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15-1.マリーセレスト

「ねぇ、パパ。なんだか様子が変よ」

「変……? む……これは……」


 馬車から外を眺めると、ゴーストタウンとなったスティールアークが俺たちを出迎えた。


「オ、オデット、大丈夫かな……」

「そっちはアンドラス傭兵団が付いているから大丈夫だろう。しかし、どこを見ても人影すらないな……」

「みんなさらわれちゃったんじゃないかしら」


「こ、怖いこと言わないでーっ」

「ふふっ、パパたちと一緒だと不思議なことばかりで楽しい……」


「こんなの楽しくないよぉーっ!」


 ほどなくしてオデットの両親が経営する雑貨屋に着いた。 

 入り口は施錠されていて、中ももぬけの空だった。


「荒らされた様子もないし、家具一式も消えているな。だとすると――ん?」

「わぁっ、あ、あれって、あの時の傭兵……?!」


 そこにピッチェ子爵に雇われて徴税官をしていた連中が現れた。彼らは俺の姿に気付いたようだった。


「あ、この前の学者さんじゃないか!」

「よう、久しぶり。まさかまた臨時徴収だとか言わないでくれよ?」


「悪い、そのまさかだ。そうだな、その馬車を貰う」

「ははは、相変わらずだな、アンタら」

「待て! これはカドゥケスの幹部マグヌス様の馬車だ! そしてこの2人はその大切な客人、手出しすればただでは済まんぞ!」


 御者からすればまあ、そういう受け答えになるだろう。

 赤黒く塗りたくられた立派な馬車だったので、説得力や威圧感の方もちゃんとあった。


「うへ、人攫いの馬車か……。関わりたくねぇ……」

「だけど仕事しねーとピッチェがキレんぞ? ただでさえ、逃げられた後なんだからよ……」

「参ったなぁ……。なあ学者さん、俺たちゃどうすればいいと思う……?」


 ただ、人殺しを生業とする傭兵たちが犯罪結社ごときにビビるわけもなかった。


「パパ、わたしに名案があるの」

「なんだ?」


「みんな殺しちゃいましょ」

「いやねーよ……」

「パパ!? 今パパって言ったかこの子!?」

「物騒なお子様だなぁ! まあ学者さんの娘さんらしいっちゃらしいが」


 命知らずにも傭兵の1人がお姉ちゃんの頭を撫でようとした。

 触れると傭兵さんの命が危ないのでお姉ちゃんを引っ張り戻して、俺は背中の後ろに回した。


「守ってくれたのね、パパ……♪」

「向こうを守ったんだ」

「あ、ピッチェ――おっとと、ピッチェ子爵様だ、お前ら! 敬礼しろ!」


 そこに領主のピッチェ子爵がやってきた。どうやら元気を取り戻したようだ。馬にまたがって悠々としていた。俺の姿を見るまではな……。


「ピッチェ様! こちらはカドゥケスのマグヌスの手の者だそうです! ……ピッチェ、様?」

「ひっ、ひぃぃっっ?!! お、おみゃ、おみゃ、おみゃぁぁはぁぁっ?!!」


「あれ、どうかしましたか、子爵様?」

「お、おみゃあら何やっとる!! こ、こここ、ころころせいっ!  違うっ、コロコロ転がれと誰が言ったみゃぁっ! 殺せっ、この殺人鬼をっ、今すぐ殺すみゃぁぁーっっ!!」


 傭兵たちが緩慢に剣をこちらに向けるので、俺とペニチュアお姉ちゃんもナイフを抜いた。御者の男もついでにだ。


「うふふっ、虐め殺しがいのありそうな豚ね、パパ♪ 足の指から順番に間接を斬り落としてゆくというのはどうかしらっ♪」

「ギャヒィッ?! おおおおおみゃーの娘は悪魔かおみゃぁぁーっっ?!」


「ありがとう、醜い豚さん♪」

「別に褒めてにゃぁぁよぉっ?! 殺せっ、はよころころせいっ!」

「あ、残念ですけど無理そうです、ピッチェ様」


「は? なんでみゃ!?」

「だってほら、ランゴバルド家の連中がほら、また……」


 傭兵も側も俺たちもやる気がしていなかったので助かった。ピッチェ子爵の後ろ側から騎馬隊がこちらに駆けつけてきた。馬の背にまたがっているのは、あのアンドラスとその傭兵団だった。


「よう、ドゥ! 迎えにきたぜ!」

「ギャーッッ、お前は領民泥棒ーっっ!!?」

「それまた愉快な通り名を付けてもらったもんだな、アンドラス」


「おいお前ら、こちらの方をどこのどなたと思っていやがる! この男こそかの有名な英雄ドゥ! 勇者カーネリア様とご一緒に、魔将をぶち殺した世界最強の男だぜっ!」

「そうよっ、パパに逆らうと喉をかっ斬られるのよっ!」


 俺たちはアンドラス傭兵団――あらため、ランゴバルド正規軍に守られてその場を離れた。御者の男とはそこで別れ、チップに盗んだ金貨を渡すと愛想のいい別れ言葉をくれた。


 ピッチェ子爵はかんしゃくが酷くて大変な荒れようだったが、誰もヤツに従わないので不幸な戦いも始まりようがなかった。


「驚いたろ、大将。スティールアークの連中はあの町を捨ててな、今は旧エクスタード領に移住したんだ」

「そりゃ驚いたよ。しかし町を捨てるなんて、思い切ったことをするもんだな……」


「あのアホ領主を見れば当然でしょうや。ありゃ泥船だ、町に残っても未来はねぇ」

「プルメリアは土地を買ったのか? もっと詳しく教えてくれ」


「喜んで」


 旧エクスタード領は世継ぎがいなくなって潰れた家だ。それ以降は王家の直轄地として細々と続いてきた。

 その土地を27億オーラムの頭金でプルメリアが買った。残金は100年間の分割払いで王家に納める契約だそうだった。


「ねぇパパ、オデットとプルメリア、どっちがママ?」

「おい、ドゥ!? お前その若さで娘がいたのか!?」

「ねーよ……。俺はまだ18だ……」


「は!? ってことは、そんなちっちぇガキの頃に仕込んだってことか!?」

「だから、ねーって言ってるだろ、ハゲ……」


「ははははっ、なんだよつまんねぇなぁ!」

「あらっ、素敵なおじさまと思ったら、つるっつる……!」


 アンドラスはハットを脱いで、油光りする頭をペチンと叩いた。この陽気さが憎めなかった。


明日より、1日1回更新に変更します。

明後日より新章を始めます。失脚したベロスやガブリエルを交えた再ざまぁ展開です。

どうかこれからも応援して下さい。

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