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26-3.軍資金泥棒 - 人斬りと盗賊 -

・人斬りガブリエル


 マグダラ……俺のかわいいマグダラ……。アレが俺に逆らうことなんて、1度だってなかったというのに……。

 なぜ、なぜ裏切った、なぜこの俺を、この勝ち馬を見限ったのだ、マグダラ……ッ。


 おまけにあの無能っ、無能のリーベル子爵め! 兵糧への放火を許すばかりかっ、軍資金まで盗まれただと!? 大方貴様が関わってるんだろうが、クソ貴族がっ!


「ん……なんだ、これは?」


 散々だ……。俺はようやく自分の寝所に戻り、軍資金泥棒騒ぎにより奪われた睡眠時間を少しでも取り戻そうとした……。

 俺のベッドには布袋が置かれていた。なんだこれはと持ち上げてみると、酷く重い……。


「ま、まさ、か……」


 この質量……中身が鉛でないならば他にない。俺は燭台に炎を灯し、その妙に重い袋を近付けた。中身は、消えたはずの砂金だった……。


「なっっ、なっ、なぁぁぁーっっ?!!」


 なぜここにこれがあるっ?!


 ま、まずい……先ほど俺は、散々にリーベル子爵を叱責してしまった……。

 これがここにあると、もし誰かに知れたら、何がどうなるかわからんではないか……っっ?!


「誰だ、誰が俺にこんな仕打ちを……っ。く、くそっ、お、落ち着け、落ち着くんだ、ガブリエル……ッ」


 リーベルを、き、斬るか……? いやそれは最後の手段だ、斬ればこの部隊が解散しかねん……っ。

 とにかくこの砂金をどこかにやろう! ここにさえなければ、しらばっくれることができる……!


「ガブリエル殿、少しよろしいか?」

「リ、リーベル卿かっ?!」


 砂金を両手につかんでいた俺は、必死でそれを寝台の陰に隠すことになった。なんて間の悪いクソ野郎なんだ……っ。


「つい先ほど、ある勇敢な情報提供者が現れましてな」

「じょ……っ?!」


「非礼を承知で、中をあらためさせていただくぞ」

「ま、待てっ、部隊の指揮権は俺にあるのだぞっ!?」


「盗人猛々しい物言いだな。者ども、中を調べよ」


 こうなったら全員斬ればいい……。

 そう腰の剣が俺にささやいた。甘く魅力的な提案だった。

 俺をハメたのはリーベルだ。指揮権を奪われるくらいならば、全て斬り殺せと黒い剣が言う。


 やつらは混乱の極みにあった俺を放置して、勝手に人の寝床を漁って、貴様らが俺をハメるために仕込んだ砂金だろうに、そいつにやたら大げさに驚いて……。


「ガブリエルッッ、この軍資金泥棒め!! お前には心底失望したぞ!!」


 俺を盗人扱いした。俺は盗賊が嫌いだ……。俺を盗賊扱いするこいつらは、やはり、死ぬべきだ……。



 ・



・策略の首謀者にして密告者


 しばらく振りに会ったガブリエルは、肌も以前より白くて別人のように痩せていた。


 今、ヤツは俺たちの前で青ざめながら腰の黒い剣に手をかけている。既に俺が仕込んだ砂金が回収され、ヤツは軍資金泥棒の下手人となっていた。


「半信半疑だったよ。よく報告してくれたな、ラズくん、カーソンくん」

「いやぁぁ、まさかガブリエル様が犯人だなんて思いませんでしたよーっ!」

「残念です……」


 リスクはでかいが足止めとしては最高級だ。運がよければこの軍勢が壊滅したり、こちらに降る可能性だってある。こうしてガブリエルの前に立つのはスリリングだが、命を賭けるだけの価値があった。


「俺は盗人ではない……」

「ならばこの砂金はなんだ、ガブリエルッ!!」


「知らん……貴様が俺をハメようとして仕込んだんだろう、リーベル……汚いやつめ……」

「なぜ私がこんなことをしなければならん、貴様こそ恥を知れ!! 貴様こそ金を盗んでっ、私を陥れるつもりだったんだろうっ!!」


 ガブリエルは剣から手を離さない。以前のガブリエルとは、見た目どころか精神の部分まで別人に感じられた。

 まだ、ヤツは俺が盗賊ドゥとは気付いていないようだ。眼中にもなかった。


「彼らが証人だ。彼らは貴様が荷駄隊の陣に現れたと証言している……」

「お、脅されたんですっ! それで俺っ、鍵を渡すように言われて……っ」

「俺もラズが脅されるのを見ました。犯人はガブリエル様です」


 そう証言すればラズは鍵を盗まれた罪をとがめられなくなる。俺1人が密告するよりも信用が増して、ガブリエルもラズの偽証の方に注目する。ラズが主役で、俺はわき役だ。ラズのヤツは金貨10枚でこの話を受けてくれた。


「俺ではなく、そんな下民を信じるのか……?」

「当たり前だ! ここに砂金があったことが、何よりもの証拠だ!」


「俺を、盗賊扱いするんだな……?」

「地位を利用して金を盗むなど、盗賊より始末が悪いわ! 貴様は最低の外道だ、ガブリエルッ!!」


 ガブリエルの身体がふらりと揺れた。あの黒い剣を抜くつもりだ。俺も腰の剣を抜き、ヤツの不意打ちを迎え撃った。


「ガ、ガブリエルッ?! 貴様乱心したか!!」

「ひ、ひぃっ、あ、頭おかしいぜ、コイツッッ!!」


 あと一歩でリーベル子爵を斬られるところだった。俺はヤツの黒い剣を受け止め、その剣から怪しいオーラが立ちこめて浮かび上がるのを見た。


「でかしたぞ、カーソン! 護衛兵っ護衛兵っ、ガブリエルが乱心した! 天幕に集結せよっ!」

「もう、全てどうでもいい……。貴様らは、皆殺しだ……」


 ガブリエルが再び揺れ、黒い刃を振るった。

 速い。ヤツとは思えないほどに力強い。俺は別人と化したガブリエルと斬り結び合った。


「ちっ、雑兵にしてはやるな……」


 まだ気付かれたくないので沈黙で返した。護衛兵たちが天幕にやってきて、俺と一緒にガブリエルを囲んだ。


「お止め下さい、ガブリエル様! 我々は味方です!」

「遠慮はいらない、その男は砂金泥棒だ! 私の管理責任を責めるために盗んだのだ!」


 酷い泥沼劇だった。こうも騙されてくれると、主犯としては心が痛んだ。ラズのやつは、遠くからニヤニヤとこちらを笑っている。


「指揮官は俺だっ、俺に刃を向けるな、カスどもが!!」

「討てっ、ガブリエルを討ち取れっ!!」


 それに合わせてガブリエルに俺から斬りかかった。そうでもしないと、板挟みになってうろたえる護衛兵たちが斬られていただろうからだ。


「その剣、どこで手に入れた……?」

「やっと口を利いたな、雑兵。貴様を見ているとイライラしてくる……」


「ガブリエル、その剣を捨てろ。マグダラをこれ以上悲しませたくなかったら、その剣を捨てて投降しろ」


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