・エピローグ1/7 謀られた世界 - アイオス王子 -
・アイオス・クロイツェルシュタイン
ドゥ様からの別れの手紙が届いた。
父とオレは昼過ぎの庭園で手紙の封を切り、誰よりも高潔な彼の言葉を一句一句確かめながら受け取った。
字こそ拙かったけれど、盗賊ドゥは正しく真の勇者だった。
少しでも彼に報いるためにも、彼の大切な弟をオレたちで支えていこうと父と誓い合った。
誰になんと言われようとも、オレたちは盗賊ドゥとの友情を守るべきだ。
そう主張すると、父上も熱くなっていたのかオレの肩を叩いて同意していた。
いや、けれども――
「陛下ッッ、た、大変ですっっ、大変なことになりましたっっ!!」
そこにとある急報が飛び込んできた。
それは父の小姓だ。彼は宮廷の儀礼すらも忘れて、オレたちにつばと言葉をまくし立てた。
「我々はまたっ、またあの男にしてやられましたっ!! 盗賊ドゥと、勇者カーネリアは、たった2人で魔王城に乗り込み――そして、そ、その……なんと言ったらいいものやら……っ」
「落ち着け、何があった?」
「まさか、あの2人が魔王を討ってしまっただなんて、言わないですよね……?」
小姓が首を横に振るので父とオレはひとたび安堵した。
「そ、それが……」
それから小姓の顔が、喜び混じりのあいまいなものに変化した。
一言では説明しにくい複雑な事態が起きたのだろうと、父とオレはそれだけで察した。
「勇者様たちはある秘宝を用いて、魔王を殺さずに封じたそうなのです……」
「封印だと? 魔王を封じるなど、そんなことが現実に可能なのか……?」
「デミウルゴスの涙。そう呼ばれる禁断の秘宝を用い、魔王を終わりのない夢の中に幽閉したと、そう伝令が報告を……」
そんなに凄い切り札があるのなら、どうしてオレたちに教えてくれなかったのだろう。
オレは疑問に思い、それから遅れて謀られていたことに気付いた。
「その名に聞き覚えがある。そう、確か……盗賊王エリゴルがまだアッシュと名乗っていた頃に、彼が血眼になって探していた物だ」
「は! それにひとたび触れると、世にも幸福な夢に囚われ、廃人になり果てる禁忌の品だそうです」
ドゥ様は、勇者の力を飛躍的に高める秘宝を見つけたと言っていた。
その一方で、デミウルゴスの涙については父にすら明かそうとしなかった。
「つまり、これまでの彼の行動は、魔王を騙すための罠だったってことですか……?」
「かもしれぬ。我々はダシにされたようだ。……ふっっ、ふふ……っ、ハハハハッッ!!」
「ち、父上っ?!」
「喜べ、アイオス! 我々は2人の英雄を失わずに済んだのだ! あの男とまた会えるぞ!!」
オレはつい呆然としてしまった。
もう会えない。会えないからこそ、笑われないように立派に生きよう。そう気持ちの整理を付けたはずなのに、別れずに済むことになった。
「そうですか、よかった……。本当に、よかった……。あの2人が、全てを失わずに済んで……」
「国を挙げて迎えなくてはならんな……。そうだ、急ぎ招待状を各国に送るとしよう! 盗賊ドゥと勇者カーネリアが、魔王を討ったとな!」
「お手伝いします!」
事情を知る誰もが、ドゥとカーネリアの運命に心を痛めていた。
だけどあの2人は見事、自分たちの運命を変えてみせた。
彼は剣で魔王を倒すのではなく、嘘と演技で魔王を罠にはめたんだ!
凱旋の日を心待ちにして、オレと父上はその日から奔走することになった。
お帰りなさい。
そう彼に伝える日が待ち遠しかった。
投稿が遅くなりました。
完結まで書き上がりましたので、本日より完結まで毎日投稿となります。
入れ替えで新作の投稿を始めます。
本作と毛色の異なる明るいコメディですが、どうかこちらも応援して下さい。




