20.報酬13億オーラム
スティールアークに到着すると、いつものダイニングにオデットとプルメリアを誘った。
テーブルには13枚のオリハルコン貨。そして俺の背後にはアンドラス元傭兵団を整列させた。
「プルメリア、これ全部アンタにやるよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれないかしら……。こ、これ、これっ、あのオリハルコン貨ですのよっ!?」
「わぁー、このお金ピカピカしてて綺麗だねっ。10、11、12……13枚もあるけど、ねぇこれって1枚いくらくらいするやつなの?」
「それか? 1枚1億オーラムだ」
「なんだ、たった1億オーラ――はっ、はぁぁぁーっっ?!! じゅ、13億ぅっ?!」
「ランゴバルド家の再興に使ってくれ。このアンドラス傭兵団なら、新しいランゴバルド家の兵士に相応しいだろ?」
「お願いしますよ、プルメリアお嬢。俺ら、色々あって傭兵を続けられなくなっちまいましてねぇ……。それにそろそろ、こんな俺らでも安住の地が欲しいんでさ」
なかなか愉快な反応だ。オデットは俺とアンドラス傭兵団とオリハルコン貨にそれぞれ目を向けて、とんでもない大金をその手に持ってしまっていることにうろたえて、慌てて袋へと戻した。
「な、何を考えているのよ、貴方っ!? 13億オーラムを手放すなんて、そんな……っ、こんな大金、受け取れるわけありませんわっっ!!」
「金なんて必要になったら盗めばいい。財布に入り切らないほどの金など持っていても使い道がない。だからアンタにやる」
「で、でも……」
「この金で家を再興させろ。そうすれば、まともな貴族が1人増える。あの宝石と虹の水環の儲けもお家再興にぶち込め、そしたらもっと面白くなる!」
「わ、私は凄く良い考えだと思う……。だって、そのお金があったら、もっと多くの人を助けられるかも……」
俺の知る闇商人プルメリアはもっと姉御肌でしたたかやつだと思っていたんだが、どうもこのお嬢様姿がコイツの素だったようだ。今思えば彼女なりに強がっていたのかもしれん。
「本気ですの……?」
「アンタに貰ってほしいんだ。盗むことしかできない俺の代わりに、どうか人を幸せにしてやってくれ」
「ランゴバルド家の再興……。ああ……確かにこのお金があれば、不可能ではないわ……」
「オデット。もし余裕があれば、表側の商人として彼女を助けてやってくれ」
この2人が組んで、そこにアンドラス傭兵団と13億オーラムが集まれば俺も安心だ。後腐れなく、流浪の盗賊として新しい旅ができる。
貧民街に金を撒くより、今回はこっちの使い方がずっと正しいと思った。
「わかりましたわ……。わたくし、必ずどこかの土地を買い上げてお家を再興させてみせますわ。スティールアークの民も守れるくらいの立派な家を立てて、恩義に報いて見せますの。だから待っていて下さいね」
「私も手伝う! あっ、そうだっ、ドゥの家を作ろうよ! いつドゥが帰ってきてもいいように!」
オデットからすればただの思い付きだったのだろう。だが俺は――我が身が感激に震えている事実に驚くことになった。
俺は家無しだ。家族はモモゾウだけだ。好き好んでこんな生活をしている。そんな俺に誰かが家を建ててくれて、そこで待っていてくれるという……。
嬉しかった……。
「ありがとう。……そのうちでかいお宝を持って戻る」
「うん、待ってる! あっ、メイク! メイク教えてよーっ、約束でしょ!」
「ああ、そういえばそうだったな……」
俺はちょっとした変装の手ほどきをした後にオデットたちの前を去り、相棒のモモゾウと共に自由気ままな旅に出た。
金がなくなれば悪党から盗み、気まぐれで財宝を奪い取る。それが俺本来のあるべき生活だ。
「ドゥ、オデットたちのところに残らなくてもよかったの?」
「無理だ。俺は悪党だ、気に入らない相手から手当たり次第に盗むような人間は、どこかに定住するべきじゃない」
「でも……盗賊を止めれば、みんなと一緒に暮らせるよ?」
「……かもな」
「止めたいなら、止めてもいいんだよ……?」
「止める? あり得ないな、バカな話はもう止めろ」
「でもでも、ドゥの幸せは――ムキューッ?!!」
道中、モモゾウが妙なことを言い出したので袋に詰め込んでやった。
「足を洗う気はない」
「ボクチンはドゥに幸せになってもらいたいだけだよぉーっ!」
「余計なお世話だ」
「ムキュゥ……ッ!?」
しつこいモモゾウをもう1度詰め込んだ。
わかってくれ、モモゾウ。悪党と善人は一緒にはいられないんだ。
もし俺のようなやつがずっと隣にいたら、オデットもカーネリアも汚れてしまう。俺はそれがとても怖い。
俺がアイツらに影響されて盗賊を廃業するのも悪くないと思いかけるように、アイツらも俺の中の悪に影響されて、純粋さを失ってゆくことになる。
それに何より……俺は、あいつらがまぶしくてまっすぐには見られない。己の中にある悪意、傲慢、背徳性、残忍さを突き付けられる。
俺は悪だ。本質が身勝手な悪党であるからこそ、善人とは一緒にはいられない。
俺は盗賊だ。盗賊が盗賊として生きていくためには、身勝手な悪党であり続けなければならない。でなければ、善意が邪魔をして誰からも盗むことができなくなってしまう。傲慢、それこそが盗賊の資質だ。
『いいか小僧、テメェが悪党であることを認めろ。どう言い訳しようと俺たちは悪だ。しかし時に人を騙し、盗み取らなければ解決しねぇこともある。世の中綺麗事だけじゃ片付かねぇ。俺たち盗賊は、そのために生かされてるんだぜ。忘れんじゃねぇぞ』
かつて盗賊王と呼ばれた偉大なる男がいた。彼の語る悪の流儀は、今もこの胸の中で錆びることなく輝いている。
俺は英雄じゃない。傲慢で身勝手なただの盗賊だ。
故郷の人々は俺を英雄と称えてくれたが、俺は英雄ではなくただの悪党でいたかった。
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