24-2.信用泥棒、後日談 - 過剰報復 -
「ドゥ、大変……」
「どうした?」
「ぅ、ぅぅぅぅ……」
「わかった、案内しろ」
窓を抜けて、モモゾウの後を追った。すると傭兵の1人を見つけた。俺はそいつの首に冷たい刃を押し当て、狼藉をとがめた。
「ッッ……?! ま、待て……お、落ち着け……っ、冗談だろっ?! お、俺は、ただ……っっ」
「俺は、間違っていた……」
「な、何が……?」
大義に目がくらんで、ここの連中を救わなかったことだ。
「や、止めっ、カハッ……」
床にはメイドが1人横たわっていて、その子はもう死に絶えていた。俺は悪党を1匹片付けた。
それから震えながらメイドの顔に目を近付けて、安堵に深いため息を吐いた……。それはメイド長のアンナではなかった……。
「モモゾウ、寮を回るぞ。いつもの斥候を頼む……」
「ドゥは悪くないよ……。ボクチン、むつかしいことは、よくわからないけど……ドゥは悪くないもん……」
「その話はここの住民を保護してからだ」
「うん……っ」
生存者を探して寮を歩いた。
「だ、誰っ?!」
「俺か? 俺はメイド長アンナの知り合いだ。アンタたちを守りにきた」
怯えるメイドを発見した。ナイフをカチリと軽く鳴らして、モモゾウを腕に乗せて見せて、柄じゃないがやさしく微笑んだ。それに安堵したのか、メイドの瞳からは涙が流れ落ちていた。
「外には王党派――アイオス王子の軍勢が救援に駆けつけている。俺は人質交渉がまとまるまでの保険だ。仲間のところに案内してくれるか?」
「あの……もかして、ですけど……。あなたは、盗賊ドゥ……?」
「……はぁっ。こうも有名になってしまったら、この国では商売にならないな……」
1人、また1人とメイドと出会うたびに、その誰もが涙を流して待ちに待った救助を喜んだ。
「メイド長の姿がないな……。彼女はどこに……?」
「アンナ様なら、ずっとピッチェ様……いえ、あの醜い豚野郎と一緒です……」
「ならたぶん大丈夫だな」
殺されたメイドは計3名。残りは全て無事だった。男子寮の方はまあ大丈夫だろう。どっちにしろ手が回らない。
集合が済むと、2階の個室に集めて俺はその入り口で番をした。モモゾウは中で震える彼女たちを慰める役だ。
オデットが役割を果たすまで、暗闇の中で静かに時を待った。
「なんだ、いるじゃねぇかよ、へへへ……」
「おっ、おおっ、コイツメチャクチャかわいいぞ……!?」
「おいお嬢ちゃん、俺たちの相手してくれよ……?」
保険として潜入しておいて正解だった。統率のない傭兵たちは、自分たちの生命線に手を付けようとしていた。
「アンタたち、外を王党派が包囲しているのを知らないのか?」
「知ってるぜ。だけどよぉ、最後にちょっとくらいいじゃねぇかよ……?」
「男みたいなしゃべり方すんなよ、お嬢ちゃん。せっかくのかわいい顔が台無しだぜ」
「ついでもう1つ聞く。下に若い女の亡骸が3つもあった。あの子たちを殺したのは誰だ?」
そう聞くと、そいつらは残忍に笑い出した。その必要があるのか腰の剣を抜き、少しも怯えない俺に刃物をちらつかせた。
「誰かなんてわっかんねぇよ。あえて言うならそうだなぁ……ここのみんな、かなぁ?」
「ブルッてんだろ? 漏らしそうなんだろ? ひひひっ、無理すんなってお嬢ちゃ――ァ、ァェ……?」
不意打ちで喉を2人分刈ると、残りの1人との戦闘に発展した。
「ジャンッ、エドッ?! て、てめぇっ、俺たちを敵に回して――」
「続きは後で聞こう。……地獄でな」
突撃した。傭兵の剣を滑るように受け流し、首をガードしようとしてたので、背中側に回り込んでから心臓を刺した。その後は死体を1つずつ別室に運び、ゴミのように捨ててやった。
「だ、大丈夫ですか、ドゥ様……」
「ああ、俺以外はな」
「よかった……」
「ありがとうございます……。仲間の仇、取ってもらえて、嬉しい……」
「別に大したことじゃない。俺はただ、ああいう連中が嫌いなだけだ」
正義の味方ならばこんな過剰報復はしないだろう。悪党にも家族がいるとか、更正の可能性があるとか、独善は善ではないとか、つまらないことを気にするはずだ。
「いつか恩返しをさせて下さい……」
「そんなものはいらん。それよりもう少し我慢してくれ、オデットなら交渉を取り付けてくれるはずだ」
「オデットちゃんがっ!?」
「どうやら共通の友人がいたようだな。オデットは俺の大切な友人だ」
俺はまた部屋の前に配置したイスへと腰掛けて、暗闇の中で耳を澄ませて侵入者の気配を探り続けていった。




