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12-3.人身売買組織ヴァンの最期 - ヴァンは滅んだ -

「止まれっ、それ以上近付くな!! こ、こんなことをして、ゴルブラン王が黙っていると思っているのかっ!?」

「思っているとも! 王は魔将バエルを僕が討つまで、決して僕を殺さない!」


 カーネリアとフローズが一歩前進すると、牽制にきた取り巻きがカーネリアに昏倒させられた。

 フローズの方に寄らなかったのは命が惜しかったからだろう。誰だってそうする。


「その後に報復されるとは考えないのか、お前たちはっ!?」

「その時はその時だ!」


 さらに2人が前進し、やつらの逃げ場がなくなった。残るアジフの取り巻きたちは2名はカーネリアとフローズに一撃で倒され、片方は血溜まりを作ってうずくまった。


「た……助けてくれ、盗賊ドゥッ!! お、お前は、カドゥケスなんだろっ!?」


 アジフは酷い誤解をしていた。


「お、俺と取引をしろっっ! 組織を、組織をカドゥケスにくれてやるっっ、だ、だから頼むっ、そこの殺人鬼を止めてくれ……っっ!!」


 組織を、カドゥケスに売る……?

 そのセリフに少し引っかかった。盟主に指名された俺が、カドゥケス側にいると勘違いして言っただけなのかもしれないが……。


「アシッドは、斬れと言った。だが気が変わった……ドゥ、貴方の判断に任せる」

「う……っっ?! お、俺は人を殺しちゃいないっ、ただ……ただ人を売り買いしてただけだっ!! 需要があるから商売をしていただけなんだっ!!」


 殺せと言い放ちたくなった。

 いや、どちらにしろ生かしてはおけない。ヴァンという組織は魔将討伐の障害だ。


 魔将バエルを撃ち、カーネリアたちを確実にクロイツェルシュタインに帰還させるには、ここでヴァンを無力化させておかなければならない。


「ドゥ……この男を生かしておくことがまずいのは僕もわかる……。でも……」

「カーネリア、貴女はやさし過ぎる。勇者には向いていない」


「ああ、そうだろうね……。君は冷たいようで、よう人をよく見ているよ、フローズ……」


 曇るカーネリアの横顔を見ると迷いが消えた。

 俺は腰に戻していたナイフを引き抜き、命乞いにひざまずく男と同じ高さまで身を落とすと――


「待てっ、ドゥッッ!!」


 喉を一薙ぎにしてヴァンを討った。

 何も言わずともフローズが斬っていただろうが、俺が業を背負うのは今に始まったことではない。


 人攫いのマグヌスは斬れなかったが、赤の他人ならばいとも簡単なことだった。


「なぜ、斬ったの……? 汚い仕事は、人に押し付ければよかったのに」

「それこそ性に合わん。……それに、俺は人攫いが大嫌いだ。つい感情的になってしまったみたいだな」


「嘘が下手ね」

「ドゥ……。ごめん、僕がもっと、強ければ……ごめん……」

「アンタはそのままでいてくれ。アンタのそういうバカ正直で真っ直ぐな姿に、どれだけの人間が救われているのか、もっと知った方がいい」


 俺は立ち上がり、外道のアジフの髪を掴んで、死体を地に引きずって歩いた。

 3階のバルコニーまでやってくると、無惨な死体となったアジフをそこから吊した。


「戦いを止めろっ、ヴァンのリーダー・アジフはこの盗賊ドゥが討ち取った!!」


 それから叫んだ。


「ヴァンは滅びた、たった今、このアジフと共に滅びたんだ!! カサリアの長い悪夢は、この日をもって終わった!! ヴァンは滅びた、滅びたんだ!!」


 剣を掲げ、高々とそう宣言すると、自警団の兵員たちが歓喜にあふれんばかりの声を上げた。


 残っていたヴァンの構成員たちも戦いを止めた。ある者は逃亡を選び、またある者は武器を捨てて降参した。

 まあ、前者の方が圧倒的に多かったが、結果は同じだ。


 勝利の叫びに引かれて、モモゾウと一緒に捕らわれた人々がこのバルコニーにやってきた。

 やわらかなモモゾウの毛並みが高ぶった気持ちを落ち着かせて、目を輝かす人たちが俺を讃えるように取り囲んだ。


 口々に感謝の言葉が紡ぎ出され、まともに聞き取れないほどの騒ぎになった。

 ヴァンは滅びた。勇者ドゥがヴァンを滅ぼしてくれた。ヴァンはもう終わりだ。もう蘇らない。ありがとう。これで帰れる。そんな言葉の洪水だった。


「本当の勇者は貴女なのに、まるであの男が本物のよう……」

「うん。でも胸に燃える正義の心は、僕よりもドゥの方がずっと熱いよ。いつか自分自身を燃やし尽くしてしまわないか、とても心配になるほどにね……」


「そう……。ああいう個体は、初めて見る……」


 俺たちはヴァンを滅ぼした。これで終わりになるというアシッドの予言通りになってほしいと願って、ヴァンは滅びたと喧伝した。


 対してカドゥケスという組織は終わらない。あれはトップが消されようとも、組織が半壊しようとも、滅びずに自己再生するように悪の賢人たちが生み出した古い組織だ。


 組織の結束を強めるために後ろ暗い儀式を執り行い、カドゥケスは社会の一部そのものとなった。


 しかしヴァンはそうではない。その場限りの繋がりで結ばれた連中が、弱者を攫い、その上にあるやつがその上前をはねて、人を国外で売り払うための営利組織だ。


 アシッドが言うには、それゆえにヴァンは破壊可能だということだった。


「どうしたの、ドゥ……? みんな喜んでるんだから、ドゥも笑おうよっ、おーいっ、みんなーっ! 自由になれておめでとーっ! 早く、家族のところに帰れるといいねーっ!」


 頭の上で手を振るモモゾウをそのままにして、俺はふと思った。

 アシッド。グラスという人徳者の陰に隠れて、今回の計画を立案した異形の策士。


 あの男は、もしかして――と。


次回更新、もしかしたら遅れるかもしれません。

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