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6-2.黒の塔 - 男が命を賭ける理由 -

 盗賊王とその後継者は、他の仲間を引き連れずにたった2人だけ塔を駆け上った。


「ま、待て……! ヌワァァッッ?!」


 いちいち道中の敵を相手にしなければならない、なんてルールはどこにもない。

 魔将アーザゼルを討てば、その傘下は全て消滅するのだ。避けられる戦いは徹底的に避けた。


 ジジィが通路に小瓶を投げると、激しい炎が上がって追っ手の道を塞いだ。

 鍵のかかった扉があればピッキングでこじ開けて、敵に囲まれればモモゾウを飛ばして昏睡毒をまき散らした。


 戦わずに道をすり抜けることにかけては、俺たちに対抗できる者などどこにもいない。


「あの口だけは立派だったクソガキが、ここまでやるようになるたぁなぁ……」

「本家には負ける」


「あったりめぇだろ、何年生きてると思ってんだよ!」

「わかるわけない。勇者ルージュと出会った時点でその姿だったのなら、100年くらいは生きているか?」


「おう、あっという間の100年だったわ!」


 魔将バエルはジジィを石化による保存を行い、暗躍のための別の身体を用意した。


 別の身体に魂を移した勇者パーティの一員アッシュは、やがて盗賊王エリゴルと呼ばれるようになり、そいつが盗賊ドゥを見い出した。


 あの少年バエルの悪あがきは、長い時の果てにこうして新たな流れを生み出したことになる。


「片付けるぜ、ドゥ、モモゾウ!」

「付き合おう」

「ぴ、ぴぃ……っ、が、がんばる……っ!」


 この階を抜ければ最上階。その目前に鎧を着た大トカゲが道を阻んでいた。

 俺たちはそいつの前に神速の矢となって飛び込み、鎧と鱗の隙間から肢体を切り刻んだ。


 モモゾウは対魔の力を持った特別な聖水を空からまき散らし、敵を怯ませた。それは魔力を強制的に分解する力を持った水で、特に肉体を持たない死霊に有効だった。


「こ、これが、盗賊王……強、過ぎ、る……」


 中ボスの大トカゲもまるで俺たちの相手にならなかった。

 倒れたその身体を飛び越え、さあ最上階だと階段を駆け上った。


「……妙だな」

「アーザゼル。久しぶりに会えると楽しみにしてたんだが、こりゃスカを引いちまったみてぇだな」


 最上階は無人だった。

 頭上の輝石に盗賊王が投げナイフを飛ばすと、石のど真ん中に深く突き刺さるように着弾した。


 石は輝きを失い、やがて砂のように脆く崩れていった。


「どんなやつなんだ?」

「魔王に同情した古典時代の人間だ。古い噂じゃ、元は勇者だったって話もあったな」


「厄介そうだな」

「いや、バエル同様、いいやつだったぜ……。倒さなきゃならない敵だったけどな……」


 俺たちは階下への道を崩れた石柱で塞いで、他の3つの塔をそれぞれ確認した。

 どの塔からも光が魔王城が集められていて、それが空間の歪みをもたらす結界をもたらしている。


「俺たちが一番乗りだったみたいだな」

「ちょいどパーティのお開きが早すぎたかね。よっこいせっとっ! おう、モモゾウこっちきな!」


 最上階は一方の壁がなく、安全のための手すりもない。

 ジジィはスリリングなその場所にあぐらを書いて座り込み、彼方の塔から上がる光を見やった。


 飛んできたモモゾウをそのあぐらの上に乗せて、引退した老人が猫を撫でるように小動物かわいがっていた。


「見ろ、赤い塔から光が消えた。お前の仲間もやるじゃねぇか」

「よかった。ディシムの子も無事ならいいが……」


 ジジィと一緒に風を浴びながらまた待った。

 戦略的価値を失ったからか、階下の魔物は一向にここ最上階に上がってこなかった。


「お、勇者カーネリアたちも勝ったようだぞ。だが、これは、はてな……?」


 さらに待つと、東の白の塔からも光が消えた。

 だがジジィがいぶかしむ通り、足下で繰り広げられている人と魔物の戦いはまだ終わっていない。


 カーネリアが魔将を討ったのなら、多くの敵軍があそこから消滅するはずなのに、なんの変化も起きていない。


「どうやら俺たちは読み違えたみたいだな。魔将アーザゼルは、捨て石部隊に任せた蒼の塔にいると見るべきだ」


 ペニチュアお姉ちゃんが心配だ。

 不死であろうとも、敵に捕まれば何をされるかわからない。


「捨て石部隊か? どっとかっつーと、ありゃ決死隊ってのが正しいんじゃねーか?」

「……アンタにしては細かいことを気にするんだな」


 死にに行くやつの名前を聞くのも気が引けて、どんなやつらがあの塔に向かったのか聞かなかった。


 連合軍を率いるのは、内戦で世話になったリステン王国のジェイナス・リステン将軍と、軍師のリックソンだ。俺とあのジェイナスとは今でも気が合わなかった。


「あっちはペニチュアお姉ちゃんの他に誰がいるんだ?」

「ああ、お前には黙ってろって言われてたんだが……。なんつったかなぁ、アイツら……」


 なぜ俺に黙る必要がある。

 俺が敵と見なしている相手といえば、人攫いとカドゥケスの連中くらいだ。


「確か、ガブリエルと、ベロスって野郎だったかな……?」

「なっ、何……っ!?」


 驚いた。ついこの前まで敵だった2人だ。

 それがまさか、最後の最後で俺たちに加勢してくれるだなんて……。


 あまりに意外な展開に、俺はしばらく呆然と蒼の塔を見つめるしかなった。


「まあ大丈夫だ。あのツラ構えなら刺し違えてでも敵を討つだろうよ」

「やつらがそんな顔を……? やつらとはとても思えん……」


「まあおとなしく見てな」


 ジジィの隣にしゃがみ込むと、モモゾウが俺の胸の中に入り込んだ。

 ここは風が強いので、まあこちらも腹巻き代わりになって悪くない。


「決死隊か……。内戦から逃げたあいつらがそんな戦いに加わるとは、やはり信じられん……」

「ドゥ、お前の最期の戦いだって、やつら知ってたみたいだぜ」


「ますますわからん。俺たちの間に友情はない。あの2人とはまるでそりが合わなかった」

「なら、友情は動機から外れるな。他の理由だろ。男が命を賭けるだけの、他の理由だ」


 蒼の塔での戦いが、どうかベロスとガブリエルの勝利で終わりますように。

 そう己が祈っていることに気づくと、ますます俺は複雑な顔付きであの塔を睨むことになった。


 足下で繰り広げられている悲惨な戦い。これを今すぐ終わらせることができるかどうかは、ガブリエル、ベロス、ペニチュアお姉ちゃんの奮戦にかかっている。


 もしベロスとガブリエルが魔将を討てば、やつらは内戦での罪を勲功で贖うことになる。2人には勝たなければならない理由があった。


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