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16.天獄の石

話の区切りの都合により、今回は短くなっています。

 妖精国を歩いてゆくと、俺は道の外れに奇妙な石を見つけた。

 まさか大粒のダイヤモンドかと思い駆け寄り拾い上げると、無色だったはずの石がアクアマリンのような水色に輝いた。


 なんて美しい石だろう。

 妖精の国に落ちていたからには、何か特別な宝石なのだろうか。


「こんなに美しい物を見たのは、初めてかもしれない……」


 すぐに俺はその石をとても気に入り、何も考えられなくなっていた。

 なんて繊細な輝きだ。なんという異常な屈折率で輝く石なのだ。これではまるで石が自ら光を放っているかのようだ。


 俺は立ち尽くし、輝きに心を飲み込まれていた。



 ・



 ピシャリと顔を叩かれたかのような刺激が走って、俺は重いまぶたを大きく開いた。


「ドゥッ、ドゥッ、しっかりしろっ!」

「カーネリア……?」


「よかった、戻ってこれたんだな……」

「なんの話だ……? あ、あれ……あの石はっ、あの石はどこにやったっっ!?」

「ここです」


 今すぐあの石を取り返したい。もう一度手に取ってその輝きを確かめたい。

 俺はラケルの前に飛び込んで、あの美しい石を奪い取った。


 石は半透明の立方体の中に閉じ込められ、触れることができなくなっていた。


「パパ、それはラケルが施した封印よ。その石には、もう二度と触れない方がいいわ」

「どういうことだ……? なぜ、色が無色に戻っている……?」


 角度を変えたり空の光にかざしてみても、石は色のないガラス玉のような鈍い輝きを返すだけだった。


 ガラス玉ではなかったはずだ。

 特別な魅力を持った、墓にまで持って行きたくなる最高の宝だったはずなのに、今はちっぽけなガラス玉にしか見えない。


「ドゥ様、落ち着きましたか……?」

「ああ……冷静を欠いていたようだな……。この石を拾った途端、魅了されて、頭がおかしくなっていったような……」


「それは【デミウルゴスの涙】よ。所有者を魅了し、異常なほどに執着させ、目を閉じると、都合の良い夢を見せてくれる禁断の秘宝よ」


 その名前は、ジジィから聞いたことがある。

 絶対に触れるな、盗むなと忠告された。人を廃人にする力を持っていると言っていた。


「無事でよかったよ……。よだれをたらしながら立ち尽くしている君を見たときは、もう僕は……」

「アンタに情けないところを見せてしまったようだな……」


 俺は封印されたデミウルゴスの涙を空に掲げた。

 何か石になったジジィと関係があるのだろうか。


 ジジィは財宝を盗む。

 特に曰く付きの品を好む男で、以前は常闇の王にまつわる品だって蒐集していた。


 あれ以上にヤバい物だって、集めていたっておかしくない。


「モモゾウ、新しい同居人だ」

「ピィィッッ?! そ、それっ、持って行くのぉーっ?!」


「ああ。これには何か意味があるのではないかと思う。こんな物がたまたま道ばたに落ちているわけがないだろう」

「で、でもぉ……」


「ジジィが盗った物かもしれないのにか?」

「あ、そっかっ! で、でもぉ、大丈夫かなぁ……」


「それはラケルの封印次第だな」


 そう冗談を言うと、ラケルが真に受けて封印を施し直した。

 真面目なやつだと少し呆れたが、麻薬のような危険な性質を考えれば、その念のためは気分の上でもとてもありがたいことだった。


 俺たちはジジィが落としたか、理由あってここに放置した『デミウルゴスの涙』と共に、妖精国をまた歩いていった。


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書籍版ポーション工場1巻、発売中です。

どうか本作共々、応援して下さい。

これからも執筆活動、がんばります。

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