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12-2.人身売買組織ヴァンの最期 - 最後の商品 -

 ロープが張られた井戸を滑り降りた。

 下部には水がたまらないように柵状の足場が設けられていて、正面には横穴が続いていた。


 俺たちはその暗く妖しい道を歩いた。

 思うところもあるだろうが、カーネリアは沈黙を守り、最後尾としてフローズを監視した。

 フローズという女は理解できない。それには俺も同意だ。


 進んでゆくと遠くに小部屋と薄明かりが見えた。そこでこちらはランプを消して、敵の様子をうかがった。敵の数は少なくとも3名だ。


「俺が中央、フローズが右、カーネリアは左を頼む」


 2人は挟まるように首を伸ばしていた。その耳元にそう伝えると、俺はいつものナイフを抜いた。

 後ろのカーネリアに動揺を感じたが、フローズは止められない。止める理由が俺にはなかった。


「敵ッ――」

「ァ――」

「うぐぁっっ?!!」


 フローズは迷わず見張りを斬り殺した。

 俺の方は動脈を避けて声帯を斬り、ペニチュアお姉ちゃんから補給した睡眠毒を吹きかけた。

 カーネリアは峰打ちにした剣で敵を吹き飛ばし、壁に叩き付けて昏倒させた。


「さあ行こう」


 部屋のランプから自分のランプに火を移して、フローズの所行についてはあえて追求せずに前進した。

 カーネリアはショックを受けていた。情熱なき殺人者の姿にさらに当惑していた。


 さらに進むと地下道は古めかしい木の扉に変わり、施錠されたそれを軽く解いて奥へと忍び込むと、俺たちは石で覆われた地下室に到着した。

 情報通り、そこは地下空間まるごと1つが倉庫であり、監獄に改造されていた。


「お願いです、家にはまだ3歳の子がいるんです……っ。私が、このまま帰らなかったら、あの子は……っ」

「奴隷は嫌だっ、頼むっ、ヴァンのために働くから俺を売らないでくれよっっ!」

「腹減った……。これじゃ、売られる前に餓死しちまうよ……」


 その監獄に秩序はなかった。平時ならば恐怖による秩序と沈黙が守られていただろうが、今は人員が2名しかいない。これならば生かせる。


 そう判断したところで、フローズが消えた。音もなく石畳の床を駆け、いかにもヤクザ者といった風体の男2人を、俺たちの前で斬り殺していた。


 こんなところで働いている時点でまともじゃない。

 逃がしてくれとむせび泣く人々の姿を見れば、やり過ぎとは思うが同情の心は欠片も生まれない。


「上で戦いが始まった。盗賊ドゥ、勇者カーネリア、後は任せる」

「ドゥ、僕はアイツを追う! ここは君に任せた!」

「おい……」


 さっきまで静かだったのに、上の方で戦いが始まっていた。

 闇に乗じて接近できるところまで接近して、発見され次第突入するという段取りだった。戦いが遅れたということは、それだけ潜伏の方が上手くいったのだろう。


「勇者様だって!?」

「俺は知ってるぞっ、盗賊ドゥって言ったら、シルヴァランドの英雄だ!」

「助けてっ、お願い、助けて! もう嫌っ、家に帰りたい……っ!」


 苦手な役回りだ……。

 こういうのはカーネリアの方がずっと向いているというのに……。

 いや、施錠を解くならば俺が残るのがベストなのか……。


「ドゥ、鍵持ってきたよっ!」

「でかしたモモゾウ!」


「えっへんっ、重たいけどがんばったんだからっ!」


 1つ目の施錠を解くと、モモゾウが引っ張ってきた鍵束を拾って、囚人の女に投げ渡した。

 女の顔が輝くのが見えた。


「すまんが手伝ってくれ」

「は、はいっ、勇者様!」


「勇者はカーネリアで、俺はバックアップの盗賊だ」


 数えて10。健康そうな大人に絞って監獄の鍵をピッキングした。

 全ての鍵を俺が解く必要はない。彼ら自身に任せればいいことだった。


「ありがとう勇者様っ、恩に着るよっ!!」

「だから違う……」


「ありがと、ゆうしゃさま!」

「ぼくたち、おかあさんのところに、かえれるんだ……っ! ゆうしゃさま、ありがとうっ!!」

「感謝するなら自警団のアシッドとグラスにしろ。俺はあの2人に動かされただけだ」


 何度やってもこういうのは胸に凍みる。

 こうして子供たちを助け出すと、胸が温かくなって、救われたような心地になる。


 少なくとも、普段の傲慢な汚れ仕事とは大違いだ。

 胸を張って、自分は正しいことをしているのだと誇れた。


「しばらくここに隠れていろ。上が片付いたら自警団の者が呼びにくる。モモゾウ、見張りを頼む」

「うんっ、任せて! ここのみんなは、ボクチンが守るねっ!」

「ゆうしゃさまっ、がんばれーーっっ!!」

「ありがとうっ、アンタこそが救世主だよ、英雄ドゥ!」


 だが性に合わん……。

 地下監獄を抜けて地上に飛び出した。


 するとそこにはうめき声を上げる悪党どもと、声を上げることもできない遺体が転がっていたとくる。

 前者はカーネリア、後者はフローズの仕事だ。


 その恐ろしい嵐は上の階に向けて続いており、後を追って階段を駆け上ってみると、砦3階の大部屋に俺たちの標的の姿があった。

 ソイツは恐らくはここにいるだろうと予想されていた。


 名はアジフ。犯罪組織ヴァンのリーダーだ。

 姿は小太りのどこにでもいるおじさんといった風体で、服装も地味で貧乏臭いコットンシャツ姿だ。体付きも鍛え上げているとは言い難く、どこからどうみても悪党には見えない。


 トップであろうとも、こういう地味な格好をするのがこちらの文化だそうだった。


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