6.急報、海を越えて
「えっ、オデット!? なんでこっちに!?」
ランゴバルド領エクスタードに居るはずのオデットだ。
彼女は沿海州の薄手の旅装束を身に付けていて、その表情は必死も必死の形相だった。
先に俺たちが宿泊していた宿を訪ねたらしく、モモゾウがオデットの肩に乗っかっていた。この状況でモモゾウが愛想を振りまかないということは、相当にヤバいらしい。
「何が起きた?」
「反乱!!」
「えっ……反乱、反乱だってっ!?」
「そう、反乱よ! クロイツェルシュタインで反乱が起きたの! お願い、助けてドゥ!」
最後の言葉は悲痛な叫び声となり、否応なく店の注目が俺たちに集まることになった。消えた魔将グリゴリ。そして勇者の母国で発生する反乱か……。
「……わざわざこちらに渡ってきたということは、あまり良い戦況ではなさそうだな」
「教えてくれオデット! 王都は……神殿はどうなったんだっ!?」
「そ、それは……」
オデットは詰め寄られて言葉を迷った。その時点でもうダメだと誰にでもわかった。
「あのね、カーネリア……王都は、陥ちたって……そう王子様が……」
「そんな……そんなバカなっ!? いったい、あっちで何が起きてるんだっ!?」
俺たちが沿海州で足止めを食らっている中、母国では王都セントアークが陥落していた。俺も王都の母と弟が気にかかり、余裕がなくなるくらいには気持ちが重くなった。
「ランゴバルド領は無事か?」
「う、うん、今のところは……。でも、プルメリアは、王子様を守るつもりなの……」
「ペレイラ王は?」
「捕まったって、アイオス王子様が……。彼、ランゴバルド領に逃げてきたの! だからっ!」
動揺しているのもあって、オデットの話は断片的だった。その後の彼女の話を含めて要約すると、こういった話になる。
王都でクーデターが起きた。首謀者はホーランド公爵、この国のナンバー2だ。狙いは国王ペレイラ・クロイツェルシュタインと、それに味方する敵対諸侯の排除。
身内の裏切りにより王城はホーランド公爵ら反乱軍に制圧され、アイオス王子がランゴバルド領に落ち延びた。
状況は超の付く劣勢。王党派諸侯の大半が王都で暮らしているのが大きな仇となった。
そこでプルメリア・ランゴバルドは、この状況を覆すただ1つのカードが盗賊ドゥにあると判断し、オデットをこちらに派遣させた。
戦いがあったのは王城と兵舎のみで、町や神殿に被害はない。ひとまずは安心だった……。
「こっちが必死で戦っている中、あっちは内ゲバか。あの国には心底うんざりだ」
「そんなこと言っている場合じゃないよ、ドゥ! 帰ろうっ、アイオス王子を助けないといけない!」
「あ……ありがとう、カーネリア! カーネリアもいればもう大丈夫だわ!」
「え、ぼ、僕はそんなに強くないよ……凄いのは――」
「謙遜するな。アンタ十分すぎるほどに――」
しかしその時、警告の鐘がけたたましく鳴り響いた。外が慌ただしくなり『敵襲、敵襲』と男たちが声を張り上げていた。
「襲撃らしいな」
「行こう、ドゥ!」
「嘘、なんでこんな大変なときに……っ」
「モモゾウ、俺の代わりにオデットを頼む」
「うん、ボクチンに任せて!」
もしかすると、また俺たちはハメられたのかもな……。
オデットを店のオヤジとモモゾウに頼んで、俺とカーネリアは城壁の外の部隊に加勢した。敵は長らくなりを潜めていたモンスターたちのその大群だった。
俺たちは奮戦し、夜を迎えて戦いが一次中断するまで、ギニャの城壁まで下がって戦い続けた。
何もかもが後手後手だ。まるで敵の手のひらで踊らされているような、不快な気分が粘り付くように胸にからみ付いて離れなかった。
本国に帰ろう。俺たちはなんの成果も得られていないが、こうなってはもう戻るしかない……。




