・エピローグ4/7 謀られた世界 - マグダラ、ラケル -
・マグダラ
「ベロス卿、もう行かれるんですの……?」
「ああ」
「陛下は貴方に恩赦を与えると」
「いらん。代わりに会社の運転資金をいただいた」
ここは王都セントアークの城内。
去ろうとするベロス卿の袖を引き、わたくしは彼を引き留めた。
「なんだ? む……」
「でしたらその前に、お兄さまに……」
剣そのものとなり、言葉を喋れなくなってしまったガブリエルお兄さまを差し出した。
ベロス卿は剣を受け取り、鞘から刃を抜き、天に掲げた。
「ガブリエル、礼を言う。生き残れたのはお前のおかげだ」
言葉は返ってこない。
でも剣にはお兄さまの魂が宿っている。わたくしはそう信じている。
「そうだ、約束していたな。村のあの小僧はうちで雇おう。爺さんは英雄だったと、必ず伝える」
別れを済ますと、ベロス卿は剣をわたくしに返した。
そしてそれっきり、振り返ることはなかった。
「マグダラ。名誉を取り返すチャンスをありがとう。ガブリエルもお前に感謝している」
「ええ、そうだといいのですが……」
「断言してもいい。男にとって誇りは、生死よりも大切なものだ」
ベロス卿が去った。
彼が去ると、新しい友人がわたくしの前にやってきた。
「あら、ペニチュアちゃん……?」
「お久しぶり、マグダラ」
「お会いできて光栄ですわ、盟主様。それで、何かわたくしにご用ですの?」
「単刀直入に言うわ。ペニチュアね、その剣に凄く興味があるの……」
「え……?」
「だってそうでしょう。散々やりたい方題して、パパに敗北して、それから最後の最期に意地を通した罪人。パラディン・ガブリエルは剣そのものとなって、朽ちるまで人を斬る宿命なの」
怖いことを言う人……。
でも、死霊使いの彼女に、お兄さまが剣となって生きていると言われるのは、反面わたくしにとっては嬉しくもあった。
「いつかその剣、ペニチュアが貰うわ。だってペニチュアと同じ運命を歩む人だもの、今からお友達になっておきたいの」
「そうですか。でしたら盟主様、よければうちにいらっしゃいますか……?」
「お招きありがとう、喜んでお誘いをお受けするわ!」
お兄さまを盟主ペニチュアちゃんに渡してみると、お兄さまがキラリと輝いたように見えた。
・
・ラケル
あの決戦の日から3年が経った。
当時はみんなについて行くだけで限界だった私は、今ではそれなりの立場にある。
「帰ったよ、ラケル。今日は何をしていたんだい?」
「あ、公子様。実は、カーネリア様に手紙を書いたんです」
「魔王を封じた英雄カーネリアか……。ドゥ殿は、手柄を全て彼女に押し付けたそうだね」
「ドゥ様はそういう方なんです。ああ、あの旅が懐かしい……。大変だったけど、とても楽しかったんです……」
今の私は公爵夫人。
あの内戦で失脚することになった、ホーランド家にお見合いの上で迎えられた。
この家の実権は私にある。
私がこの家に嫁がなければ、家は滅び去る運命だった。
「ラケル……僕と結婚したこと、後悔してはいませんか……?」
「え、どうしてですか?」
「歪な婚姻です。おかげで我が家は救われましたが……」
「公子様が素敵だったから、私は貴方と結婚することにしたんです。今は公子様と一緒の毎日がとても楽しいです」
昔の私だったらこんなこと言えない。
でも私も成長した。この家を大冒険の報酬として継いで、その力で結社の手伝いがしたい。
戦いはまだ終わってはいない。
私たちはもっと強くならなければならないんだって、語り継ぎたい。
「その言葉、信じてもいいのかい……?」
「後悔してません。あ、晩ご飯、何がいいですか? よければソドムさん仕込みの南方料理を今日はご馳走しますよ!」
あれから3年経った。
盗賊ドゥの新しい英雄伝説は、もう私の耳には届いてこない。
盗賊ドゥの伝説は終わった。
誰もがそう言っていた。




