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8-2.最高にして最悪のチョイス

 嘆く女の器は、合理的なようで悪ふざけにしか見えない極めて困難な場所に保管されていた。 


「よう、神殿にいるとアンタはまるで別人だな」

「えっ……ドゥ?! わざわざ僕に会いにきてくれたのかっ!?」


 隠し場所はよりにもよってクロイツェルシュタイン王国王都セントアークの神殿の中だ。真実の神を崇める神殿に、常闇の王という異端の神を復活させる方法を盗賊王は隠した。最高にして最悪のチョイスだった。


「いや野暮用だ。身元の保証を頼めるか?」

「おい、何をやっている! なぜドゥを監視しているんだ!」

「しかし御子様、神殿としては盗賊を野放しにするのは――」


「ドゥは義賊――あ、いや、義賊みたいな盗賊だっ!」

「気を使ってくれたのは嬉しいが、あまり説得力がないだろうな、その言葉回しは……」


「とにかく彼の身元は僕が保証する。さあもう行ってくれ!」


 監視役のシスターが去ってゆくと、入れ違いでペニチュアお姉ちゃんが合流した。常闇の眷属を連れ込むとなると問題しかないので、シスターに変装してもらった。


「ん、見かけない子だな……新しい子か?」

「ふふ……っ、これが新しいママなのね……」


「えっ、ママッ?! えっえっ……キ、キミの娘なのか!?」

「んなわけないだろ……。その理屈だと、俺が8歳のときに仕込んだ種ってことになるぞ……」


「種……? なぜ急に植物の話になるんだ?」

「クスッ、ウフフフッ……カーネリアママは純粋なママなのね。言葉使いはちょっと男っぽいけど、なかなかかわいいママよ」

「混乱させるなって言っているだろう……」


 説明がおっくうだ。そこで俺は袋の中で眠っていたモモゾウを取り出してカーネリアに差し出した。


「あっ、モモゾウくん! 君も久しぶり!」

「むにゅ……。あれ……わっわっ、もう着いたのっ!? わぁ、カーネリア久しぶり!」


 それから説明を代行させた。おしゃべりなモモゾウは喜んで説明を代わってくれて、第三者視点から全てを説明してくれた。


「常闇の眷属ペニチュアだって……? そっちを先に説明してよ、ドゥ……。身元の保証をしちゃったじゃないか……」

「ふふっ、カーネリアママはやさしいのね」

「まあ、俺たちとは性根が違うな。俺たちがド悪党なら、カーネリアはド善人だ」


 カーネリアには立場がある。特に神殿は常闇の眷属との共存なんて望まないだろう。


「ねぇ、ペニチュアさん。なんで僕がママなんだ……?」

「あら、だってそうじゃない! パレードでパパにキスをしたんでしょう!? ならあなたはわたしのママよ!」


「え、いやっ、あ、あれは……っ、あれは、場の勢いに飲まれただけで……っ。だって、ああしないと、また一緒に冒険、うっ、うぅぅっ……」

「えっとね、カーネリア……ペニチュアはこういう子なの。あんまり気にしない方がいいよー?」


 俺としては少し気持ちが楽になった。パパと呼ばれて執着されるのは超重いが、カーネリアがママと呼ばれて戸惑う姿は面白い。しかも相手は立場上共存できない相手だ、なかなかに笑えた。


「なんで君までニヤニヤしてるんだっ!」

「ペニチュアお姉ちゃんには散々困らされたからな、気持ちがよくわかるんだ」

「ねぇ、ママ……わたしの妹はいつ頃できそうかしら……?」


 しかし状況的にいつまでもふざけてもいられない。俺はペニチュアお姉ちゃんの意地悪なお願いを中断させて、カーネリアの前に立って真剣な姿を見せた。


「神殿の地下墓所に案内してくれ。盗賊王はそこに器を隠したと記録を残している」

「はぁっ……。もしバレて僕が御子を首になったら、責任を取ってくれるか……?」


「いいぞ。魔王みたいなのがもう1人増えるよりずっといい」

「僕はそれを討伐させられるんだろうな……。わかったよ、協力する……」


 魔将討伐の功労者にして、神殿の御子。勇者カーネリアの道を阻む者はどこにもなく、俺たちは神聖なる地下墓所へと正面から真っ直ぐに下りていった。


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