表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

172/192

3-1.決戦前夜 - 100年後がどうなろうと、俺の知ったこっちゃない -

 クロツェルシュタインの人間は盗賊ドゥのことをよく知っている。

 盗賊ドゥは目的のためなら味方すらも騙し、隙あらば出し抜く。


 内戦ではアイオス王子に化けて、彼を勇気ある英雄に仕立て上げた。

 大河を挟んだ膠着状態の戦況の中、独断で王城に忍び込んで内戦を集終結させた。


 盗賊ドゥはそんな油断ならない男だ。

 今回もまた自分たちを出し抜こうとしているのではないかと、ペレイラ王たちが疑うのも当然のことだった。


『ドゥ殿。よもやドゥ殿は、密かに魔王を討つつもりではあるまいな……?』


 それだけはまずいと彼らは言う。

 王やギルモア、懐かしいところでは大神殿の祭司長まで俺が滞在する客室を訪ね、魔王だけは討つなと警告してきた。


 うっとうしいがこちらの狙い通りだった。

 彼らは俺が抜け駆けをして魔王を討つつもりだと、そう勘違いしてくれた。


 城に5日ほど滞在すると、作戦の概要をギルモアから伝えられた。


『これは我らの忠誠の証……』


 あの日、死の指輪から逃れるために彼は自らの指を断ち切った。

 その指があった場所には、今では勲章のように煌びやかな銀の義指がはめられている。


『指は失いましたが、我々は誇りと名誉をいただきました。まさかあの後、貴方に出し抜かれるとは思いもしませんでしたが……』

『俺はただ自分の故郷を守りたかっただけだ』


『そうでしょうとも。では、作戦の詳細となりますが……』


 5日もこんな城をねぐらにすることになったのは、各国首脳部の擦り合わせを待つことになったからだ。ようやくまとまった最終決戦の詳細を、ギルモアが饒舌な口で教えてくれた。


 狙いは魔王城。魔王城はここ中原の北西部にある。

 そこは古来より人が住むには向かない荒れ果てた土地で、魔王が所領としているため誰も近付かない場所だった。


 人類への攻撃を行っているのは魔将たちだけで、魔王とその軍勢は常に防衛に徹している。

 彼らはこちらから攻撃をしかけなければ牙を剥くことはないため、今日まで監視だけに留められていた。


『魔王城の周囲には4つの塔と結界があります。この結界を破壊しなければ、内部に入った者は全身が腐って死ぬことになります』

『抜け駆けをするならその後ってことだな』


『ドゥ殿……。我々は貴方のことを信じておりますよ……』

『本当に信じているやつは、そんなこと言わないんじゃないか?』


『前科がありますので』

『俺の刑期を数えたら、100回生まれ変わってもつぐない切れないだろうな』


 各国の精鋭をかき集め、その塔までのルートを確保する。

 そして選りすぐりの精鋭の中の精鋭を、その塔に侵入させる。


『調べによると、最後の魔将アーザゼルは4つ塔のうち1つにいるようです』

『ちょっと待ってくれ、敵中枢の内情をよくそこまでつかめたな?』


『これも貴方の功績と言ってもいいでしょう。情報源は、貴方が捕らえた人狼パブロですよ』

『ああ……。アイツか……』


『最終決戦の日までにこちらでアーザゼルの居場所を特定しておきましょう。貴方はアーザゼルの首を取って下さい』

「わかった』


 妙だと思った。パブロの話がデタラメだという線もあるが、それ以上に魔将が前に出てくることに違和感を覚えた。


 だがあの少年――バエルのことを思い出すと、魔将アーザゼルの行動に多少の理解もできた。


『どうされましたかな、何か気になることでも?』

『その魔将アーザゼルも、決戦を望んでいるのかもしれないな。わざわざ前に出てくるってことは、そういうことだろう』


 ギルモアには敵の心情をくむような発想はなかったようだ。

 俺の言葉に手を打って納得していた。


 敵もこれが最後の戦いだと理解している。

 全ての魔将が討たれ、勇者が逃亡を選ぶことで、この世界の秩序が保たれる。


 彼ら魔将は、勇者に討たれるために存在していると、そう言えなくもなかった。


『決着を付けて下さい、ドゥ殿。そして魔将アーザゼルを討ったら……その……』

『俺とカーネリアは味方を捨てて逃げる。姿をくらまし、もう二度と表舞台には戻らない』


『はい……。勇者が逃げたと、全軍に伝令を流し、撤退の口実にします……』


 魔王は討ってはならない。

 勇者が逃げれば、勇者と魔王の戦いは終わる。


 不毛な地で消極的な防戦に徹する魔王への興味は薄れ、魔将が復活するまでの仮初めの平和が訪れる。


『私は貴方の父エリゴルに、同じ犠牲を強いました。勇者ルージュとアッシュには華やかな栄光があったというのに、我々は二人から全てを奪い取ったのです』


『気にするな。俺もカーネリアも栄光なんて興味ない』

『貴方が望むなら……魔王を討つといいでしょう……。貴方にはその権利がある……』


『ああ、100年後がどうなろうと、俺の知ったこっちゃない』


投稿が遅くなり、申し訳ありません。

完結までもう一息、がんばりらせていただきます。最後までどうかお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ