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エピローグ 1/2.救い無き世界

※エピソード17-2が抜けていました。

 報告して下さりありがとうございました。対応が遅くなり申し訳ありません。

 ジジィの話を要約するとこうだ。

 俺たちのこの世界は【人間牧場】だった。


 魔王とその軍勢はこの世界の管理システムの1つで、皮肉なことにやつらは俺たちから搾取した【魔力】を材料にして造られていた。


 だったらそのシステムを破壊すればいいだろうと誰もが思うが、そう簡単にもいかない。


 俺たちを牧場の家畜として飼育している存在――ジジィが使う便宜上の言葉で【神族】とされる連中は、数多(あまた)の世界を我が物としている。


 世界そのものを1つの牧場として、人が牛から乳を搾るように魔力を吸い上げているという。

 何があろうとも覆すことのできない、アリと巨人のような関係だと説明された。


 そして彼らにとって、人類が増えすぎることは魔力牧場の生産性を大きく落とすことになる。


 文明のレベルが上がり、俺たちが魔力を自ら活用するようになると、当然ながら牧場の生産量も落ちる。

 だからそうならないように人類を間引き、文明を破壊する役割を持たされたのが、魔王とその軍勢だった。


 魔将バエルはその真実を知っていた。

 だから俺たちにああ言った。人類は最初から詰んでいると。


 魔王を倒すべきか。

 それとも過去の勇者がそうしたように、魔将だけを討って、世界から姿をくらますか。


 俺とカーネリアはまだ答えを出せていない。

 どちらの選択肢を選ぼうとも、この世界が救われることはなかった。


 ここは救い無き世界だ。

 俺たちは親族の手のひらの上であえぎ苦しむ哀れな家畜だった。



 ・



 王都に戻った翌日の昼には、勇者の凱旋パレードがあった。

 俺は参加したくなかったのだが、まあいつものようにカーネリアに泣きつかれて付き合うことになった。


 わかってはいたがジジィは付き合ってはくれなかった。

 魔将とヴァンという二つの恐怖から解放されて、人々の興奮は最高潮に達していた。


 人々は諸国からの援軍と友情に感謝し、援軍は必要のなくなった余剰物資を王都の民に振る舞った。

 誰もが幸せに笑う良いパレードだった。



 ・



「ジジィ、アンタの話だが1つだけ事実と噛み合わないことがある」

「細けぇこたぁいいだろ、こうしてまたバカ笑いできるんだからよぉ……?」


「アンタはずっとあの妖精の国で石になっていた。なら、俺たちと一緒に暮らしていたアンタはなんなんだ?」


 それから夜になると、カサリアのあのレーベ小宮殿で晩餐会が行われた。

 これも断りたかったんだが、カーネリアが半泣きで付き合ってくれと言うので、ジジィと一緒に参加することになった。


「なんだよ、わかんねぇのか?」

「わかるわけがない。同時に同じ人間が2カ所に存在できるわけがないだろう」


「できるぜ?」

「どうやって?」


 ジジィは給仕からワインボトルをぶんどって、品もへったくれもないラッパ飲みで酒をあおった。

 ボトルを突き出されると俺もそれに乗って、薫り高いそれを口に含むと相手に突き返した。


 イス? テーブル? 着席?

 そんな言葉は俺たちにはない。俺たちは盗賊だ。


「1つだけあるだろ? お前も経験したことだ」

「……一緒に暮らしていた頃に、ヒントがあるってことか?」


「そうだ」


 ジジィにとってはついこの前だ。

 俺にとっては深い感慨のともなう思い出も、ジジィにとってはさしたることではなかった。


 仕方がないとはいえどうもそれが心外だった。


「わからん……。それはモモゾウがくる前か? 後の話か?」

「そりゃイエスでもありノーでもあるな」


「真面目に答えろ……」

「おいほい、はぐらかしてなんかいねぇぜ? 事実、そうなんだからよ……?」


 モモゾウと出会った頃にヒントがある。

 そう受け取るなり、俺はハッと言葉の意味に気付いた。


 ある……。確かに、同じ人間が同時に2カ所に存在する方法がある。

 だがそれは、俺にとって、認めがたい残酷な真実だ……。


 どうしてもその真実を受け入れたくなくて、俺は視線をさまよわせていた。


「だが……その方法を使ったとしても、肉体が必要だろう……。どうやってもう1つ、自分の肉体を生み出したんだ……?」

「そりゃ言えねぇな」


「教えろ、家族だろう。どれだけアンタのことを心配したと思う……」

「ドゥよ、お前カーネリアちゃんの悪い部分も似ちまったなぁ……? そんな細けぇこと忘れろよ」


「アンタはこのまま、家族に素性を秘密にしたまま生きるのか?」


 そう強く詰問すると、ジジィはボトルをあおり、少しだが考える素振りを見せた。


「……人狼、ありゃヤベェな。アレが本格的に社会へと浸食していたら、この戦いはバエルの1人勝ちだったろうな」


 人狼とバエル……? なぜ急にそんな話になる?

 あまりに唐突で不思議に思ったが、ジジィは答えを言っていた。


 そうだ、あのバエルだ。

 人狼を生み出すほどの技術を持つあの少年ならば、入れ物となる肉体を造り出せるかもしれない。


 バエルと盗賊王エリゴルは恐らくは共犯だった。


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