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24-3.信用泥棒、後日談 - アンナとピッチェ -

 少し待つと、下の階からリステン兵に守られたアンナとピッチェが現れた。


「お、おみゃぁはっ……おみゃぁはぁぁ……っ?!」

「落ち着かれて下さい、ピッチェ様。……仲間を、守って下さっていたのですね、ドゥ様」


 化粧を拭い落とすとどちらも俺の素顔に驚いて、ピッチェなんて地べたに腰を抜かしていた。ヤツにとって盗賊ドゥは悪夢そのものだったろう。


「一応、保険でな……。こんな内戦は早く終わらせるべきだ……」

「ピッチェ様、こうなってはドゥ様たちにご協力するのが筋かと……」

「アンナァァァーッッ?!! お、おみゃぁ……それっ、本気で言ってるかみゃぁっ!?」


「ご自分の立場をもっとお考え下さい。このままでは、処刑はまず間違いないかと思われますが……?」

「ピギィッ、しょ、処刑だみゃぁっ?!」


 月光に輝くナイフを軽くジャグリングしてから腰に戻した。ここでピッチェの首を刈るのは簡単だが、リックソンが言う通りこの無能な外道には利用価値があった。


「メイドが3人死んでいた……。アンタのせいだ……」

「お、おみゃぁが金を盗むからっ!」


「金もないのに傭兵を騙したクズ野郎のせいだろ」

「ピッチェ様、生き残るのです。彼らはあなたを赦すと言っています。この機会を逃せば、反逆者として処刑されます」


 ピッチェはそれっきり黙り込んだ。アンナと女子寮のメイドたちは互いの無事を喜び、護衛と共に女子寮を出て行った。後にはモモゾウだけが肩に残った。


「ドゥ、そろそろ行こうよ。大変だったのはわかるけど……でも、オデットを褒めてあげなきゃ!」

「……俺のような人間が、あんないいやつと一緒にいて、本当にいいのだろうか?」


「何言ってるのっ、ドゥはみんなを守ったんだ! ボクチンたちは、正義の味方ができない仕事をしてるんだ! そうお爺ちゃんに教わったでしょ!」

「モモゾウ……。お前がいてよかったよ……」


「うんっ、大好きだよ、ドゥ!」

「俺もだ」


 モモゾウのふわふわに頬ずりをしてから立ち上がり、女子寮を出て外のオデットたちと合流した。

 あの日、臨時徴収される俺をかばってくれた女は、屋敷から戻ってきた俺に駆け寄って輝くような喜びの笑顔を浮かべてくれた。


 俺にはそんなオデットの笑顔がまぶしくて仕方がなかった。



 ・



 かくしてスティールアークは豚貴族ピッチェの支配から逃れた。ピッチェは代官オデットの庇護下に置かれることになり、正式にピッチェが俺たち王党派に加わることになった。


「おおっ、これはドゥ様でにゃーかっ!」

「……は?」

「先日はお世話になりました。主人も貴方様には心より感謝しております」


「アンナとドゥ様のためならなんでもするみゃぁ! 将軍として軍を率いてもいいみゃぁよぉ!? これでもワシァ若い頃は――」


 ピッチェはごますり野郎に豹変した。

 超肥満体型の男は、両手を擦ってどこかいやらしい目で俺を見ていた。


「いや……アンタはその、何もしないでいてくれるのが、一番助かる……」

「ピッチェ様、ドゥ様はあなたを奥の手として考えているようです」

「奥の手かっ! うむっ、そうかそうかっ、ならばみゃーはお呼ばれがかかるまで待つとするみゃ! アンナッ、ワシらで市内の掃き掃除をするだみゃぁっ!」


「見事なごますりでございます、ピッチェ様」

「ナハハハハッッ!」


 アンナ……? アンタはそんな男を見捨てて自由に生きるべきだ……。

 なんでこの期に及んでそのバカの面倒を見るんだ……。


「身の振り方は戦乱が終わってから考えます。それまでは、ピッチェ様の操縦と監視はお任せを」

「……納得した。どうか頼む」


 いくら反乱諸侯をこちらに再反乱させるための道化が必要だとはいえ、ピッチェが味方だなんてやはりあり得ない……。

 無能な味方は、最悪の敵だ。彼女の申し出はこの上なくありがたかった……。


――信用泥棒 終わり――


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