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15-2.帰るべき家

 スティールアークから半日ほど荷馬車に揺られると、新ランゴバルド領エクスタードにやってきた。町の外れに無数のキャンプと炊事の煙が上がっていて、既にぼちぼちと木造の家が建ち並んでいた。


 それを目にすると、自分が正しい金の使い方をしたのだと確信できた。


「ドゥ、お帰り! 待ってたよっ、ずっと待ってたよっ!」

「まさか旅先から送金して下さるなんて思いませんでしたわ。さ、こちらへどうぞ、あれが貴方のため家ですの」


 荷馬車を降りてしばらく町並みを眺めていると、そこにオデットとプルメリアが駆け付けてきて俺を大歓迎してくれた。


「ドゥのための家だよ! 一番最初に建てたんだからっ!」

「あの送金で木材を輸入できましたわ。町を捨てさせたからには、急いで家を建ててあげないと不満が出ますから……」


 オデットは俺の手を元気に引いて、プルメリアは闇商人時代が嘘みたいにニコニコと終始笑顔で笑っていた。


 新居は木造の大きなログハウスだった。モモゾウと2人で暮らすにはあまりに大きくて、それに細かな部分にも嫌に手が込んでいて、たかが家一件へのリソースの割き方が尋常ではなかった。


「俺の家なんて後回しでよかったのに……。だが、良い家だ」

「素直に喜ぼうよ、ドゥ! わーいっ、ボクチンたちの家だぁぁーっ!!」

「潜伏場所にちょうどよさそう……。ねぇ、ところでパパ、オデットがわたしの新しいママ……?」


 ペニチュアお姉ちゃんとの同行は復活を阻止するまでの話だ。この町に残ってもらう約束になっていた。

 お姉ちゃんは無邪気にこちらへと首を傾げて、説明の段取りをぶち壊してくれた。


「嘘、うちこんなかわいい子のママになれるのっ!?」


 しかしオデットという女性は、見ず知らずの旅の学者が臨時徴収されようとしているところに、後先考えずに割り込んで正論を吐くような直情家だ。性根が俺たちとは根本的に違っていた。


「え……? あ、まあ……。だがオデットはそれでいいのか……?」

「話なら今さっきアンドラスさんに聞いたよっ、8歳の頃の恋人の子なんでしょ?」


「はぁっ!?」

「そうよっ、わたしのママはパパと一晩の恋をしたの。でも、まだ幼かったから引き裂かれてしまったのよ……」


 ……無理しかない。こんな話を信じるやつがいるはずがない。


「うち、ドゥに恩返しがしたい! 私に任せてっ、ドゥが外で悪いやつをやっつけている間、私がこの子のママになるっ!」


 いた……。


「いや、だが、その、ペニチュアお姉……あ、ううん……」

「わたしがこの土地を守るわ。だってわたしにはもう、役目がないもの……。だからパパ……」


 お姉ちゃんが小さな身体をピッタリと寄り添わせてきた。死ぬまで続くはずの役割を失ったからか、お姉ちゃんはますます子供めいたしぐさをするようになった。


「わかった。それがペニチュアの新しい目的になるならお願いするよ」

「ふふっ、任せて」


 考えようによってはこれ以上ない用心棒だ。闇の世界を生きてきたからこそ、彼女は悪党への嗅覚に長けている。敵を自然死に見せかけるなんてお姉ちゃんなら造作もない。


「最強の用心棒が守ってくれるのなら、俺も安心して旅を続けられるな」

「ねぇ、パパ……」


「ん……?」

「わたし、パパとママの子供がほしい……。そしてその子を次の新しいパパにするの……」


 ペニチュアお姉ちゃんは俺に耳打ちをして、ここに連れてきたことを俺に若干の後悔をさせた。

 彼女は生き神同然の存在となって、このエクスタードを守るという。それはこの土地の運命を左右させるほどの大事だ。


「俺たちはそういう関係じゃない」

「大丈夫、わたしに任せて?」


「不安しかないから止めてくれ!」

「オデットママッ、パパがねっ、今夜はオデットとずっと一緒に居たいって!」

「う、嘘っ?!」


「本当よ。ずっと会えなくて寂しかったんだって!」

「わ、わたしも寂しかった……。わかった、今夜はここに泊まるね……ドゥ」

「言ってない……」


 ペニチュアお姉ちゃんは血族を望んでいる。もし俺に末裔が生まれたら、彼女はその血が途絶えるまで家に憑り付くだろう……。これは立派な大事だった……。


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