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14-2.真と贋

「パパ……わたしと一緒に子供たちの仇を取ってくれる……?」

「もちろんだ。こいつらは死ぬべきだ、生かして外に出してはならない」


 そこから先は見るもおぞましい殺し合いだ。やつらは恐怖心が麻痺しているのが迷いがなく、おかげでこちらもやりやすかった。

 といっても俺の仕事はほとんどなかったけどな。


「守れなくてごめんなさい……。せめて、みんなが天国でパパとママに会えるよう祈ってる……」

「ピィィッ、怖い怖い怖い怖い怖いよぉぉーっ、ドゥゥーッッ……」

「確かにこれは怖い……」


 ペニチュアお姉ちゃんは死体を使役する。生け贄の祭壇に血を抜かれて殺された子供たちが現れて、憎いやつを1人1人引き裂いていった。もはや戦いにすらならなかった……。

 俺たちは孤児院を去り、宿で荷物を回収するとさっきのキャバレーに押し入った。



 ・



「お久しぶりね、マグヌス」

「これはこれはペニチュア様……。まさか生きてお戻りになられるとは……」


「ふふふ、さすがに今回は危なかった。でもパパが――やさしいこの子が助けてくれたの」

「して、何用でしょうか?」


「わたしたちの脱出を手伝ってちょうだい。ちょっとだけ面倒なことになったの」

「はて、それはどのような――」


「あのねっ、ドゥが盟主を殺したの! 騙し合いの果てに彼の喉を引き裂いたのよっ、ねぇマグヌスッ、素敵だと思わない!?」


 人攫いマグヌスはペニチュアお姉ちゃんに昔から手を焼いていたが、今思えばこの2人はなんだかんだ波長が合っていたのだろう……。


 お姉ちゃんの残酷で無邪気なその言葉に、マグヌスは狂気の笑顔を浮かべて笑い出した。続いて現れたのはヒィヒィと息も絶え絶えな大爆笑だった……。


「まんまとテメェの夢が叶ったわけだ、よかったな、クソ野郎」

「ドゥ、お前こそが悪の中の悪だ。思った通り……思った通りだよ、ヒ、ヒヒヒヒヒッ!!」


 俺たちはマグヌスに盟主の死の情報を教えるのと引き替えに、彼の馬車を借りて町を去った。


 次の盟主の座を狙って、カドゥケス内部ではボス猿同士の抗争が起きることが確定している。そこでマグヌスは盟主の死をしばらく隠蔽し、その間に自分の都合のいいようにお膳立てをするつもりのようだ。


「パパ……」

「せめてそこはお兄ちゃんにしてくれ……」


「じゃあ、ママ……?」

「止めてくれ、パパの方がマシだ……」


 俺はまだ本調子ではないお姉ちゃんを温めるように抱いて、みんなの待つスティールアークへの道を馬車に揺られて進んで行った。この残酷な世界でお姉ちゃんはこの先も永劫の時を生きてゆく。


 だからせめて今だけでも、彼女に幸せな思い出を残してあげたかった。


「わかったよ、もう観念する……。俺はお姉ちゃんのパパになろう」


 その晩に見たお姉ちゃんの笑顔を俺は一生忘れない。お姉ちゃんは嬉し涙を流して、いつまでも俺の胸に顔を埋めていた。



 ・



 盟主相手に俺が口を滑らせることはないとして、ペニチュアお姉ちゃんにすら隠している真実が1つだけある。

 スティールアークまであと一歩というところで馬車を降り、御者の男に一言言って俺は見晴らしのいい草原の木陰に腰掛けた。


 お姉ちゃんは馬車の中で熟睡している。ここならば話せると、袋からモモゾウを引っ張り出すと俺はいつもの定位置に相棒を乗せた。


「モモゾウ、お前はもう気付いているか?」

「え、何が……? ご飯の話……?」


「嘆く女の器。あんなに簡単に奪われてしまうなんて、そもそもおかしいと思わなかったか?」

「あ……でも、お爺ちゃんだってミスくらいするんじゃ……」


「わざとだ」

「え……?」


「あのタヌキジジィ、わざと巧妙な贋作を盗ませたんじゃないのか……?」

「えっえっえーーっ、贋作ぅぅーっ?!」


「アイツは一匹狼だ。情報の出所があるとすれば、それはジジィ本人だ。自分で宝の場所を漏らしたんだ」

「あり得るけど、でもわからないよ……」


「ああ、わからない」


 だがこれでペニチュアお姉ちゃんもカドゥケスも、常闇の王の復活を諦めることになる。すり替えられた偽物が儀式を失敗させ、伝説をこの世界から抹消した。

 あまりに都合のいい結末だ。ジジィに一杯食わされたような気がしてならない。


「ところでドゥ……。ペニチュアのこと、オデットたちにはどう説明するの……?」

「そんなもの、ありのままの事実を伝えるしかないだろう」


「大丈夫かな……」

「そこはお姉ちゃん次第だ」


 俺は草原に寝そべって、モモゾウを胸の上に移して抱いた。あの晩に盟主を斬って以来、気持ちがどこか腑抜けている。俺は目を閉じて少し間をモモゾウと過ごすと、馬車に戻ってスティールアークの町へと入った。


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