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11.総司令ベロスは常に下痢気味

信用泥棒、その後――


 翌日、負傷からの奇跡の生還を果たしたピッチェは、ベロスが派遣した伝令に激怒した。


「ガラントと組め!? あり得ないっ、あり得ないみゃぁっっ、あ、あた、あたたたたた……っ」

「な、何があったのですか、ピッチェ様……?」


「ガラントの暗殺者に襲われたみゃぁっ!! あのペテン師がっ、ワシを殺そうとするといい度胸してるみゃぁっ、こうなったら戦争っ、戦争だみゃぁっ!!」

「お、お待ち下さい、ピッチェ様! こ、この命令はホーランド公爵直々の……っ」


「知るかぁぁぁっっ!!! 王子を討ちたいんならっ、自分から出てくるのが筋だろがみゃっ、東のワシらにっ、なんでもかんでも押し付けるなみゃっっ!!」


 ヤツが反乱軍の首謀者にすら逆らうバカで助かった。


「おいっ、傭兵どもを動かすみゃ! リバーウッド国境に兵を展開して、あのペテン師を脅かしてやるみゃぁよっっ!!」

「落ち着かれて下さい、ピッチェ様! ホーランド公爵がお怒りになられますよ!?」


「ぶち転がしてやるみゃぁぁっっ!!!」


 かくしてメイドたちを悩ませていた傭兵は、ガラント伯が支配するリバーウッド国境に派遣され、屋敷に平穏が訪れたのだった。


 ん……? こんなに迅速に、どこでこの情報を手に入れたかだって?

 そんなの決まっているだろう……。


「おぉぉぉ、アンナ……ワシが信じられるのはお前だけ、お前だけみゃ……。お前だけは、ワシを見捨てずに治療を施してくれたみゃぁ……。ワシは……ワシがお前にどれだけ救われたか、おみゃーにはきっと、わからにゃぁみゃぁよぉ……」

「療養に徹されて下さい、ご主人様。些事は私が貴方の代わりに取りはからいますので……」


 アンナだ。



 ・



その半日後、ガラント伯爵側は――


「愚かだとは思っていたよ。しかしな、ここまで愚かな男だとは……」

「ガラント様、派兵の方は……」


「不可能だ、他をあたれ」

「で、ですが、これはホーランド公爵の……っ」


「ホーランドに伝えろ、私を動かしたかったら、ピッチェを殺す援軍を寄越せ。話は以上だ、下がれ」


 ガラント伯爵からすれば仕方がなかった。

 反乱軍の要請に従おうにも、今兵を動かしたら自分がピッチェに攻め滅ぼされる。


 ガラントは兵をスティールアーク側の国境に移動させ、ピッチェとのにらみ合いを始めるしかない。誤解が解けるその時まで。


「無能な味方ほどたちの悪いものはない……。どうしたものか……」


 ピッチェはアホだ。傲慢で人の話を聞かないアホだ。

 暗殺者は偽者で、お前は離間の計にかけられたと説明したところで、『嘘吐くでにゃーみゃぁっ!!!』と返されるのがオチだった。


 

 ・



また一方で、ベロスは――


・ベロス前男爵


 俺の天幕にクーデターの首謀者、ホーランド公爵からの使者がきていた……。


「ベロスよ、何がどうなっている? 公爵が心穏やかにこの現状を見ているとは、貴公も思ってはおるまい?」

「ホーランド公爵は俺を責めるのか……?」


「当然であろう。貴公は総司令、結果に責任を持つ立場にある」

「それはおかしいだろう……。ピッチェのアホが足を引っ張っただけだというのに、なぜ俺が責任を取らねばならぬ……!」


 理不尽だ……。諸侯はいまだに兵力を出し惜しみしている……。

 アイオス王子を今すぐ止めなければ取り返しが付かないというのに、やつらがまともに動かないせいで、何もかもが後手後手ではないか!!


「急がれよ。結果を出せなければ総司令から解任すると、ホーランド様おっしゃっておられる」

「くっ……か、解任か……」


 そんなことになったら名誉も勲功も失われてしまうではないか……!


「ベロスよ、アイオス王子への対応が遅れれば、ヤツは王党派の旗印になってしまう」

「そんなことは言われなくともわかっている……っ。文句は俺ではなく、勝った気になっているのろまども言えっ!」


「その言葉、直接公爵様にお伝えしてもよいと?」

「そ、それは……。オ、オブラートに包んでくれ……。こちらはこちらなりに奔走しているのだ……」


 何もかもが順調にいっていたのに、雲行きが怪しくなってきた……。


 今すぐ全軍をもって敵を叩き潰さなければならない。だというのに、兵が集まるのが遅すぎる!

 集結兵力はまだたったの23000人だ……。


「結果を出されよ。結果さえあればホーランド様も満足される」

「わかった……。だが、ホーランド公爵からも諸侯を急かすよう伝えてくれ。予定の兵が集まらなければ、こちらも動けん……」


 どいつもこいつも無能、無能にもほどがある……。

 無能な諸侯と、早急な鎮圧を求める公爵との間で、なぜ俺が板挟みにならねばならん……。


 気分が悪い……急に胃がキリキリと、うっううっ……。


「くっ……は、腹が……っっ。お、おのれ、おのれぇ……盗賊ドゥゥッ!!」


 は、腹が、腹が痛む……。

 あの当時、腹下しの矢を何度も食らいまくってからというものの、腹の調子が……っ、うぐっ?!


「大変です、ベロス様! 今度は東方のクリフォード男爵が、アイオス王子に味方したと報告が!」

「なっ――うっ、うおぉぉぉ……っ?! は、話は後だっ、ト、トイ、レ……ッッ」


 推定兵力差は77300:3600。

 俺は簡易トイレで激痛と共に丸まりながら、悪夢のようなこの現実をドゥへの怒りで耐え抜いた。


 総司令になんかに、なるべきでは、なかった……。

 こんな役職……ただの、貧乏くじ、ではないか……。ぅぅぅっっ?!!


 三度目の激しい波に、俺は神へと慈悲を求めていた……。

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