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12-2.盗賊王子 - 依頼内容:成り済まし -

「……………………は?」


 現実に脳の理解が追い付かず、しばらく頭の中が真っ白になった。アイオス王子は俺に断られるかと不安そうに目をそらして、それからどうかお願いだと、胸の前で手のひらを組んで頭を下げてきた。


「姉と義兄(あに)王の説得に行かせて下さい!」

「ふふっ、発案者はオデットよ」

「ちょっ、私ばっかのせいにしないでよーっ!?」


「すまん、アンタたちの言っていることの、意味が俺にはよくわからない……」

「あら、王子殿下が言った通りよ? 彼は貴方に替え玉になってもらいたいの」

「か、替え玉なんてとんでもない! きっと、オレよりも立派に王子をしてくれると、そう期待しているくらいです……っ!」


「アンタら、正気か……?」


 確かに王子の影武者を完璧にこなせるのは俺だろう……。だが、盗賊が王子の代わりを演じるのか……?

 育ちの悪い俺のような人間を、王子に仕立て上げるというのは、それは正気の判断なのか……?


「クロイツェルシュタイン王家は、隣国リステン王国と縁戚関係よ。だったらアイオス殿下が自らおもむき、彼らを説き伏せて、援軍を要請するのが勝利への最短距離だと思わないかしら?」

「そうだよっ、援軍さえ出してもらえたら流れが変わると思うのっ!」


 合理的だ。説得に成功しさえすれば、まとまった援軍と補給物資が手に入る。

 俺の人格と育ちが、王子とはまるで正反対の性質だという落とし穴に目をつぶれば。


「この動きを反乱軍が知れば、反乱軍は必ず遠征中のアイオス王子を討ち取ろうとするわ」

「そりゃ、そうだな……」


「それにね、王子がここエクスタード市に不在でも困るの。新しい諸侯が来てくれたときに、王子様が不在じゃ、仲間を捨てて逃げたと思われるでしょ? だからっ、今は王子様が2人必要なのっ!!」


 オデットは両手を握り締めて熱弁し、ウィロー男爵は両手を組んでそれに何度もうなづいた。

 俺か? 口を半開きにして呆れ果てていたさ……。


「お前、な、オデット……。お前は俺に、この文字も賭けない男に……諸侯の応対をさせるつもりなのか……?」

「あら、ご不満? もしももっと良い代案があるなら聞くわよ?」


 そう言われて少し考えた。結論は『そんなものはないが、正気かお前ら?』だ。


「お願いします……祖国を救うために、どうか力を貸して下さい、ドゥ様……」

「俺は生まれは貧民で、私生児で、悪党で、今は世間を騒がす盗賊だぞ……?」


「いえ、カーネリア様とギルモアから聞いています、貴方の誇り高さを。どうかお願いします、もう1度だけオレを演じて下さい」


 モモゾウの意見はというと、どうも爆睡中だ。モモゾウは難しい話は苦手だからな……。


「わかった……。それが最前だと言うなら、やってみよう……、作戦としては、まあアリだ……」

「本当ですか!? よかった……」

「これで出立できますな、殿下!」


「……王子様ごっこは存在に楽しかった。こうなったら状況を逆手にとって、王子生活を満喫することにするよ」

「よかった、これで仲間がいっぱい増やせるね!」

「はいっ、発案者のオデットさんにも感謝しています! 必ず大軍を引き連れてここに帰ります!」


 というわけで、そういうことになったらしい。

 すぐに出立したいそうなので、王子と俺だけが部屋に残って、彼の王子の装束を借りることになった。


「な、なんだか、恥ずかしいですよね、これ……」

「ああ、第三者に見られたら妙な現場だと思われるだろうな」


「え、妙な現場とは……?」

「なんでもない。アンタはカーネリアにそっくりだ」


「そんな、オレはカーネリア様みたいに立派でもなんでもありません……。城を捨てて逃げた臆病者です……」

「そういう自己評価が低いところもそっくりだ」


「あの……もしかして、オレを励ましてくれているのですか……?」


 王子は俺を丸い瞳で見つめていた。

 言葉を交わすタイミングを間違えたかもしれん。彼は半裸の俺を熱い視線で今も凝視していた。


「当然だ、俺たちの未来はアンタにかかってる。リステン王の足下にしがみついてでも、援軍要請を成功させてこい」

「はいっ、オレに任せて下さい! ドゥ様、こちらのこと、どうかよろしくお願いいたします……。貴方なら、きっとオレ以上に上手くやってくれるはずです!」


「それはないな。それよりさっさと下を脱げ」

「し、下っ?!


「早く脱げ」

「ちょ、そこまで徹底する必要は――あっ、やめ、あああーっ?!」


 この日からオレは王子アイオスになった。

 シルクのパンツがムダにスベスベとしていて、なんだか股間を触られているかのような気になって、しばらくは気分が落ち着かなかった。


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