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24-2.人狼狩り - まんまと引っかかっただろ -

・汚れ役


「ドゥッ、急いでっ、急いでっ、人狼が出たよーっっ!!」

「釣れたか! よし聞こえたな、アンタたち! 全軍突撃だっ、餌にかかった人狼どもを包囲するぞっ!!」


 現れたモモゾウに俺が叫ぶと、あまりに野蛮なときの声が響き渡った。

 予定通りに部隊が左翼と右翼に別れ、馬車は積荷をパージして戦車となって突撃を開始した。


「盗賊ドゥ、どうか武運を!!」

「人狼、人狼かっ! ハハハハッッ、本当に出やがったなぁっ!」

「誰だろうとぶっ殺してやらぁっっ!!」


 アベルのやつめ、上手く時間を稼いでくれたみたいだな。

 街道の彼方に人狼どもに包囲された輸送隊を見つけた。開戦はまだしていない。


 左翼と右翼が先攻し、突然の援軍に動揺する人狼どもを取り囲んだ。

 こうなった場合の開戦の合図は、俺からの一撃だとアベルにも懲罰部隊にも示し合わせてある。


 爆走する馬車の荷台から飛び降りた俺は、最も大柄な人狼を狙って銀のナイフを片手に突っ込んだ。


「と、盗賊ドゥだとぉっっ?!!」

「今ですっ、人狼どもを一網打尽にして下さいっっ!!」


 後は戦ってやつらを全滅させるだけだ。

 大きな人狼は銀のナイフを爪で受け止めたが、すぐに火傷をしたかのようにその手を引っ込めた。


 懲罰部隊の装備も銀の剣だ。宮殿にあった銀の燭台を潰して急きょあの王が作らせた物らしい。効果はやつらが可哀想になりくらいてきめんだった。


「気を付けて下さいっ、そいつはあの狡猾なパブロです!!」

「へぇ、ならコイツの首を取れば俺たちの勝ちだな」


 パブロを狙うと、本当にヤツがリーダーのようで他の人狼が加勢してきた。

 そいつらを銀のナイフで切り刻む。つむじ風の通り名のようにすり抜けて、素早い人狼どもの爪や牙をかわした。


 親衛隊の守りは堅く、懲罰部隊は極めて攻撃的だ。

 監獄暮らしでストレスがたまっていたようで、ぶっ殺せるなら誰でもいいって感じの狂いっぷりだった。


「コイツ、速過ぎるっ!?」

「パブロッ、全て貴様のせいだぞっっ!!」

「人間のくせにっっ、女みてぇに小せぇくせにっっ、あ、熱ィィィィッ?!!」


 戦況はこちらの圧倒的優勢だ。俺の方はパブロを含めて4体に囲まれていたが、2体をどうにか敏捷性と機転だけで片付けた。

 そこまで敵を追い詰めると、傭兵の男が加勢してくれて残りもう1体のザコを受け持ってくれた。


 こうして俺は電撃戦をものにして、敵の首魁であるパブロと対峙した。


「アンタは害だ。死んでもらおうか」

「待て、どこからこんな軍勢を用意したのだねっ!? いったい、どうやってっ、我々のっ、諜報網をかいくぐってっ、これだけの兵を――」


「見てわからないのか? あいつらはどこにでもいる悪党だ。あいつらは、監獄から借りたんだよ」

「か、監獄ぅぅぅぅーっっ?!! バ、バカな……バカかね貴様はぁぁっっ?!!」


「まんまと引っかかっただろ」


 お喋りを止めてパブロの首を付け狙った。

 ヤツはでかいだけあって特別な個体らしい。並外れた素早さで攻撃をかわし、けた外れの筋力からのクローでこちらを襲った。


 それをそのまま受け止めるバカはいない。銀のナイフで足下に滑り込むように受け流した。


「ギィィヤァァァーッッ、熱ぅぅぅぃぃぃ!! 止めろっ、金ならあるっ、私を助けたまぇぇーっっ!!?」

「やなこった」


 命乞いをしながら攻撃をしてくる狂狼とさらに刃を交えた。

 やつらによく効く武器こそこちらにはあるが、一歩間違えれば頭や腕が吹っ飛ぶ。


 そこに懲罰部隊の男がパブロを狙って銀の剣を振るった。どうやら残る人狼もパブロと数体だけのようだ。

 立て直そうと距離を取ろうとする狼どもは銀の矢を撃ち込まれ、激痛に地に倒れ伏してうめいている。


「こ、小僧っっ、これで買ったと思うなよぉぉーっっ!!!」

「逃がすかよ、バカ」


 他の人狼が必死になってローザの持つ女神像を狙っていたというのに、パブロは女神像を無視して逃亡を始めた。


 そんなクズ野郎の背中に、俺は銀のナイフと愛用のナイフの2発を投げつけてトドメを刺してやった。いや、それでも死ななかったんだから、恐ろしい生命力だった。


 パブロは――いや、パブロに化けた何者かはついに立ち上がる力を失った。残る人狼どもも次々と一網打尽にされ、世界で最もガラの悪い人狼ハンターたちに目の前で狩られていった。


「待て、その外道はまだ殺すな! 情報を引き出してからだ!」


 カドゥケスの末端がパブロを囲んで刺し殺そうとしていたので止めた。

 俺はヤツの背中のナイフを引き抜き、自分の腰へと戻すと冷たく相手を見下ろした。それから最も気になっていた点を訊いてみた。


「パブロ、なぜアンタら人狼は、こんなちゃちな女神像をそこまでして狙うんだ?」


 そう聞くと、ヤツはそんなことも知らずに自分を追い詰めたのかと、突然に狂ったように笑い出した。おかしくておかしくてしょうがない。そんな狂気的な笑いだった。


 人狼。それは羊の毛皮をかぶった狼だ。人間に似た部分を多く持ちながらも人間ではない。なんとも不可解な存在だった。


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