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エピローグ.勇者と盗賊の旅立ち

 それから半月ほどここに滞在することになった。


 カドゥケスの盟主を殺した下手人は不明。まかり間違ってもマグヌスの寵児ドゥではない。そういうシナリオがヤツにより作られていたが、状況がどう動くかはわからない。しばらくの静観が必要だった。


 しかしそろそろ旅立ってもいい。このままここに居着いてしまうと、ここのやさしい人たちに影響されて、牙を抜かれてしまいそうだった。

 そんなある日、クロイツェルシュタイン王国からの伝令が家の軒先に押し掛けてきた。


「義賊ドゥ様! やっと、やっと見つけました……!」

「違う。俺は義賊じゃない、盗賊だ」


「ああ、すみません、そうでしたね、建前上は」

「おい……」


 礼儀のなってないやつだったが、俺も人のことなんて言えないのでそこは別にいい。


「あっ、こちらを! 陛下からの書簡です。あ、中は読んでませんよっ、神に誓って!」

「読んだのか」


「よ……読んでませんよ!」

「王の書簡だろ……。下手したらお前の首が飛ぶぞ……」


「だって俺、貴方のファンで、つい……」

「悪党のファンなんて止めろ、ろくてもない」


 溶かされた痕跡が残る書簡を開いて、ざっと文に目を通した。

 親愛の情が織り交ぜられた良い手紙だった。


「参加しますよねっ、するんですよねっ!?」

「ああ、する」


「やった!!」


 書簡の中身はざっくりと言ってこうだ。

 勇者カーネリアは南方を支配する魔将を討つため、沿海州へと旅立った。つきましては約束通り、勇者を支援してもらいたい。


 前金は5億オーラムと領地への援助。さらに成功報酬は20億オーラム。今すぐ勇者の冒険に合流してほしい。だそうだ。


「少し待ってくれ、モモンガに手紙を書かせる。モモゾウ、モモゾウッ、いるか!?」

「相棒のモモゾウ様ですね! 俺、お会いするのが楽しみです!」


 俺はその後、モモゾウに小言を言われながら返事の手紙をモモンガに書かせた。

 書き上がった頃にはもう噂を聞きつけて、オデットとペニチュアが押し掛けてきた。


「い、いってらっしゃい……。え、えい……っ!」

「まあ、ママったら大胆……!」


 別れを惜しんでくれて内心嬉しかった。不器用な口付けを頬にされて驚いたけれど、こっちはもっと嬉しかった。綺麗な世界のまっすぐな好意を感じた。


「う、うち……色々、ペニチュアに教わったの……。だからっ、無事に戻ってきたらもっと、あの……いいこと……あ、やっぱり……やっぱりなんでもない……」

「もうママ! そこはぐいぐい行かなきゃダメよ! 押し倒して!」

「いや押し倒させるな、焚き付けるな……」


「が、がんばる……がんばるよ、ペニチュア……」

「うん、わたしはママの味方よ。男を手玉に取る方法、ママにいっぱい教えてあげる!」

「お姉ちゃんっ、俺たちをそっとしておいてくれ!!」


「嫌! パパの血族がわたしには必要なのっ!」

「う、うち、がんばる……っ!!」

「がんばらなくていいっ!!」


 こうして俺は魔将討伐の旅に出た。沿海州の彼方で仲間が待ってくれていると思うと、翌日からの旅の足取りは確かになっていった。



 ・



 沿海州に渡り、勇者カーネリアの足取りを追った。彼女は俺との合流のために大きな町で待っていてくれて、その酒場宿の一室で俺たちは再会することになった。


「ああよかったドゥ、きてくれたんだなっ! モモゾウくんも久しぶり!」

「きたよーっ、カーネリアッ!」

「戦死されたら寝覚めが悪いからな」


「またそういうへその曲がったことを言う……」

「素直に会いたかった、再会できて嬉しいと言うと思ったか? イヤなこった」


 本心を言えば、一緒にまた旅ができるなんて夢のようだった。俺は盗賊だが、勇者の仲間になることに憧れを持っていたのだろう。ま、男に生まれたのなら当然の願望だ。


「会いたかったっ、カーネリアママ!」

「え……」


 ただそこには招かれざる客がいた。

 快速船が出航するなり、船上にペニチュアお姉ちゃんがいきなり現れて、こう言ったんだ。


『やっぱりわたしも行くことにしたの。だってそうでしょ、パパとママが死んじゃうのは困るもの。だから2人ともわたしが守ってあげる』


 お姉ちゃんは毒使いだが回復薬も扱える。勇者パーティで死霊術を使ってはいけないというルールもない。今のところは。お姉ちゃんは盗みの仕事では邪魔になるが、魔将討伐ならば頼れる即戦力だった。


「ついてきてしまったんだ。今さら帰れともいないから戦力に加えてやってくれ」

「えっ、えええええーーっっ?! だ、だって、だってこの子……」

「安心して。わたし、ちょっとだけ改心したの」


「そりゃ、戦力にはなるけど、でも……常闇の眷属……」

「それはもう止めたの。色々あって、そうすることにしたの。だから気にしないで。……死霊術は使うけれど」


「ピィッ……?!」

「それは極力自重してくれると嬉しいよ……」

「お姉ちゃん、あまりカーネリアを困らせないでやってくれ……」


「ふふふっ、だってこの困り顔がたまらないんだもの♪ ママのやさしさを感じるわ……」

「嫌われるぞ……」

「べ、別に嫌いにはならないけど……困るよ……」


 南方の魔将は不幸なやつだ。装備を身ぐるみ剥ぐ盗賊と、不死にして死霊使いで毒と薬のスペシャリストを相手にするのだから。


 俺とペニチュアお姉ちゃんと勇者カーネリアと、それとその他取り巻き。これを相手に勝てるやつがいるとはとても思えない。


 盗賊王に騙されて世界は少しだけ平和になった。

 ならばここから先は俺たちの出番だ。俺はカーネリアの背中を強引に押して酒場に下りると、そこで待っていた新しい仲間たちに改めて挨拶をした。


「俺はドゥ、盗賊ドゥだ」


 俺は義賊ではない。誇り高き盗賊だ。

 独善的な理由で人から宝を盗み、偽善と知った上でそれを手放す。カーネリアやオデットみたいな真っ直ぐな心の持ち主に、この傲慢な仕事は務まらない。


 かつて盗賊王と呼ばれた偉大なる男がいた。彼の語る悪の流儀は、今もこの胸の中で錆びることなく輝いている。


 俺たちは悪だ。光を支える影として、俺たちはこの世界に生かされている。


―― 勇者パーティの汚れ役、正義厨にリストラされる。俺が抜けたら世間知らずのボンボンしか残らんけど、もう知らん。……と思った矢先に騙し討ちにされたので『盗賊』として反撃する 終わり ――

本日より1日1話更新、21時の更新はありません。

明日より3章目に入ります。


本作は10万字完結を想定で作りました。

なので2章は実は、盗賊ドゥの物語でした。


3章では、やや本筋から脱線していたストーリー構成を1章寄りに戻して書いています。

現在の投稿ストックは6万字。3章は応援して下さった皆さまへの感謝も込めての新規に描き下ろした続編です。


1章だけではスッキリしなかったベロスやガブリエルにもう一度、あれこれするお話構成でもあります。どうかこれからも応援して下さい。

並行して新作を書いています。もし興味を覚えましたら作者をお気に入り登録しておいて下さい。活動報告をあまり書かない静かな作者です。

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