表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

191/192

・エピローグ6/7 謀られた世界 - いつの日か、同じ空を -

・オデット


 あれからもう10年。あの時はこうして彼と一緒に暮らせるなんて信じられなかった。

 ドゥは盗賊であることを捨て、カーネリアもまたただのお母さんになった。


 今、私たちは一緒に暮らしている。

 あの年の翌年に産まれた子供たちと一緒に、静かにこのエクスタード市郊外、元開拓地で平凡な暮らしをしていた。


 今の私の仕事は主婦。子供たちと家の世話をしている。

 カーネリアの仕事はプルメリア侯爵の補佐。立場があべこべな気もするけど、2人ともいいコンビをしている。


 ドゥの新しい仕事はなんでも屋さん。

 仕事を請けるかどうかはドゥの気まぐれだけど、乗り気になれば畑の収穫だって手伝う。


 たまに昔の知り合いがやってきて、スパイや探偵まがいの仕事をするときもあるけれど、もうドゥは盗まない。人を殺さない。私たちと暮らすために、ドゥは盗賊を辞めてくれた。


「ただいま、オデット。あれ、ドゥは?」

「イウルンさんがきたから、たぶんあっちの仕事」


「そうか、なら今夜はドゥ抜きか」

「私としては危ない仕事、してほしくないけど……」


「盗賊を辞めてくれただけでも奇跡だよ」

「うん、そうだね……」


 ドゥが恐れている復讐者。私はいまだに1度も見たことがない。

 密かにやっつけているだけかもしれないけど、世界がドゥを赦してくれたんだと思いたい。


「だけどこれじゃ、君が僕の奥さんみたいだ」

「あはは、これからもよろしくね、カーネリア!」


「こちらこそ。一緒に彼を支えよう」


 カーネリアは私と一緒に厨房に入って、夕ご飯の準備を手伝ってくれた。

 同じ食卓を囲み、我が子と一緒に食べる夕飯は、平凡だけど幸せな味がした。



 ・



・モモゾウ


 お嫁さんができた。

 子供たちがいっぱい産まれて、1匹はボクチンと同じように人間の言葉を使うようになった。


 ボクチンはその子にドゥを支えるために技を教えた。

 空の飛び方、鍵の開け方、忍び方、全て教えてあげた。


 その子にだけセンゾウって名前を付けた。

 ボクチンの代わりに、ドゥを見守ってくれる子が産まれてよかった。


 遠いあの日、ボクチンは夢を見た。

 それはボクチンが、狼に噛み付かれて死んでしまう夢だった。


 ボクチンはその日、知ってしまった。

 ボクチンは本当のモモゾウじゃない。


 ボクチンは、モモンガの体に魂を移した、ドゥの分身だったんだって……。


「あのね、ドゥ……あのね……。ボクチンは……」

「死ぬな、モモゾウ……。頼む、俺を置いていかないでくれ!!」


「ボクチン、ドゥのことが、大好き、だったよ……」


 ある日、ボクチンはドゥとお別れをした。

 それがボクチンとドゥの運命だった。


 ずっと一緒には生きれられない。

 本当のモモゾウと出会ったその日から、そんなのわかっていたことだった。


 さようなら、ドゥ。

 どうか幸せに。


 そしていつの日か、同じ空を……。



 ・



・カーネリア


 戦争の時代が終わった。

 人々は手と手を取り合い、再び結束を結ぶことになった。


 僕とドゥは争いに加わらなかった。

 そんなかつての英雄は、調停者として好都合だった。


「おお、盟主ペニチュアよ……。なんと神々しい……」

「我々が間違っていました。共に栄え、いずれ訪れる戦いに備えましょう」


 戦いを止める口実に使われたとも言える。

 戦いに飽きた人間たちは、天上を仮想敵にして人間同士の争いを止めた。


 あれから20年。僕たちもすっかり老いた。

 若手に役を奪われることも増え、モモゾウが死んでからはドゥもおとなしくなった。


 やさしい普通のお父さんになってくれた。

 盗賊を続けていたら、もう生きてはいなかったと自虐を言うのは止めてほしいけれど。


 僕たちの時代は終わった。

 優秀な若手が国と国を駆け回り、お呼ばれがかかることもめっきりと減った。

 かつての英雄は、今はただの市民だった。


 僕たちはこれからも平凡に生きてゆくだろう。

 華々しい舞台から離れ、こうして当たり前の幸せと共に生きる道を選んだのだから、かつての英雄として少し悔しいけれど仕方がない。


 ただのやさしい旦那様、僕たちのドゥはいつだってやさしく見守ってくれていた。

 壮絶な彼の半生を思えば、この平穏こそが、権力や財産よりもよっぽど大きな報酬だっただろう。


 こうして僕たちは、いつまでもいつまでも、英雄ではなく、ただの平凡な市民として、幸せに暮らしてゆきました。


 めでたし、めでたし。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ