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・エピローグ7/7 傲慢で身勝手な盗賊の末路

・元盗賊ドゥ


 あれから約60年が経った。

 俺もすっかり老いさらばえ、黒い髪が一本もなくなってしまった。

 額はハゲ上がり、顔も手もしわだらけ、声も満足に出せなくなった。


 機敏に動くことももう出来ない。

 杖がなければ、自由に町を歩くことすら出来ないほどに、俺はすっかり老い果てていた。


 黄金期が終わり、平凡な静かな白銀の時代が始まり、やがてそれも終わった。

 モモゾウが世を去り、ジジィが死に、ペレイラ・クロイツェルシュタインも世を去った。


 ギルモアも、ソドムさんも、ベロスもアンドラスのおっさんも、みんないなくなった。

 もう誰も俺を英雄と呼ばない。

 誰も盗賊ドゥを覚えていない。


 そのはずだった。


「盗賊、ドゥ……」


 懐かしい呼び名だ。

 町で見たことのない中年男が、大きなナイフを両手で握ってこちらを暗い目で睨んでいた。


 すぐに悟った。

 ついに運命の日やってきたのだと。


「ずいぶんと、遅かったな……」


 昔ならこんなやつ、一瞬だった。

 だがもう俺は走ることもできない。


 空を見上げ、目を閉じる。

 カーネリアとオデットは悲しむだろう。

 だがやっとこれで、相棒のところに行ける。


 いや、地獄行きの方が濃厚か……。


「今日まで好き放題やってきたツケだ。好きにするといい……」

「何が勇者だ! 何が英雄だ! お前なんてっ、お前なんてっ、惨たらしく死んでしまえばいいっっ!!」


 男が突進し、その大きなナイフで俺の心臓を貫いた。

 ああ、やっと終わる……。


 やっと復讐者が現れた。

 やっと……これで俺は、赦される……。


 多くの人間の人生を狂わせてきた男に相応しい末路だった。


 俺は最期の日を迎えた。

 もう明日の朝日を拝むことはない。

 家族の笑顔ももう見れない。


 ああ、許されるならモモゾウに、もう一度会いたい……。

 最期に脳裏に浮かんだのは、オデットやカーネリアではなくモモゾウの顔だった。



 ・



「なぜ、死んでいない……?」


 俺は死んだはずだった。

 なのにまた目覚めることになっていた。


 薄暗い部屋、大きな箱の中で俺は寝かされていた。

 身をもたげると、何もかもがおかしいことに気付いた。


 巨大化した世界。

 毛だらけの体に小さな手。俺はそれを見たとき、熱い涙が浮かぶのを感じた。


「モモ、ゾウ……?」


 俺は遠い昔に死んだはずのモモゾウとなっていた。


 モモゾウは俺の魂を分けた存在だ。

 エリゴルがそうであったように、二つの者が一つに戻った。

 これはそういうことなのだろうか……?


「ドゥ……」

「モモゾウか? ああ、無事でよかった……」


 口が独りでに動き、それがモモゾウの言葉になった。

 俺の中にモモゾウがいた。


「あのね、ボクチン……。ドゥに謝らなきゃいけないことがあるの……」

「勝手に先に逝ったことか?」


「ううん……。あのね、ボクチン、契約をしたの……」

「契約? なんのだ……? 誰と?」


「……ペニチュア」


 その一言でだいたいの謎が解けた。

 死んだはずのモモゾウがこうして生きている理由も。

 その肉体が俺の新しい身体となっているこの状態も。


「パパ。気分はどうかしら?」

「お姉ちゃん……」

「ドゥ、ペニチュアを責めないであげて。ボクチンがお願いしたの……。ボクチンを、不死者にしてって……」


 モモゾウの身体を使って、大きなペニチュアお姉ちゃんの肩に飛び乗った。

 何もかもがままならなかった老いた身体が、今では獣の俊敏性を身に付けていた。


「してやられた。まさか、お前が俺を騙すとは予想外だ……。あれは、死んだふりだったのか……?」

「ううん、ボクチン、ずっと眠ってたの。この日のために」


 口ぶりからして多くの時が流れたのだろう。

 少なくとも、今は俺が刺されて死んだ年ではなさそうだった。


「パパ。ペニチュアと一緒に、世界の結末を見届けてくれる……? パパとママと、フローズが出し抜いた世界の結末を、一緒に……」

「それも悪くない。だが、あれから何年が経ったんだ?」


「フローズが眠ってから、100年くらいかしら?」

「ずいぶんと経ったな……」


 ここはもう俺の知る世界ではない。

 分身であるモモゾウに謀られて、死んだと思ったのに続きの世界で目覚めてしまった。


 だがただ1つ確かなのは『盗賊ドゥは死んだ、もういない』ということだ。

 俺はただのモモンガ。ただのモモゾウだ。


 一匹のモモンガとなった俺は、ようやく長い苦しみから解放されていた。

 復讐者はもう現れない。


 惨めな生まれに心を歪ませ、今日までの数え切れない所業に苦しむ男はもうどこにもいない。


 今は空から空へと渡り歩く、世界を見届ける役目を与えられたただけの、ただのモモンガだった。


「お前と同じ空を飛べるだなんて夢のようだ」

「うんっ、ボクチンもボクチンの世界をドゥに見せたかった! また、一緒に冒険しようね、ドゥ!」


「ああ。それにこの身体なら、少しくらい何かを盗んでもいいか」

「盗賊ドゥの復活ね」


「今の俺はモモゾウだ。モモゾウ、自由をありがとう……」

「どういたしまして! ずっとずっと、ボクチンと一緒にいてね、ドゥ!」


 盗賊ドゥの伝説は終わった。

 今日からは盗賊モモゾウの伝説が始まる。


 人間という肉体の枷から解き放たれ、自由の翼を手に入れた罪人は、ありのままに空を翔ける一匹の盗賊に戻った。


 もう、俺を縛るものは何もない。

 罪も、重力も、人の世のしがらみも、何人も俺を縛ることは出来ない。


 俺は自由だ。もう二度と盗むことを迷わない。

 俺は盗賊モモゾウ。俺とモモゾウの2人で盗賊モモゾウだ。


 小さな獣の肉体から見下ろす世界は、果てしなく雄大で驚きに満ちていた。


―― 開発コード 悪の流儀 終わり ――


 盗賊ドゥの物語をここまで追って下さりありがとうございます。

 この物語はここでおしまいです。長い間、本作を楽しんで下さりありがとうございました。


 最初はテンプレ展開から始めましたが、中盤からはこの物語が向かうべき展開へと進めることにしました。

 娯楽作品ではなく、盗賊ドゥの人生を描くことを優先しました。


 ドゥが刺されて最期を迎える。その瞬間がこの物語の本当の最期なのかもしれません。

 彼の苦悶に満ちた人生に安らぎが訪れ、そして待ち望んでいた罪の報いを受ける。


 赦され天寿を全うするよりも、彼にとっては幸福な末路になったのではないかと思います。


 ・


 作者目線に立ってみると、盗賊ドゥは非常に厄介な主人公でした。

 彼の精神はとても複雑で、彼の思考をトレースするだけでも大変な手間がかかりました。


 最初はサイコパスよりの人物でしたが、カーネリアの影響を強く受け、彼の精神、美意識はよりに複雑化してゆきました。

 少年期に悪に染まることがなければ、彼は誠実で公平な人物に育ったのかもしれません。


 ドゥはとても書きがいのある気高い主人公でした。

 人間の肉体を失い、獣と化した彼は、生まれながらの盗賊としてありのままに生きてゆくでしょう。


 長い間、本作を応援して下さりありがとうございました。


 ・


※で、明日10月2日から新作を始めます。


【ジョブ『ラーメン屋』で簡単ドラゴンテイム

  ~ラーメンが禁じられた地で最強の竜たちと屋台を引こう~】


 次回作はコメディです。

 ラーメンが禁じられた世界で、ラーメンの美味しさを広める明るいお話です。


 読みやすくなるように、セリフも地の文も短文を意識して、他の娯楽と平行して楽しめるような小説になっています。


 どんなことも軽いノリで受け止められる主人公ニコラスと、元がドラゴンだけあってやることなすことダイナミックなドラゴン娘たちのお話を、どうか読みに来て下さい。


 ただし、このお話を夜中に読むとコンビニに駆け込んで冷凍ラーメンを買うことになるかもしれません。どうかご注意を。


 それでは、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます。 どういった形であれ200話近い話をやり切ったのは素直に賞賛に値する。 [気になる点] 待ち望んだ罰は、罰じゃなく自己満足では? 少なくともドゥが絶望しないと罰と…
2022/10/04 19:36 退会済み
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