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23.監獄生まれのウルフハンター

 輸送隊のリーダーはアベルが担当する。危険を承知でローザもそれに加わることになった。アベルは納得できないようだが、今は状況が状況だ。白だとわかっている人員はただそれだけで貴重だった。


 シルヴァランドの監獄は郊外にある。そこは市内で犯罪を犯した者たちを収監する場所で、重犯罪者をのぞく一通りの悪党が集まる。


「不服ですの?」

「いや……印もサインも本物だ。これは王の命令で間違いない……だが、わけがわからない……」


 俺は行きにリーゼロッテを訪ね、事情を伝えて彼女に化けてからここを訪れた。

 案の定ではあるが、彼女の父であるマッカバーン卿に化けていた人狼は行方知れずになっていた。


「でしょうね。ん……」

「な、なんだ……? 俺は、臭うか……っ?」


「いえ、それほどでもありませんわ。獣の臭いなどはしませんの」

「するかそんなものっ! っと、すみませんお嬢様……」


 獄長は20代後半の若々しい男だった。

 自称リーゼロッテの正体が男とも知らずに、訓練で身に着けたこちらの微笑みにまんまと見とれてくれた。なかなかちょろいな、コイツは利用できそうだ。


「では仕事に入らせていただきますの。ここに収監されている者たちの詳しい書類をいただけますか? それが済みましたら、すぐに面接に入らせていただきますの」

「ですがお嬢様……。懲罰部隊なんて、今さらそんなものなんのために、組織するのです……?」


「ふふ……それは、この国を救うためですの」

「ははは……。では、やはりわかりませんが、しばしお待ちを……」


 獄長と話を通して、軽い色仕掛けで味方に引き込んだ。

 彼の部屋で届いた書類に目を通し、候補者をピックアップした。


 ……読み書きの書きの方をちゃんと勉強しておけばよかったと、軽く後悔することにもなったが。まあそういった作業は机の下のモモゾウに全てやらせた。


 そこはもちろん、俺と2人だけになるとモモゾウは『ドゥはモモンガ使いが荒いよぉーっっ!』と、いつもの抗議をしてくれた。


 それから面接の段取りがまとまると、獄長と別れて監獄の一室に移った。

 そこまできたらヴィッグだけを取り外し、腕を組んで面接者を待った。


 理想は人狼とある程度戦えるだけの戦闘力があり、こちらを裏切ることのない収監者だ。収容者800人の中から100名に絞って面接を行った。


「貴様、何者だ……?」

「俺か? 俺は盗賊ドゥ、アンタは傭兵だな? 今すぐここから出たくはないか?」


「王が盗賊を遣わすとは信じられん……。ま、詳しい話を聞こう」

「では本題から入ろう。アンタ、俺と一緒に人狼を狩らないか?」


 傭兵なんかは話が早かった。こんな酷寒の地で厳しい監獄生活をするくらいなら、危険はあろうとも人狼狩りに加わった方が彼らにとってはずっといい。

 20数名の傭兵たちが懲罰部隊に加わってくれた。


「男、なのか……?」

「ああ、理由あって別人に化けなければならなかった。それよりアンタ、元兵士らしいな。名誉を回復するチャンスがあると言ったら、どうする?」


「その顔、たとえ話じゃなさそうだな。もちろん乗るさ。このシルヴァランドは村社会でな、罪人にはとても厳しい土地だ。何をすればいい?」

「ちょっとした狩りだ。少し、スリルがあるかもしれないな」


「勝算は?」

「仕事は正規軍の援護だ。俺も一緒に戦う」


 元兵士たちも話が早い方だった。

 彼が言うとおりこの国においては名誉が大切で、罪人は村八分にされても文句を言えないらしい。


 この作戦が成功すれば国の英雄だ。敵が人狼であろうとも、元が軍人だけあってほとんどが臆さなかった。

 こうして元兵士からは30数名が部隊に加わってくれた。


「おお、盟主ドゥ様!!」

「……止めろ」


「マグヌス様のあの入れ込みよう、こうしてお会いするまで半信半疑でございましたが、なるほどこれは……素晴らしい……。なんなりと私にお命じ下さい、盟主よ」

「できることなら、アンタたちの力だけは借りたくなかったよ……」


 その中でも最も聞き分けがよく頭が痛かったのは、カドゥケスの末端どもだ……。

 組みたくない相手だったが、外道どもの集まりと知った上で今は利用するしかなかった。


「望む望まざるに関わらず、貴方には悪党を従わせるカリスマがあるのですよ」

「そうみたいだな……」


「貴方はカドゥケスの奴隷から始まり、盗賊王に奪われ、そしてその後を継ぎ、華々しい義賊伝説を各地に残された。さらには勇者カーネリアの盟友となり、極めつけはあの英雄伝説です。盟主よ、今や貴方に憧れぬ悪党はこの世におりませぬ」


 カドゥケス内部の権力争いは、ついに人攫いのマグヌスの勝利で終わろうとしていた。

 俺に媚びを売っておこうとする者、大げさに心酔する者。どちらとも付き合いかねたが、今はこいつらを利用する他にない。


「御託はいい、俺に力を貸せ。やつらはアンタらよりも遙かに危険だ」

「は、喜んで、盟主ドゥ様……」


 カドゥケスからは20数名を採用した。こうして俺は合わせて80名の懲罰部隊を編成し、その日は俺もやつらと一緒に監獄の中に滞在した。


「人狼だろうとなんだろうと、アンタが一緒なら何も怖くねぇ!!」

「ヒャハハハハッ、おうよっ、この戦い負ける気がしねぇわっ!」

「ククク……。これでマグヌスのやつに恩が売れる……」

「ありがとう、お嬢(・・)! 俺たちは必ず活躍して見せる!」


 戦いが好きで好きでしょうがないやつ。計算高いやつ。自分の名誉を回復させたいやつ。

 特別に集められた監獄の一角では、多種多様な人間の欲望が渦巻いていた。


 ここにはカーネリアのような正義の士は1人もいない。あるのは身勝手な悪党どものエゴだけだ。それが俺にはしっくりとくる。

 リーゼロッテお嬢様に化けた盗賊ドゥは、彼らと同じ独房の堅いベッドで一晩を過ごした。


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