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2.嘘

「いいえ、それより王がお部屋でお待ちですのよ」

「行きましょう、ドゥ様」


 どこか甘い声で名前を呼ばれた。

 マグダラのことが気になったが、ここでマグダラに意識を向けると王子は不快に思うだろう。


 アイオス王子と部屋を出て、王の部屋を訪ねた。

 マグダラも会議に加わるようだ。後ろを付いてきていた。


「遙々よくきた、真の英雄よ」

「そっちも元気そうでよかった」


「すまん……ドゥ殿。貴殿と御子様には、何度謝罪しても足りぬ……」

「その話は聞き飽きたからもういい」


 秘密会議の会場は王の部屋だ。

 出席者は国王ペレイラ、アイオス王子、マグダラ、カーネリア、エリゴル、それにギルモアだ。


 ギルモアと盗賊王のジジィは同窓会感覚というか、貴族と盗賊の立場を越えてすっかりなれ合っていた。


「ではアイオス、進行はお前に任せる」

「は、はい、父上!」


 秘密会議が始まった。

 テーブルを囲み、参加者たちはそれぞれの考えを語り、いかに確実に魔将を討ち、魔王を討たずに撤退するかを話し合った。


 その打ち合わせそのものはあまり長引くことはなかった。

 王と王子は既に決戦の準備を進めていて、勇者の逃亡での幕引きで戦いを終わらせる筋書きで計画が決まっていた。


 勇者カーネリアの腹には勇者ドゥの子がいる。

 2人は子供の命が惜しくなって、魔王との決戦から逃げた。そういった脚本で決まった。


「では、この通りに事を進めよう。ドゥ殿、御子様、あらためて心からお詫びを――」

「待った」


「ドゥ殿……?」

「黙っていたが、やはり言っておかなければならないことがある」


「それはもしかして、先ほどのマグダラさんとの密談ですか……?」

「そうだ。実はな……勇者の真の力を引き出す秘宝が発見された。これがあれば、次の時代の魔王に対抗できるかもしれない」


 嘘だ。だがおかしなことに皆がその話を信じた。


「そこのジジィが隠し持ってたんだ。これがその秘宝だ」


 俺は『奥の手』を見せた。

 誰もが声を上げた。カーネリアと盗賊王のジジィをのぞいて。


 ジジィはやはりこれを知っていたようだ。

 かつて俺に警告したくらいだ。知らないはずがなかった。

 勝手に名前を使われても、いつもの余裕で口裏を合わせてくれた。


「だ、だが、ドゥ殿……。それで未来が救えるとは……」

「反対か?」


「確証に乏しい。私は反対だ……」


 王は魔王を討つことに反対した。

 そう言ってくれると思っていた。


 彼の言葉はもっともで、最終的には魔王を討たずに勇者が逃げるという、本来のストーリーが選ばれることになった。


 何度も何度もペレイラ王は俺に謝罪した。

 そう仕向けた側としては、申し訳なくなってしまうほどに、彼は俺とカーネリアの運命に心を痛めてくれていた。



 ・



「よう……どこで見つけたんだよ、ありゃ……?」

「ちょっとそこでだ。アンタをだしにして悪かったな」


 会議が終わると、ジジィに庭園の陰へと引っ張り込まれた。

 機嫌は非常によさそうだが、だいぶマジの顔だった。


「詐欺の技まで俺を越えやがって……。お前、味方ごと全てを騙すつもりか……?」

「俺はアンタと違う。俺は、カーネリアが名誉を失う結末など認めない。なら、世界全てを騙す」


 ジジィの顔から笑いが消え、人の肩へと手を置いた。

 認めるような顔だった。


「それがあったら、俺だってルージュに同じことをしていた……。カーネリアお嬢ちゃんを守ってやんな……」

「ああ。それに、この奇策が成功すれば――」


 ジジィの肩へと手を置き返した。

 ジジィは俺のことをまだまだガキだと思っている。少し驚いていた。


「アンタとも別れずに済む。俺はアンタとずっと一緒にいたい」

「ド、ドゥ……」


「少しは親孝行させろ」


 ジジィの目に涙が浮かんだので、この勝負は俺の勝ちだ。

 あの飄々とした孤高の盗賊王ともあろう者が、俺を両手で包み込んで泣き声を上げた。


 ま、失って嬉しいものではないだろう。

 こんなひねくれ者でも、彼にとって俺は息子も同然だ。


 ジジィと俺とカーネリアは、共犯となって世界全てを騙す計画を始めた。


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