいちっ、クリおいちぃっ! もっともっとっ!」
残り半分のクリをモモゾウに渡して、2つ目のクリを割って自分の口にほおった。モモゾウはずっと我慢していた食事に夢中で、俺の話なんて聞いちゃいなかった。
そんなモモゾウの食事を邪魔しないように控えめに、背中の方を人差し指でソッと撫でた。……否応なく、自分の顔から笑みがこぼれていた。
「ギルモアのおじさん、助けないとねっ」
「無事だといいんだがな。一応、盗賊王のジジィの友人だ」
「わっ、このジャガイモ、ほくほくっ! ドゥッ、クリももっとっ、もっとっ!」
「あまり食い過ぎるなよ」
「うんっ、おいちぃからわかんないっ!」
「たまにはモモンガらしく、松の芽でもかじれ……」
クリをもう5つむいてやると、俺はお先にベッドへと横たわった。旅暮らしに疲れていたのか、目を閉じるとすぐに意識が飛んでいた。
投稿が遅くなってしまってすみません。




