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16.王子ドゥ、王子に飽きる

 ベロス元男爵率いる敵本隊がついに動く。

 こちらの間者が掴んだこの情報は、泥沼の会議に俺たちを引きずり込んだ。


 情報によると敵兵力は現在25000人。こちらに到着すれば合流により3万にも達するだろう。対するこちらは5000人。このまま戦えば全滅する。


 推定6倍の兵力差をどう覆すかなんて、会議をいくら重ねても答えなんて出るはずがなかった。



 ・



 そこで俺は疲労に倒れる振りをして、会議を中断し己の自室へと引き返した。

 カーテンを深く閉めるように護衛のイレーネに頼み、ベッドから身を起こして彼女をベッドサイドに呼んだ。


「あの、殿下? 何か特別な意図でも……?」

「イレーネ、状況が変わった」


「状況、ですか……?」

「薄々感づいていると思う。目的を達するまで、アンタに真実を明かす予定はなかった。だが、状況が変わった」


 立ち上がるとイレーネは俺に顔を近付けて、顔立ちの細部に目を向けて、それに気が済むと距離を取り、頭の上から下までを何遍も確かめた。イレーネは言った。


「まさか、貴方は、殿下の……影武者なのですか……?」

「正解だ」


 布で顔を拭い、綺麗に櫛削った髪を散らして、表情を盗賊ドゥのものに戻した。


「なっ……貴方は、盗賊ドゥ?!!」

「俺であることには気付いてなかったのか。まあいい、本物のアイオス王子は今、リステンで援軍要請をしている。俺たちにはアイオス王子が2人必要だったんだ」


「あ……そういうことでしたか……。では、なぜ今それを……?」

「盗賊ドゥとして一仕事したい。そのためには、影武者の影武者が必要だ。親衛隊から信頼ができるやつを、代役にあててくれ」


「それはかまいませんが、貴方はどうするのですか……?」

「破壊工作だ。今敵本隊に襲われたら俺たちは全滅だ。俺とモモゾウがやつらを足止めする」


 時間が惜しいので王子の服を脱ぎ捨て、タンスの裏に隠していた元の服に着替えていった。

 連日会議に参加していたので情勢や地図は頭に入っている。その中に、警備は超分厚いが足止めに絶好の工作ポイントがあった。


「急で悪いが後を頼む。大変だったが楽しかったよ、イレーネ」

「嵐のような人ですね、貴方は……。わかりました、後はイレーネにお任せ下さい」


「助かる。では――」

「お帰りをお待ちしております、盗賊殿下」


「はは、盗賊殿下か。それは皮肉が利いて悪くない呼び名だ」


 王子の部屋を出て、俺は会議室に舞い戻った。

 そこからプルメリアだけを引っ張り出して、ついでにオデットとモモゾウも見かけたので応接間に引っ張り込んだ。


「その姿っ、ドゥッ、会いたかったよぉっ♪」

「いつも顔を合わせているだろう。それよりモモゾウ、久々に一仕事やるぞ」


「いいねっ、今度は何を盗むのーっ!?」

「橋だ」

「えーーーっ、橋っ!?」


 オデットもどことなくいつもより明るかった。こっちの姿の方が、お互い調子が戻ってずっといい。プルメリアの方は俺が何をするのか察したのか、思慮に入っていた。


「それは、アインガルド大橋のことかしら……?」

「え……それって、もう敵の手に陥ちてるって話じゃ……」


 そうだ。会議の中でそう聞いた。アインガルド大橋の戦略的重要性も嫌ってほどにだ。

 諸侯が言うには、その橋は特別な動力で動く古代の跳ね橋らしい。


「ああ。そこに忍び込んで、動力を盗んでこようと思う」

「えへへっ、それなら影武者なんかよりずっと楽ちんだねっ!」


「ああ、全くその通りだ。こっちの方がずっとずっと楽だ」

「大好きだよ、ドゥ♪」


「そのセリフは今関係ないだろう」


 俺はモモゾウとじゃれ合いながら、一時的ではあるが盗賊に戻れることに喜んだ。

 プルメリアはうなづき、オデットは心細そうに俺たちを見ていた。


「危険よ」

「そうだよっ、敵だってこっちが狙うってわかってる場所じゃない!」


「そうね……。だけれど大河を渡す橋を機能停止させれば、敵は大幅な迂回をしなくてはならなくなる……。それに船を使って渡ろうにも大軍だもの、膨大な補給物資も運ぶ必要もあるわ。もし橋の停止を実現できれば、戦況を変える最高の一手になるわ」


「ダメだよっ、危ないよっ!?」


 オデットの心配が俺とモモゾウは嬉しかった。盗賊王のジジィが失踪して以来、俺たちには帰りを待ってくれる存在がどこにもいなかった。


「えっ、ちょっ、きゃっ、な、何っっ?!」

「いや、心配してくれるのが嬉しくて、つい……」


 オデットを胸の中に包み込んで、モモゾウと一緒に彼女の温もりを確かめた。満足すると恥じらう彼女を解放し、わざと悪い顔をした。


「帰ったら続きをしよう」

「つ、続きぃぃっ?!」

「ごめんね、オデット。ドゥは好きな子に意地悪するタイプなの……」


「す、好きぃっ?!」

「時間が惜しい、もう行く。モモゾウ、お前は勝手なことをベラベラとしゃべるな」

「作戦の成功を祈ってるわ」


「あっ……が、がんばって! 無理なら無理で、戻ってきても全然いいからっ! とにかく無事に戻ってきてね、ドゥ!」

「アンタたちはいちいち大げさだ」


 さあ決まった。

 これから交通の要所である跳ね橋、アインガルド大橋を目指し、潜入する。


 その橋の下には、王都セントアークに走る大河の分流が走っている。交通の要所だ。ここを押さえれば、ベロスは容易にはこちら側に渡ってはこれない。


 全ての仲間たちを全滅の危機から救うために、俺は交通の要所アインガルド大橋へと急行した。


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