・エピローグ3/7 謀られた世界 - 盗賊王 -
・盗賊王エリゴル
華やかな凱旋パレード。
オデットの嬢ちゃんと、カーネリアちゃんに囲まれた息子の姿は、今まで味わったことのないほどの酒の肴だった。
まさかあの日、鳥かごの中から逃がしてやった若造が、真の意味で世界を救う英雄となるとはな。
そして魔王フローズ……。
己の役割に疑問を覚え始めていると、バエルから聞いてはいたが、まさか自らデミウルゴスの涙を飲み込むとは……。
敵ながら、あっぱれなやつだ。
この新しい時代は、ドゥのやつの悪足掻きと、果てのない戦いに憂んだ魔王が生み出した生み出した。
そうとまで言っちまってもいい。
「そいじゃ、またな、ルージュ……」
ドゥのやつを拾う気になれたのは、ルージュの死があったからだろう。
俺は消失都市バウへと戻り、ルージュの墓前に花を添えた。
「俺の息子と、俺たちの孫を誇ってくれ。へっ、あいつらは俺たちの夢を叶えてくれたんだ……。会わせてやりたかったよ、ドゥに」
どうもルージュに似過ぎている。
そう思い、カーネリアの生い立ちを探った。
するとあっさりわかった。
カーネリアは俺とルージュの孫だった。
ルージュは子が産まれたことを俺に隠し、生まれ育った大聖堂に預けていた。
それは俺が、盗賊を止められなかったからだろう。
ルージュは子が逆恨みを受けることを恐れた。
きっとそうに違いない。
「ん、あいつは……」
墓前から顔を上げると、家の方に人影を見かけた。
ここを知るのはドゥくらいのものだ。
だがドゥではない。忍び寄ってみると、逆に背中を取られてしまっていた。
「よう、こんなところで何してんだよ、常闇の眷属」
「フフ……貴方がお墓参りをするなんて、あそこにいったい誰が眠っているのかしら?」
「勇者ルージュだ。俺の方がタフだったみてぇでな、先にくたばっちまった」
「そう……。ごめんなさい、お悔やみを申し上げるわ」
「ありがとよ。それで、お前さんはここで何をやってるんだ? 常闇の王の復活は、諦めたんじゃなかったのか?」
「ええ、そうよ。でも保険にはなるんじゃないかしら……?」
「ははは、そりゃどういう意味だ?」
「結社を作ったそうね。よければ、ペニチュアもそこに入れてくれないかしら……?」
昔感じた凄まじい邪気みたいなのは、今のペニチュアからは感じられなかった。
よっぽど俺の息子が気に入ったと見える。
いや、元はといえばカーネリアか?
冷血漢だったドゥがカーネリアに影響され、ペニチュアがそのドゥの影響を受けた。そう見れなくもねぇ。
そしてカーネリアはルージュの孫だ。
俺の知らないところで、ルージュの意志を継いでくれていた。
「狙いはなんだ?」
「永久を生きる者として、バッドエンドは困るの。だからお手伝いがしたいわ」
「常闇の王の復活が目的じゃねぇのか?」
「ええ、そうね。ペニチュアはね、常闇の王を保険にしようと思うの」
「あー……せっかくだしな、今から俺んちくるか? ドゥが世話になったみてぇだし……茶くらい入れてやるよ」
「信じてくれるってことかしら?」
「おう、信じるぜ。……おお、そうだ、よく考えてみりゃ、お前を結社の盟主にすればいいんじゃねぇかっ!」
盟主が不老不死ならば、組織が理念を忘れることもない。
魔王並みにヤバいやつの眷族というのが難点だが、敵はこの世界全てを牧場にしている連中が相手だ。
「そういう冗談は嫌いよ」
「は? 本気だぜ、こっちは」
「あなたね、正気……? 大変……ついにボケてしまったのね……」
「違ぇよ。ドゥが生み出した新しい時代だ。お前さんが言う通り、バッドエンドだけはお断りなんだよ」
常闇の眷族ペニチュアは難色を示していたが、結局は組織の盟主となることに同意した。
ドゥのやつが生き方を変えちまって、退屈していたのもあるんだろうな……。




