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13-2.こっそり帰ってきた追放者 - 盗賊 -(ざまぁ回

・盗賊ドゥ


 正直に言わなければならないな。これはこれで結構楽しい。

 魔将討伐の旅が無事に終われば、ヤツらの豚箱行きが決まっているのも大きい。


 俺はその後も行く先々でサポートと不幸な事故をプロデュースしていった。

 5つの秘宝を確保した彼らは魔将の城を目指している。


 ただカーネリアが以前危惧したように、あの編成で強力な魔将ヴェラニアと激突するのはいささかの不安があった。

 旅が成功すれば、吟遊詩人たちは歌うだろう。


 ベロスは旅先で5回も漏らしたうんこたれで、マグダラは宝石を見つけるたびに罠に引っかかるアホ女で、ガブリエルは尻に針が刺さったまま旅をした痛々しい男だと。


「マグダラァァーッッ!!」

「お兄様ぁぁーっっ!!」

「今のは宝石を拾おうとしなかったら避けられただろう、なぜ引っかかる……」

「全くだ。愚かなやつめ」


「ベロス卿はその、少し僕たちから離れていただけると……」

「失礼な、今日は漏らしていない!」


「鎧に匂いが染み付いているんですっ!」

「うんち臭いやつめ、離れろ離れろ!」


 本当にこいつらで大丈夫なのだろうか……。

 既に命をかけての魔将討伐というムードではなかった。


「ドゥ、もうちょっとでお城だし、ボクチンたちで弱らせちゃおうよ」

「……それもそうだな。このままだと勝てなそうだ」


 勇者カーネリアたちが魔将の城の結界を解くのを見届けると、俺は一足先に城の内部に潜入した。



 ・



・勇者カーネリア


「妙だな、門が開いている……罠か?」


 きっとそうじゃない。ドゥが開けたんだ。

 ドゥは僕たちに城門前なんかで消耗されたくなかったんだ。


「変ですわ……。敵がおりませんのよ……?」

「いいではないか、妹よ。魔将ヴェラニアは高慢な男と聞く。部下など頼らずに俺たちを倒せると思っているのだろう」


 それもきっと違う。ところどころにモンスター金貨が散らばっている。

 僕たちのためにドゥが道を作ってくれたんだ。


 ドゥとあのモモゾウが連携すれば不意打ちなんて簡単だ。敵の技量やパワーは恐らく問題にならない。


「ゆ、勇者よっ、よくぞきたな! だ、だが……だが少し待ってくれっ、装備が、装備を盗まれて今は戦えない!!」


 玉座を目指して進むと、魔将軍ヴェラニアの幹部たちが待っていた。

 彼らはなぜか下着しか着ていなかった……。


「キャーッ、変態ですわ!!」

「マグダラに変なモノを見せるなっ、変態どもがっっ!!」

「よくわからんがこれは、好機……!!」


 僕の仲間たちは武器も防具も持たない戦士たちを一方的に殺戮して、それぞれを大きな金貨に変えた。なんてむごい……。


 そこからフロアを抜けて、階段を駆け上がる。施錠されていない大きな扉を蹴り開くと、魔将ヴェラニアがそこで――その、待ちかまえてはいなかったけれど、とにかく居ることは居た……。


「待て! 少しだけ待て! 少しでも戦いに誇りがあるならこのヴェラニアが装備を整えるまで待て!」

「ひっ……?! こ、この城は変態ばかりですのっっ!! お兄さまぁっっ!!」

「俺よりでかいとはけしからん!! 死ね、変態!!」

「我々と激闘を繰り広げたことにしてやる。我が名誉のために死ね」


 酷い……。

 でも一応、人類の未来がかかった戦いだ……。


 僕たちは卑怯なことを承知で、パンツ1枚の魔将ヴェラニアを取り囲んで、抵抗に苦戦はしたけれど最後はどうにか討ち取った。


「ガブリエルよ、これは提案だ。俺たちの武勇伝が、パンツ1枚の変態集団との戦いとあってはこれまでの苦労が台無しだ……」

「それもそうだ、口裏を合わせるとしよう……」

「あら、ところで勇者様は……?」


「何を言う妹よ。む……いないな。どこに消えた……?」

「……もしや、逃げられたのでは?」

「逃げるって、なんで御子様が逃げる必要があるんですの?」


 僕も最初はそう思った。でも突然現れたドゥが指先を口に当てて、僕を静かに下の方に引っ張ってゆくものだから、信頼のおけない仲間たちより彼に従うことにした。



 ・



・魔将ヴェラニアから全装備を盗んだ男


「カーネリアッ、やっと会えた!」

「ドゥ! それにモモゾウくんっ!」


 俺は今、勇者カーネリアを引っ張って城の宝物庫を目指して歩いている。

 喜びに目を輝かす彼女に微笑み返して、急ごうと足を早めた。


「カーネリア、帰りは俺たちと行動してもらう。この先、あいつらとつるむのは危険だ」

「それは、どういうことだ?」


「あいつらは虚偽の報告を国に送っていた。そのせいで国では国王やギルモアが窮地に立たされている」

「それ、本当なのか……?」

「本当だよっ、ギルモアのお爺ちゃん、あとちょっとで処刑されるところだったんだよ……。あんなの酷いよ!」


「魔王と結託したギルモアと王は、勇者パーティに盗賊ドゥを潜り込ませて、数々の妨害を働いたそうだ」

「そんな……そんな嘘を吐くなんて、そんなの酷いよ……。何もかも君が支えてくれたおかげで、この戦いだって勝てたのに、こんな扱いをするなんて酷過ぎるよっっ!」


 この様子ならわかってくれそうだ。

 俺は宝物庫の鍵を開けると、目当ての財宝を探して中を回った。


「ドゥがカーネリアを引っ張ったのはね、カーネリアのためなんだよ。あのままあいつらと一緒だと、カーネリアも裏切られるって、ドゥが……」

「あいつらがアンタに真実を報告させるわけがないからな。お、あった」


 軽くて金になる超レア宝石を少々と、虹の水環と呼ばれる秘宝を見つけた。

 そこでカーネリアも俺の意地悪に気づいたようだ。


「それ、あの兄妹が探しているやつだろ。盗むのか……?」

「ああ、これこそあいつらの旅の目的そのものだ。いただいていこう」


 それにこれが消えればそれだけの時間稼ぎにもなる。


「ドゥ……君ってやつは、なんて、なんて悪党なんだ……」

「はっ、最高の褒め言葉だ。さあ、あいつらから逃げるぞ。モモゾウ、斥候を頼む!」

「うんっ、ボクチンに任せて! 帰りはいっぱいおしゃべりしようね、カーネリア」


 まだまだ魔王軍の一角を討っただけだ。

 カーネリアの旅は王都に凱旋した後も続くだろう。ガブリエル、ベロス、マグダラのくそったれ抜きで。


 俺はカーネリアの手を引いて魔将の城を飛び出し、灰色の森を抜けて大切な友人の安全を確保した。

 こうして旅の役目を終えた勇者とともに、俺たちは楽しくて過酷で長い帰路についたのだった。


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誤字脱字報告ありがとうございます。

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