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10.死の守護天使

「いいや、アンタの守護天使だよ」


 部屋の奥には軽装の末端構成員が3名、暗殺者が5名いた。暗殺者たちは一斉に俺たちに向けて毒針か何かを吹いてきたので、俺はすぐ後ろの彼を押し倒して口笛を鳴らした。


 すぐに体制を立て直すとその次はトラップの解除だ。投げナイフを放ってワイヤートラップを作動させると、スパイクの付いた板が部屋の入り口を襲った。


「まさか、お前、盗賊ドゥか……!?」

「ああ、勇者様と吸血鬼も一緒だ。守ってやるから後で情報をよこせ」


「ハハハハハッ、いいぜ! お前は悪のカリスマだ!」

「なんだそれは……」


 トラップが崩壊して進入路ができると、俺はその内部に突っ込んだ。戦術的に考えれば、その方が後続の仲間が動きやすかったからだ。


「不法侵入者め、おとなしくしろ!」

「ふふっ、あなたたちの敗因は、死者への敬意を忘れたことかしら……」

「ひぃぃっっ、ミ、ミミミミッ、ミイラが動いたぁぁっっ?!!」


 カーネリアはすぐに突入して俺の背中を守ってくれた。その一方でペニチュアお姉ちゃんはこの場にいた者全てをドン引きさせた。

 伝説の吸血鬼だ。まあ死者を使役できたところで、そうおかしくもなかっただろう。道徳上は知らんが。


「降伏しろ! 降伏しないとドゥとペニチュアは止まらないぞっ、頼むから降伏してくれ!」

「甘い人ね……あら」


 残っていた末端構成員2名は武器を捨ててひざまずいた。相手が人格者として名高い勇者カーネリアだったからだろう。

 だが残りの暗殺者たちは止まらない。ミイラに殺されるよりはマシだろうと、俺は3名を名誉ある暗殺者として死なせてやった。


 残りの2人については説明したくない。ただただエグかった……。

 組織の者が常闇の眷属ペニチュアを恐れるのにも納得するしかなかった。


「お手伝いありがとう……起こしてごめんなさいね、石のお布団で安らかに眠って……」

「本当に僕は、この子の味方をして正解だったんだろうか……」


 ちなみにモモゾウだが、俺の服の中に入り込んで震え上がっている。敵よりも身近な味方の方が遥かに恐かった。ままある展開だ。そっと服の上から慰めると、震えが落ち着いていった。


「さて……」

「ひぃぃっっ?!!」


 投降した末端構成員は腰を抜かしていた。最初に離反したやつも膝が震えている。


「そんなに怯えないでくれ、ペニチュアお姉ちゃんは見ての通りの……少し人と違うだけの普通の女の子だ」

「ちょっとか!? 本当にちょっとか、おいっ!?」


「お姉ちゃんは身を守ろうとしただけだ。それよりも交渉がしたい」

「あ、ああ……。てめぇらは、あの悪趣味な器の情報が欲しいんだよな……?」


「ああ、その話をしてくれたら俺たちはアンタたちを逃がす。地下墓所への不法侵入についても、ここにいる御子様は目をつぶると言っている」


 当然カーネリアは戸惑った。そんな取り決めはしていなかったし、彼女にも立場があった。このまま流されるべきか、理由もなく抗ってみるか、迷いに目を覆ってうつむいた。


「つぶるよ……つぶればいいんだろ……。綺麗事だけじゃ平和はやってこない……」

「やったぜ!」

「ただし、俺はカドゥケスが嫌いだ。十分な情報を提供しなかったやつは、気分を変えて豚箱に送るかもしれん。どうなるかはアンタたち次第だ」


 話がまとまると、俺とペニチュアお姉ちゃんは個別の尋問に入った。嘘を吐かれる可能性もあったからだ。カーネリアは見張り役で、モモゾウはその慰め役だった。


 やがて一通りの情報を引き出すと、俺たちは話をまとめて地下墓所を出た。末端構成員たちは神殿のローブを持っていたのでそれを着て、もののついでにとある神官の部屋を訪ねた。


「これはこれは御子様、何用でございましょうか?」

「神官モンド。僕は君を告発する」


「な、何を……。はっ?!」

「気付いたか。そうだ、彼らは君に地下墓所へと通してもらったと証言している」


「違う! 拙僧はそのような下等な犯罪者どもなど、知らん!!」

「モンド、なぜ彼らが犯罪者だと知っている?」


「あ……」

「残念だよ……。まさか神殿にまで、あの人攫いどもの仲間が入り込んでいただなんて……」


 ちょっとした沙汰を見物してから、俺とお姉ちゃんはカーネリアをに後を任せて王都を出た。引き出した情報が正しければ、もはや一刻の猶予もない状況だった。


『ドゥ、この件は貸しだ』

『貸しか。アンタらしくもない言葉だな』


『僕もそう思う。でも君たちのやり方を見習うことにしたんだ。だから奉仕ではなく貸しにする』

『わかった、いつか借りを返そう。……ペニチュアお姉ちゃんを信じてくれてありがとう』


『いや、彼女については、保留だ……。彼女はその……慰めてあげたくてたまらなくなる反面、その……毒の部分が強過ぎる……。あの子は脆くて危険だ……』

『反論どころか共感しかないな。だが……俺にとっては恩人であり、大切なお姉ちゃんだ』


 綺麗事だけでは世の中は成り立たないが、善人が悪党となれ合うのは間違いだ。カーネリアは何も間違っていない。

 ペニチュアお姉ちゃんは今の世界においては味方だったが、将来的にはどう変化するかもわからない超危険因子だった。



 ・



 引き出した情報によると、嘆く女の器はクロイツェルシュタイン北部にあるカエリアと呼ばれる地方都市に運ばれた。

 そこにはカドゥケスの寄付によって成り立っている巨大な孤児院があり、その内情は生け贄生産工場だという。


 カドゥケスの狙いは器に1000人分の生き血を捧げ、常闇の王の復活を果たすことだ。

 この件は既にカーネリアを介して神殿に伝えられていたが、お偉方が重い腰を上げるのを待っていたら到底間に合わなかった。


 それともう1つ話を聞いた。当然といえば当然なのかもしれないが、地方都市カエリアにはカドゥケスの幹部マグヌスが滞在しているという。

 ヤツの仕事は人攫いだ。攫った人間を納品しにきたと見て間違いなかった。


「パパとママから引き離されて、恐怖に震えながら悪魔たちに生き血を抜かれて死んでゆくなんて……わたしの人生の次に最低ね……」

「ああ、想像するだけで虫酸が走る……」

「絶対、絶対守ろうよ、ドゥ! ペニチュア!」


 早馬を乗り継いで翌日の昼前にカエリアに到着すると、疲れ果てていた俺たちは宿で短い休憩を取った。たっぷりと眠っている時間はなく、夕刻が訪れるなり俺たちはミッションに入った。


 マスカラを使ってまつ毛を目立たせ、いつもよりも厚く化粧をしてターゲットの好みに合わせると、赤い口紅で唇をなぞった。

 ヴィッグはいつものやつだ。茶髪のショートカットの女に変身すると、俺はペニチュアお姉ちゃんの前でどうだと胸を張った。


「変態ね……」


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