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15.檻

一方その頃、勇者カーネリアは――


・カーネリア


 連日止まぬ魔物の襲撃は、なぜかこの王都だけに集中するようになっていた。

 魔軍の狙いは不明。ドゥとオデットが強行突破していったきり、ギニャ王国王都は包囲され、あれから連日の籠城戦が続いていた。


「勇者様、貴女の破邪の力がなければこの都は陥ちていた。ああ、素直にあの時、勇者様の忠告を受け止めていたら……。ワシは王失格だ……」

「陛下、盗賊ドゥならばきっと笑いながらこう言います。それが向こうの狙いだったのだから、仕方がないと」


「勇者様は盗賊ドゥ殿を信頼しておられるのですな」

「はい、誰よりも彼を尊敬しています。僕はみんなの勇者かもしれないですけれど、僕にとっては、ドゥこそが真の勇者なんです」


「そうですか……。はー、若いっていいなぁ……。王様さぁ、二人のキラキラの若さが超まぶしいよ。……おっと、交代の鐘が鳴ってしまいましたな」


 僕は戦った。変だと思いながらも、ギニャ王国の民を守るために王と共に最前線で戦い続けた。

 現在も魔物の群れがこの王都を包囲している。そしてその周囲には近隣諸侯が駆けつけていて、魔軍と激しくせめぎ合っていた。


 僕は魔軍の物量任せのメチャクチャな戦術に、城から一歩も出られない。

 外の仲間と合流しようにも、ずっと阻まれてしまっていた。


「カーネリア様っ、至急西門に援護を! 補給物資を抱えて、こちらに突入してくる部隊があるそうです!」

「了解だ、至急向かおう。陛下、こちらはお任せいたします」

「おお、補給物資かー! うむ、援護を頼む!」


 けれどその日、城壁の外に出ることになった。

 強行突破をはかってきた部隊は鎧をまとった精鋭たちと――なんと離れ離れになっていた僕の仲間たちだった。ペニチュア、ラケル、ディシム、ソドムさん、みんないた。


「お待たせ、カーネリアママッ!」

「御子様、お怪我はありませんか!?」


 ペニチュアは人間とモンスターの両方の死体を使役して、双方の陣営を恐怖の底に陥れていた。

 ラケルは僕の後輩みたいなものだ。僕の無事を半泣きで喜んでくれていた。


「のんきに再会を喜んでんじゃねーぞっ! こっちは急がなきゃなんねーんだからよぉっ!」

「無事で、よかった」


 火炎魔法でディシムが追撃者を焼き払い、ソドムさんはペニチュアを抱えて敵を六角棒で薙ぎ払った。僕は仲間たちに押し流されるように、援軍と物資と共に王都の城壁内部へと戻った。


 ペニチュアが使役する死体たちが敵を阻んでくれたため、一連の流れは鮮やかで一瞬のことだった。

 補給物資が籠城を続ける兵や民を喜ばせ、重装備の援軍が都の守りを盤石にした。


「えっ……?」

「やっぱり気付いていなかったのね」


「それ、どういうこと……? だって、それが本当なら、この戦い……僕の、せいじゃないか……」

「違う。カーネリア、悪くない」

「普通気付かねぇよ。まさか、自分が台風の中心そのものだったなんてよぉ……?」


 僕は知らなかった。

 この長い籠城戦が、ギニャ王国の都を潰すためではなかっただなんて。


「魔軍の狙いは……僕、だったのか……?」

「正しくは勇者カーネリアの封じ込めね。一連の流れを俯瞰(ふかん)してみれば、敵の狙いは1つよ」

「クーデターだ。俺様とペニチュアの予想では、魔将グリゴリはこっちにはいねぇ……。俺様たちの標的は今、クロイツェルシュタインのどこかにいる! そうとしか思えねぇだろ!」


 敵は僕たちを沿海州の奥深くに引き込んで、罠とアンデッドだけの城に招いた。

 敵は僕たちがそこから生還すると、なりを潜めて時間を稼いだ。

 敵はそれから頃合いを見て魔軍を動かし、僕のいるギニャ王都を包囲して、封じ込めた。


 それらが全て敵の手の内だったと言われたら、もうその通りにしか聞こえなかった……。


「まだ遅くないわ、パパのところに帰りましょ。勇者の帰還、それこそが敵の最も嫌がる展開だもの」


 僕たちはその仮説をギニャ王に伝え、沿海州脱出のための作戦を立てた。

 目指すは本国クロイツェルシュタイン。僕の勇者、盗賊ドゥとの合流だった。


 待っててくれ、ドゥ。僕は君を助けに必ず帰る。


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