18-1.ざまぁ - 勇者と盗賊の凱旋 -(ざまぁ回
サンテペグリ子爵の馬車は最高級の隠れ蓑になってくれた。
今回の陰謀に加担した貴族たちはそれぞれ暗殺者を放つと同時に、領地の街道を封鎖したり、あるいは検問を敷いて俺たちを待ちかまえていた。
だが仲間のサンテペグリ子爵の馬車に、まさか標的である勇者と盗賊がふんぞり返っているとは予想すらしていないはずだ。
ましてや傭兵団に護衛された馬車を襲うほど無謀な者もなく、そこにさらに付け加えるならば、団長のアンドラスという男はこっちが感心するほどに口の上手いやつだった。
「貴様、サンテペグリ子爵閣下を盗賊呼ばわりするか! 己の立場はわかっているのだろうな!?」
「す、すみませんっ! 我々は検問を敷けと上に命じられただけで……っ、な、何も問題ありません! どうぞお通り下さい、閣下!」
「うむ、熱心で結構! 特別にこのことは上に報告しないでおいてやるっ、わっはっはっ!」
「あ、ありがとうございますっ、子爵閣下! どうか楽しいご旅行を!」
検問を何事もなく通り抜けて安全地帯まで離れると、俺とアンドラスと傭兵たちはそのたびに大爆笑した。もし馬車の中を確かめられたら、敷物にされたサンテペグリ子爵を発見されることになるので、まあそれなりのスリルもあった。
「どっちが悪人なのかわからない……」
「まともなのはアンタだけ。単純な話じゃないか」
「そんな単純じゃない! はぁっ、善と悪の違いってなんなんだろう……」
「さあな」
「フグゥ……ッッ?!」
「たぶん、こういうことが平気でできる人間を悪って言うんじゃないか」
足蹴にしてたサンテペグリ子爵の横顔をいたぶるように踏み付けてやると、カーネリアがますます複雑そうに顔をしかめる。
傲慢と残酷性の肯定。神殿育ちのカーネリアには理解不能の価値観だった。
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こうして俺たちは遠回りだがなかなかに愉快な6日間の旅を終えて、ついに王都セントアークへの凱旋を果たすことになった。
王都東門より市内を抜けて、運河にかかる大橋を越えるとその向こうが王城だ。城の門を抜けるまでカーネリアの名は出さずに、『これはサンテペグリ子爵の馬車だ!』と言い張って入城してやった。
……そっちの方が絶対に面白いと、アンドラスのおっさんが言うからだ。事実そうなった。
「サンテペグリ侯! 首尾はどうだ!?」
「なぜ連絡を入れない!? お前の報告を待っていたのだぞ!」
「おいっ、聞いているのか、サンテペグリ! なっ、何事だこれは……っ!?」
聞くに堪えないので馬車からサンテペグリ子爵を蹴り落とした。
猿ぐつわはもう噛ませていない。王都近郊に入った時点で、彼はカーネリアに泣いて許しを乞うようになった。
「何者だ、貴様!」
「下賎の者が我々貴族を蹴り落とすとは、よっぽどこの者は縛り首にされたいらしいですな!」
「衛兵っ、衛兵、直ちにこの下郎を捕らえよ!」
「はっ、ご挨拶だな。……ならこちらの方のお姿が、テメェらの腐った目に入らねぇのかよ?」
勇者カーネリアの手を引いて馬車を降りると、そこが城の玄関口だ。
俺たちをハメた貴族たちは、カーネリアの姿を見るなりぶったまげて、中には驚きのあまりに腰を抜かす者までいた。
「カ、カーネリア……!?」
「どういうことだ、サンテペグリ侯!? 貴様、わ、我々を裏切ったのかっ!?」
「あ、ああ……ああああ……もう、終わりだ……。まさか、勇者が、生きて戻ってくるだなんて……」
騒ぎを聞き付けて、衛兵どころか他の貴族たちや官僚ら、宮廷スズメたちまで集まってきた。
彼らはこの悪党どもとはまるで正反対に勇者の凱旋に歓喜の笑顔を浮かべて、明るく弾んだ声を上げて俺たちを迎えた。
「御子様だ! 御子様がお帰りになられたぞっ!」
「陛下を呼べっ、祭司長様もだっ!」
「まさか本当に魔将を討って下さるとは! 貴女こそ真の勇者です、御子カーネリア様!」
現金なやつらだ。女が魔将を討てるはずがないとか、御子は神殿にこもっていればいいとか、カーネリアの遠征に否定的な連中も以前はちらほらといたといのに、今や誰もが手のひらを返して赤毛の勇者に尊敬の眼差しを向けていた。
「義賊ドゥよ、よくぞ勇者をここまで導いてくれた。……ぷっ、ぷぷぷっ、だははははっ、ざまぁ見ろやこのクソ野郎ども! 下らねぇ嘘で陛下とギルモアをハメやがって、覚悟はできてるんだろうなぁっ!?」
その中にはギルモアを匿ってくれた豪快な侯爵もいた。こんな状況でなければ『俺は義賊じゃない、盗賊だ』と訂正したいところだったが、今言うと彼の言うクソ野郎どもに揚げ足を取られるのが見えていた。
「皆さん、今帰りました。既にガブリエルたちが報告を入れているかと思いますが、僕が見聞きした真実をこれから陛下にお伝えします。身に覚えのある皆さんは、もう観念されて下さい」
往生際悪く剣を抜こうとする貴族がいた。
だが俺とアンドラス傭兵団が勇者カーネリアの前に一斉に出ると、苦しげに剣を鞘へと戻すことになった。
「よし、これでギルモアも助かる! さあ中へっ、俺が謁見の間に案内しよう! よくやってくれたっ、本当によくやってくれたな、義賊ドゥ! 俺はお前がますます気に入った!」
「違う、盗賊だっつってんだろ……」
「者ども道を開けろ! 勇者と義賊の凱旋だ! 拍手喝采で迎えやがれ!!」
「人の話を聞け! くっ、なんなんだ、この男は……」
「ふふ……彼は君が誇らしいんだよ。ドゥ、ここまで僕を守ってくれてありがとう、君には感謝しかない」
「英雄はアンタだ、カーネリア……」
「ううん、それは違うよ」
俺たちはその場のありとあらゆる連中を引き連れて謁見の間に集まると、ほどなくして現れた国王陛下に真実を伝えた。
カーネリアは凛とした立派な声で、いつになく饒舌に語ってくれた。
「陛下、裏切り者はドゥではありません! 真の裏切り者はガブリエルとベロス卿です! 彼らは貴方方に虚偽の報告をしていたのです! この盗賊ドゥこそが、魔将ヴェラニア討伐の真の功労者です!」
王は俺たちの功績を正当に評価し、名誉を回復させると約束してくれた。
ただちに国王の名の下に臨時議会がその日のうちに召集されることになり、証人としてカーネリアと俺が出廷することに決まった。
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次話は分割の都合上、短いエピソードになります。
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