15-2.魔の森ミストガルド - おともだち -
「や、止め……ダメ、ディシム……ッ、こ、困る……」
「もし男に戻って、もかまわない、責任を取る……。って言ってくれたよなぉ、へへへ……っ!!」
「意地悪な奥さんね……。嫌われても知らないわよ」
そこにペニチュアお姉ちゃんが帰ってきた。
気になることがあるからと言って、さっきから場を離れていた。
「お帰り。それでペニチュアは何をしてきたんだい?」
「ただいま、カーネリアママ♪ あのね、ちょっと珍しい人たちを見かけたら、話を聞いていたの」
「え……っ!?」
ペニチュアお姉ちゃんは死霊使いだ。
ラケルが震えた声を上げると、みんなお姉ちゃんの言葉の意味を察したようだった。
「あら失礼ね、今日のお友達は死霊なんかじゃないわ」
「ち、違うんですか……っ!?」
「ええ、妖精よ。そこで妖精を見かけたの」
お姉ちゃんは人をからかっているのだろうか……。
いや、ところがだ……。
「おう、そういやちらほら見るな」
ディシムまでそれに話を合わせてきた。
俺たちは暗闇に包まれた森に視線を送り『いや見えないよな』と顔を見合わせた。
「ほら、この子よ。この子たちに妖精の国にご招待されたの」
「ひえっっ?! な、何かっ、何かうっすらと見え……っ、わぁぁっっ?!」
「何かいる……。これが、あの妖精なのか……?」
お姉ちゃんが手のひらを差し出した。
中は空っぽだ。魔法の素養のあるラケルが声を上げて、続いてカーネリアも妖精とやらに気付いた。
俺には何も見えない。
俺とソドムさんは一緒に首を傾げた。フローズはこの話に全く興味がないようだった。
「妖精の国には人と魔をまやかす結界で覆われているそうよ。だから妖精国に入ってしまえば、バエルの懐に入り込めるんじゃないかしら」
どんなにまゆをしかめて凝視しても、妖精なんてこれっぽっちも見えなかった。
「それに妖精国には人間も1人いるそうよ」
「……俺にはわからん。判断は見えるやつらに任せる」
「ドゥと、同じ。見え、ない……」
どうやっても見えないとわかったので、俺は横になって目を閉じた。
「……お招きにあずかろう。ペニチュアの期待通り、これで敵の懐に気付かれずに入り込めるなら、このチャンスを利用しない手はないよ」
妖精が俺たちを化かそうとしているという可能性はないか?
そう口にしようかと思ったが、ディシムの腹を見て気が変わった。
ディシムには怪我なしで無事にクロイツェルシュタインに帰ってほしい。
「目が慣れてきました! よく見ると妖精さんって、とってもかわいいですね!」
「妖精の国か……。なんだか楽しみになってきたよ」
見える連中が見えない何かを囲むと、ソドムさんが俺の隣にやってきた。
それからどっかりと大きな体を横たわらせた。
「見えない……」
「ああ、全く見えん。心が汚れているからか?」
「ふ……。ドゥは、そんなことない。綺麗な心、している……」
「はっ、ありがとよ……。けど、そういうことを言うから、ディシムとくっつくことになったんじゃないか? つまり、そのやさしさが仇だったってことだ」
「一晩の、過ち……。ドゥも、気を付けた方が、いい……」
「はっ、ソドムさんが言うと説得力しかない。気を付けよう」
俺たちは目を閉じて、明日から始まる妖精国への旅のために身体を休めた。
・
翌日、また少し妙なことになった。
役割が入れ替わってしまったのだ。フローズと俺の。
フローズは俺と同じく斥候の適正を持っている。
加えて昨日はそれらしい素振りも何もなかったのだが、彼女はハッキリと妖精が見えるという。
「なぁドゥよ、あの冷血女、どこの何者なんだ?」
「さあな……。少なくともカドゥケスではないそうだ」
アシッドがカドゥケスの一員であることは、カーネリアとラケルには隠した。
だが万一裏切られた時のために、ディシムや他の連中には伝えてある。
「変だ……。あれだけの戦士、なぜ、誰も知らない……?」
「そうね。社交性が全くないにしても、大きな国から声がかかってもおかしくない驚異的な実力ね」
「そんな人材がどうして北の果ての国で、人斬りなんてしているんでしょうね……?」
あの女が飛び抜けた戦力であり、今回の作戦に必要な人材であることは揺るぎない。
俺は右翼と左翼の斥候活動を交互に行い、仲間と合流するたびにちょっとした小話を交わした。
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