18.勇者パーティの汚れ役
※差し替えにより17-2話が追加されています。
抜け落ち申し訳ありませんでした。
「ルージュッ!!」
ジジィのいる丘の上に立ち寄った。
カーネリアがそれに付き合ってくれて、ペニチュアお姉ちゃんが俺たちを不機嫌そうに見送ってくれた。
しかし、また思わぬことになった。
石になったジジィが消えていた……。
しかも俺たちがそのことに驚くと突然に声が上がって、石化して動けなくなっているはずのジジィが、目の前に飛び込んできた!
「わっ、うわぁぁっ!? た、助けてっ、助けてドゥッッ?!」
「ルージュッ、会いたかった! 会いたかったぜ、ルージュッッ!」
「おい、ジジィ……。人の親友に何をしてくれてるんだ……」
長い石化の影響か、ジジィはすっかり我を忘れていた。
「俺だ、アッシュだっ! 忘れちまうなんてひでぇだろっ!!」
「ぼ、僕はカーネリアッッ、僕は……僕はドゥの彼女だっっ!!」
それは光栄だが事実と異なるな。
「な、何ぃっっ!?」
いや、だがカーネリアは賢かった。
彼女はそう叫ぶと、盗賊王エリゴルはカーネリアの顔と燃えるような赤毛をまじまじと見て、抱擁をゆっくりと解いてから頭をかいた。
それから俺とモモゾウではなく、自分の手足をやけに物珍しそうに見つめだした。
「おい、俺ともモモゾウは無視か? 一応俺たちは、アンタのことを家族だと思っていたんだが……?」
「石化が解けたのか……。バエルを、殺ったのか……?」
「……ああ」
「じゃねぇと、この石化は解けねぇよな……。そうか……よくやってくれたな、ドゥ」
言う割にあまり嬉しそうではなかった。
「どういうことなんだ? 魔王に石にされたんじゃないのか?」
「ああ? 俺を石にしたのはバエルのやつだ。妖精どもが勘違いでもしたんじゃねぇか? おおっ……!?」
モモゾウと俺はあふれる感情のままに、ジジィの胸に飛び付いた。
やっと会えて、やっと言葉を交わせたというのに、いつもの調子を崩さないジジィに俺は苛ついた。だから、感情を態度で伝えた。
会いたかった。心配した。無事でよかった。
「お爺ちゃん……会いたかった、会いたかったよ、お爺ちゃん……」
「お、お前……。モモゾウはともかく、ドゥ……。お前がこうして俺にデレる日がくるたぁなぁ……?」
「当然だろ、アンタがのん気に石化している間、こっちは死ぬほど心配した。アンタの帰りをどれだけの日々待ったと思う……。もう、死んだと思っていた……」
「いやぁ、けどよぉ……。お前、お前はそんなに素直じゃぁなかっただろ……?」
「まあな」
「嬉しいけどよ、なんかこっちは変な気分だわ、ハハハッ!」
「……彼女の影響を受けたんだ。カーネリアは尊敬に値する人間だ」
半分本気、もう半分は皮肉で言ったつもりなのだが、カーネリアは照れはしたが俺の賞賛を否定しなかった。
そんな彼女はジジィの注目に逃げるように一歩下がって、さっきのがさっきのなのでだいぶ警戒をしていた。
「もしかして、お前さんが今の時代の勇者か? 俺の息子が世話になったな」
「い、いえ……っ。むしろ、ドゥには助けられっぱなしで……」
「ハハハッ、そうかそうかっ!」
「あっ、でもっ、僕もドゥのことを心から尊敬していますっ!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか! おう、こっちこそありがとよ! 世の中の全てを憎んでいた悪ガキが、まさかこんな真人間に成長するたぁなぁ!? 俺も予想外だわ、ダハハハハッ!」
口の減らないジジィだ。
まあ、事実だろうがな……。
カーネリアと出会わなければ俺は、俺を救ってくれなかった世界への憎しみを原動力に、今も生きていただろう。
「ジジィ、アッシュっていうのはアンタの本名か? 今日まで本名を俺たちに隠してきたのか?」
「ハハハハッ、細けぇことを気にするやつだなぁ! 俺はエリゴルだっ、もうアッシュじゃねぇ!」
「エリゴルさんは、本当に勇者パーティの一員だったのですか……?」
「そこはお義父さんって呼んでくれや」
「えっ?! そ……そこまでは、僕たち、進んでは……っ」
カーネリア、いちいちジジィの言葉を真に受けていたら気が持たんぞ。
「俺はな、正規のメンバーじゃねぇ。勇者パーティのバックアップ役として雇われたんだ」
「なんだって……?」
からかわれているのかと咄嗟に思うくらいに、それは身に覚えのある話だった。
「ギルモアって名前の貴族の若造がいてなぁ……。コイツがえらく口の回る野郎で、そいつに推薦されちまったんだよ」
「ギルモア様がっ!?」
「おう、まだ元気だったか、あの野郎」
「そんなわけでな、俺は勇者ルージュのパーティを陰から支援していた」
貴族ギルモア。ジジィのことをよく知っているようだったが、まさか俺が2人目の汚れ役だったとはな。どこまでも食えない男だ……。
「ところでだがジジィ」
「なんだ、息子よ。はっ、マシな顔するようになったじゃねぇか!」
「なぜ勇者ルージュとアンタは、魔王を討つのを止めたんだ?」
「ソイツは……。そうか、バエルから聞いたんだな……?」
己を石にした相手だというのに、ジジィはバエルを憎んでいるようには見えない。
「そうだ」
「残る魔将は何体だ?」
「ラスト1だ」
「そうか、成長したな……。だが、魔王は討たない方がいいかもな……」
「理由は? なぜ勇者ルージュは逃げたんだ?」
そう聞くと、普段あれだけ大らかなジジィが俺を鋭く睨んだ。
よっぽど気に入らないセリフだったらしい。
「逃げたんじゃねぇ……」
「ならどうして姿を消した?」
「魔王を斬ったら、詰むってことに気付いちまったんだよ……」
「詰む……? 災禍の根元を討てば、それで解決ではないのか?」
ちなみにモモゾウは安心したのか、ジジィの胸元に入り込んで眠ってしまっていた。
「魔将と魔王はこの世界の仕組みそのものだ」
「それは、どう意味なのです……?」
「あの連中は、この世界の人口、この世界の文明レベルが上がりすぎないように、人間の天敵として創られた存在なんだよ」
「創られたって……それは、誰にですか……?」
ジジィはその問いに答えなかった。
この話において重要なのはそこではないらしい。
「なぜ俺たちの天敵を倒してはいけない?」
「ハッ、それはな……」
ジジィは俺から視線を外し、何かを思い出すように彼方を見た。
「魔王をぶっ殺すと――その100年後に、比較にならねぇほどヤベェ魔王と魔将が生まれるからだよ……」
「う、嘘ですっ、そんなこと神殿の人たちは僕に何も教えて――」
「言う必要ねぇだろ」
「え……っ」
「真実を知ればあるのは絶望だけだ。俺たち人類は、滅びを迎えるその日まで魔王たちと戦い続けなければならないんあんて、知る必要ねぇだろ……」
ジジィは人をからかうのが大好きだが、必要のない嘘を吐く人間ではない。
ジジィが言うなれば、どうもわからんがこれが真実なのだろう。
そしてジジィの言葉が真実だというならば、魔王を考えなしに討つのは極めて危険だ。
「なら、俺たちの旅は次の魔将を討ったところで終わりにするべきなのか?」
「俺たちはそうした。けど、お前らはお前らの好きにすりゃいい。100年後は地獄かもしれねぇが、向こう100年は天国だ」
勇者ルージュと、そのバックアップのアッシュたちは100年後の未来を選んだ。
魔王の手足である魔将だけを討ち、姿をくらました。
再び魔将が復活し、世界を混乱の渦に飲み込むと知りながらもだ。
「酷い選択問題だ」
未来を信じて魔王を倒すか、未来を信じずに旅を終えるか。
選びがたい二択を俺たちは迫られていた。




