9.白旗とモモンガ
・盗賊
その日、エクスタード市に再び緊張が走った。新たな軍勢がこちらに迫り、往来は防壁に集まる守備兵たちと、その支援をする兵や大人たちでごった返していた。
俺も一介の戦士として防壁に上り、弓と矢を手に彼方の軍勢を見やった。
「大盗賊ドゥ、あんたと一緒に戦えて光栄だ!」
「あの王子とお前が手を組めば必ず勝てる! 頼りにしてるぜ!」
「ああ、こちらこそ頼りにしている」
無駄口が少し多かったが兵たちの士気は燃えるように熱かった。
ところでだが、俺は人よりもずっと視力がいい。彼方にある敵軍を凝視して様子を見ていると、先頭の部隊になにか白い物が混ざっていることにふと気付いた。
「どうしたの、ドゥ?」
「モモゾウ、戦いが始ま前にオデットのところに戻ってもらう約束だったが……その前に少し仕事を頼めるか?」
「うんっ、いいよっ! だってボクチンもドゥと同じ戦士だもん!」
お前はこんな下らない戦いに加わるべきじゃない……。
俺は心の中でそうつぶやいて、モモゾウの尻ををボールみたいに掴んだ。
「ぇ…………」
「すまん、モモゾウ……」
「えっ、えっえっ、えーーーっっ?!!」
「ちょっと見てきてくれ」
オーバースローで大きく振りかぶって、俺は仰角30度ほどの高さで軍勢に向けてモモゾウを投擲した。モモゾウの悲鳴や抗議が聞こえたような気もした。
「おおっ、モモゾウちゃん様は今日も高く飛ぶなぁっ!」
「モモンガってあんなに上手く空を飛べるもんなんだな!」
モモゾウは天高く飛翔し、その腹膜を広げて大空の風をつかむと、やがて遠く見えなくなっていった。
相棒の姿を探して1分ほど彼方を観察すると、空に小さな点が現れた。それはみるみるうちにモモゾウの姿となり、颯爽と防壁の上部を旋回すると、最後には俺の胸に飛びついた。そして言った。
「もーっっ、ドゥはモモンガ使いが荒過ぎるんだってばーっっ!!」
「後で謝るよ。それで、様子は?」
「あっ、そうだった! あのねっ、あの人たち白い旗を挙げてたよ! 今すぐプルメリアたちに伝えなきゃ!」
「でかした。では悪いが報告も頼む」
「任せて、ドゥ! へへへ……ボクチンも、ドゥたちの力になれて嬉しいっ!」
弓と矢を背中に戻し、俺は戦闘態勢を解いた。偽りの白旗である可能性もあるので、念のために待機する必要があった。
「白旗……? おお、確かに白いのがチラチラと……」
「まさか、あの軍勢って……俺たちの援軍なのか!?」
「油断するには早いが、多分な」
やがて、白旗を掲げた軍勢が防壁から距離を取って集結した。その中から少数の護衛に囲まれた騎馬兵たちが出てきて、正門前にたどり着くと声を張り上げた。
「我ら辺境諸侯はアイオス王子にお味方する! 2000人の軍勢をたった1人でひれ伏させたそのカリスマと武勇! 命を賭けるに値する!」
それは静観を決め込んでいたはずの辺境の諸侯たちだった。
数の上ではいまだに厳しい劣勢にあるというのに、彼等は一見は全く勝ち目のないこの戦いに加わると言ってくれた。
きっかけは王子の奇跡の勝利だ。自ら戦いに身を投じ、王族のカリスマで軍を従えたことにより、誇りと命を賭ける価値があると見なされた。
推定兵力差は78000:3200
全く勝てない戦いではなくなってきた。
ベロスたちが全力を俺たちを潰しにくる前に、俺たちはさらに仲間を募らなければならない。
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